元吹奏楽部員からみた『桐島、部活やめるってよ』 - 有明堂本舗
この映画の前半では、バレー部のエース「桐島」が部活をやめる=画面から消えてなくなることで、その周囲の人間関係が、ほんらいなら桐島から遠い、関係なさそうな奴らまで巻き込んで、どんどん玉突き事故を起こしバラバラになっていくさまが描かれます。そしてクライマックスでは、「桐島」の空白に吸い寄せられるように、バラバラに登場していた人物たちが校舎の屋上に集結します。
ひとつ前のシーンで、とんちんかんなアピールをする彼女の目の前で、彼とその彼女(イケイケビッチ系)が、見せつけるようにアツくキスをするという、なんとも地味でえげつないフられかたをした彼女は、その足で音楽室に戻り合奏に参加します。
このときに吹奏楽部が演奏するのが、ワーグナーの歌劇『ローエングリン』の一曲「エルザの大聖堂への行列」です。屋上では、映画の冒頭からずっと「玉突き事故」に巻き込まれて撮影のじゃまをされつづけ、ついにマジギレする映研連中と、もっと直接的に被害に遭いマジギレしている取り巻きやバレー部員が、この「エルザ」をバックに大乱闘を繰り広げます。
もとの歌劇のほうでも、主人公である「騎士」とヒロインのエルザが結婚式をあげるシーンで演奏されます。そしてこの結婚式には邪魔が入ります(この曲のあいだに邪魔が入るわけではありませんが)。それからいろいろあって、騎士とエルザは結ばれないままに終わります。
さて、この映画は高校生の会話がリアルだ、とよく言われますが、やりとりやエピソードそのものは、「現実そのまま」という意味では、あまり「リアル」ではありません。むしろステレオタイプをそのままつかったり、映画的な自然さに合うように変形されていたりします。それでも、ぼくたちがかかえる「演技していることを自覚しながらも演技はやめられないし、そもそも演技をやめてしまったら自分なんてどこにもいない」「相手を思いやるがゆえに演技している」という日常をありありと映しとっています。その説得力を「リアル」というなら、リアルといってもいいのかもしれません。
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