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【特別企画】日本は5年後も日本のまま=ジェラルド・カーティス氏 - WSJ

 政治ではどんなことでも起こり得るが、安倍氏が(自民党党首として)2期、つまり首相として6年務める可能性が非常に高い。となると18年までだ。


 野党が近い将来再編し、自民党に代わる信頼できる政策を示すとは想像しがたい。自民党が本当の意味で脅かされるようになるまでには時間がかかるだろう。


 自民党が以前に政権を失ったのは党内分裂が原因だった。次に政権を失うときも恐らくそうだろう。しかし、今のところ党内に(現執行部に対する)強い不満の兆しは見られない。

 日本は他の多くの民主国家と同様、深刻な政治的リーダーシップ不足に直面している。40歳以上の政治家の中で「この人が首相だったらいいのに」と国民に思わせるような人を見つけることは不可能だ。

 安倍首相にとって事態は非常に良好に見えるが、それには1つ条件がある。アベノミクスが頓挫しないことだ。


 黒田東彦日銀総裁の政策がインフレ期待に関する人々の見方を変えられず、安倍氏が実現しようとしている構造改革があまり効果のない中途半端な措置に終わった場合、かなり厄介な事態になるだろう。

――今後5年の最良のシナリオは?


 まずデフレから脱却し、構造改革によって労働市場流動性が高まり、起業が活発化し、質の高いコメ・果物・野菜が中国などのアジア諸国に大きな輸出市場を見いだすような状態。


 そして、女性が企業の主要な幹部職に就くようになり、人口減少の悪影響が緩和され、働く女性の子育て支援策によって人口構造がやや改善すること。


 外国人向け観光産業が主要な成長のけん引役の1つとなり、高等教育制度の抜本改革と外国人の受け入れ拡大で日本国内の国際化が進むこと。


 経済は安定的に低成長を続け、日本は高齢化と豊かな社会を両立させるモデル国家とみなされるようになる。


 日本は地域の安全保障で役割をいくらか拡大し、安保政策では専守防衛志向を維持し、米軍と密接に協力する。中国は日本が再び軍事的脅威にならないと判断し、強固な日米同盟を目の当たりにし、日米間にくさびを打とうとするのではなく両国と協力しようとする。

――最悪のシナリオは?


 黒田総裁の政策が失敗に終わり、デフレが根強い問題として残り、構造改革は実行されず、労働、農業、その他分野での改革が不十分で政府の成長戦略に息が吹き込まれないような事態。


 債券危機、金利上昇、外国人投資家の撤退が起こり、株価は下落する。


 首相の任期が終わる18年までに安倍氏の人気が大きく落ち込み、後任者は政権基盤が弱いためにタカ派姿勢を強めて国家主義的政策で国民の支持を高めようとする可能性がある。そのため、日中関係が悪化する。米国は日本が対中姿勢を強め、米中関係とアジアでのリーダー的地位を維持するうえで問題が生じることを恐れ、日米関係に緊張が生まれる。

――起こりそうなシナリオは?


 日本は何とかやっていく。沈没することはないが、人口問題を解決して高成長経済に転じることもない。日本は現状のままだろう。


 日本は対処可能な多くの問題を抱えた成熟経済国だ。GDPの数字はやや誤解を招きやすい。国民1人当たりで見ると、「失われた20年」中の成長もさほど悪くもない。ちょうど西欧諸国の平均と同じくらいだ。


 したがって、今後も多かれ少なかれ現状のままだろう。日本は移民社会にはならない。日本人が質の高いサービスに見いだしている価値を投げ捨ててサービス部門の生産性を引き上げることはないだろう。


 例を挙げよう。東京駅で新幹線を待っていると、清掃スタッフが全車両を掃除し、発車時刻の数分前に降りて、乗り込む乗客に対してお辞儀をする。清掃員の数を減らせることは間違いないし、列車が時間通りに出発しなくても世界が終わるわけではない。床には空のペットボトルやゴミが落ちたままになるかもしれないが、それは生産性向上の対価だ。米国人なら喜んでその対価を支払うかもしれない。われわれは抗議もせずアムトラックに乗っているのだから。しかし、日本人はそれに耐えられないだろうし、私個人としては決してそうなってほしくない。


 日本を訪れる人は日本の何に感動するのか。秩序や清潔さ、礼儀正しさ、食べ物やサービスの質。丁寧さ、夜に1人で歩いても怖くないこと、子ども1人でも地下鉄に乗せられることだ。日本社会を特徴づける生活の質は定量化することができない。もちろん、日本がその基本的な価値観で妥協することなくサービス部門の生産性を向上させるためにできることはある。だが、日本が必ず米国のようになるはずだと考える米国人は失望してきたし、今後も失望するだろう。


 豊かな国が、必ずしも米国のように見えるとは限らない。