焦点:ソニー平井社長にOBの包囲網、6月の株主総会で波乱も | Reuters
ソニーのエレクトロニクス再生をめぐり、役員OBが平井一夫社長への不満を強めている。業績回復の兆しがみえ、株価は上昇基調だが、経営をけん引する革新的なヒット商品を生み出せていないとの見方が背景にある。ウォークマンなど歴代ヒット商品を生み出してきたOBらの圧力は、6月の株主総会の大きな波乱要因になる可能性が出てきた。
「世の中を変えるようなイノベーションを起こすべき」――。4月16日、東京都品川区のソニー本社20階の役員フロアで、平井社長ら経営陣と会合を持った5人の役員OBは「ソニーの商品やサービスに魅力がなくなった」ことへの不満を次々と口にした。
出席者は、初代CFO(最高財務責任者)だった伊庭保元副会長、ハンディカムの開発者である森尾稔元副会長、プレイステーションの生みの親である久夛良木健元副社長ら歴代の大物OB。奇しくもその日は株価が2008年のリーマンショック後の最高値を更新したが、OBらはそれを讃えることもなく、創業者の井深大氏が起草した設立趣意書について現経営陣の「理解がない」と、いら立ちを募らせていた。
この会合の内容は瞬く間にOBの間で共有された。出席者から会談内容を伝えられたあるOBは、「経営陣は真摯に受け止めると回答したようだが、どの程度実行できるか疑問」と厳しい口調で語った。
平井社長が複数の有力OBを招いて本社で会合を開くのは、社長に就任した2012年以来のことで、今回が2回目になる。空白期間が長きにわたり、「現役とOBとの交流はまったくなくなっていた」(前述のOB)という。
今回の会合が実現したのは、経営陣からOBに対し「経営について説明したい」との提案があったためだが、その開催は突然だった。その背景には、会合の参加者でもある伊庭氏が、取締役や執行役らソニー経営陣に提出した「提言書」の存在がある。
伊庭氏は、1月19日付でソニー経営陣に発送した提言書で、ソニーは株価が回復基調にあったとしても、エレクトロニクスの技術系人材を生かした経営をしておらず、経営全体をけん引するヒット商品が依然として不在だ、と指摘している。
この提言書が特に問題視しているのは、社外役員が多数を占めるソニー取締役会の現状だ。取締役会のメンバーのうち、実質的な社内取締役は平井社長と吉田憲一郎副社長の2人のみ。提言書は、二人がいずれも「技術系ではない」という点を指摘、取締役会は、単なる監督機関にとどまらず、自ら技術のトレンドを読んで経営の方向性を決める機関になるべきで、ソニーの取締役会に「生え抜きの技術系人材」を複数登用するよう訴えている。
大物OBによる「憂国の苦言」が実現させた今回の現役経営陣とOBの会合。伊庭氏はこの前日の4月15日付で新たな提言を経営陣に発送した。その中で、伊庭氏は、技術系人材の一段の登用などを求めた前回の提言に加え、「ソニー丸の船長は間違った海図を使っている。このままではソニー丸は沈没の危機に瀕する」と、これまでにない直接的な表現で、平井社長の経営者としての資質を問いただしている。
ソニーは4月1日付で技術系の鈴木智行氏を副社長に昇格させた。同社は伊庭氏の提言が直接影響した人事であることを否定しているが、28日の取締役会では、6月の株主総会に提案する新しい取締役体制を内定する見込みだ。
ソニーが2月18日に示した2015―17年度中期経営計画は、3年後の営業利益を5000億円以上とする目標数値が市場で評価され、株価は上昇基調にある。15年3月期の巨額赤字を経て、今期の業績も大幅回復の兆しをみせている。しかし、ソニーの株主でもある歴代の役員OBらは「今の経営にはビジョンがない」との認識で株主総会に向けて徐々に結束しており、平井社長への「包囲網」を固めつつある。