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隠岐さや香 『科学アカデミーと「有用な科学」: フォントネルの夢からコンドルセのユートピアへ』

本書にはこの論文も組み込まれ、17世紀から18世紀末のフランスの科学をめぐるダイナミックな変動を詳細に描いている。昨今、日本の科学業界・アカデミズム業界でも、社会の役にたつ「有用性」がある研究を! という要請に対してさまざまな議論がなされているが、この議論に参加しようと思ったら、本書を読むことを義務付けるべきであろう、と思うぐらい、アンシアン・レジーム期から革命期になされた議論が、すごく現代とリンクして読めた。

そこには「基礎がなければ応用は成立しない、だから、一見すぐには役立ちそうにないものでも取り組むべきだ」という正当化だけではない。当時、科学アカデミーの主導者であったフォントネルは、数学の有効性について「『秩序、簡潔さ、正確さ』などの価値を称揚し、それらが道徳、政治、批評、雄弁などの他分野の書物にもいい影響を与える」と述べている。役に立ちそうにないものでも、それが精神的な充足を与える。だから、「一見してあまり有益にみえない『好奇心をくすぐる以外の何物でもない部分』」も保護されて良い。フォントネルが保護しようとした学問のある部分は、今まさに切り捨てられようとしている部分と見事に一致する。