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改憲派の憲法学者が安倍政権の改憲を批判する理由…愛国の義務化で“非国民”再教育制度が!|LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見

慶應義塾大学名誉教授の小林節氏(66)。35歳の助手のころから自民党憲法改正論議に付き合ってきた筋金入りの改憲論者だ。安倍晋三首相の祖父でいまは亡き岸信介元首相が会長をしていた「自主憲法制定国民会議」にも最年少メンバーとして参加し、1994年に読売新聞社が出した「読売改憲試案」にも深くかかわっていた。

〈今にして思えば「赤面の至り」のようないわば「右翼・軍国主義者」そのものの主張を本気で展開していた若き日の自分がおりました。あれは、多数決民主主義を信じ選良、すなわち政治家の倫理性に期待する自分の姿でした。しかし現実に権力者の傲慢に日常的に接し続ける中で、自分が変化していることが自覚でき、同時に、日本国憲法の真価を強くするようになりました〉


 これは、先ごろ出版された氏の著書『タカ派改憲論者はなぜ自説を変えたのか 護憲的改憲論という立場』(皓星社)のまえがきにある一文だ。この本は、「憲法学者小林節」の思考の変遷をたどることで、立憲主義とは何かを説き、現状の改憲論の危うさを解き明かす仕組みになっている。


 アメリカ仕込みの超現実主義を携えてデビューした若き日の小林氏にとって、現行憲法(とくに9条)を金科玉条のごとく扱う護憲派がしごく愚かしく見えた。憲法は国民の幸福を追求するための道具に過ぎず、時代の変化に応じて適宜バージョンアップするべきだ、というのが小林氏の持論だった。一言一句触ってはいけないというのは、神である天皇から下げ渡された明治憲法と同じ扱いではないか。「神=天皇」が「GHQマッカーサー」に代わっただけだ。そんな思いから小林氏は、当時の憲法学者としてはほとんど唯一といっていい「改憲論者」となった。


 そのころの改憲論者は、タカ派軍国主義者や自民党でも右寄りの人たちばかりだった。そんななか、「憲法守って国滅ぶ」などの過激な言説で知られるようになった小林氏は「改憲を唱える憲法学者」として珍重され、講演や勉強会で引っ張りだこになる。以来30余年にわたって自民党改憲派の“知恵袋”として暗躍するが、この間に政治家側の世代交代が進み、二世三世の世襲議員が増えるにつけ、その質的劣化が目を覆うばかりになってきた。それでも「改憲」という大きな目標に向かって進むのならと我慢して付き合ってきたが、自民党が具体的な「憲法改正草案」を出したところで糸が切れたのだという。


〈私はこれで具体的な改憲論議を始める叩き台が出来たと、素直に喜んだ。しかし、中身を読んで、私は落胆し、遂には怒り出していた〉


 何が問題なのかというと、どれだけ口をすっぱく教えても憲法とは何か、立憲主義とは何かがまったく理解できない人たちだったということだ。

〈そこで、いま、改めて原点を確認しておきたいが、憲法の本質は、主権者・国民が権力担当者に課す制約である。(中略)憲法は、主権者・国民大衆の中から例外的に選ばれて個人の能力を超えた力を託された人々(つまり権力者)が、人間の本来的な不完全性ゆえに、その権力を乱用することがないように、権力に歯止めをかける規範である〉


〈言うまでもないことであるが、心配だからあえて言うが、憲法とは、主権者・国民・大衆が、一時的に「権力」という大きな力を国民から託された権力者(つまり政治家と公務員)がその権力を濫用しないように「権力者に課した制約」である。それが権力者によって無視されたら、もはや日本も例えば北朝鮮と違いがなくなってしまう〉


 同書には、こうした表現が繰り返し出てくる。ところが自民党の草案は、この立憲主義の大原則を踏み外し、国家が国民を縛るかたちになっているというのである。2012年版「自民党憲法改正草案」第102条に「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」とあるのはその象徴だ。憲法を尊重しなければならないのは、国民でなく権力者だ。また、第100条では国会が憲法改正を発議する要件を、(現行憲法96条で定められた両院のそれぞれ3分の2の賛成から)2分の1に緩和するとしている。権力者を縛るはずの憲法を権力者が“改悪”しやすいように手続き要件を緩和するというのだ。憲法立憲主義に関する基礎的素養が備わっていないことの証だった。〈そこで、改憲論者である私も、最早これまでと思い、反対の論争を始めた〉のだ。

 先に小林氏はなぜ変節したか、と書いたが、実は小林氏の憲法への姿勢は昔から一貫しており、いまも改憲論者であることは変わっていない。大前提として現行憲法の三大原理(国民主権、平和主義、人権尊重)は人類の歴史的体験から生まれた究極の真理として尊重する。その上で、この三大原則がきちんと機能するよう、変化した時代にも対応できるように、条文を改良(バージョンアップ)しようという立場だ。


 9条についても、平和主義をより明確にするため全面的に書き直し、(1)侵略戦争の放棄、(2)自衛権の留保と自衛隊に対する文民統制、(3)国際貢献の用意――を明示するとしている。