五神真・東京大学新総長インタビュー 「産業界との連携を進め若手研究者の活躍の場を広げる」|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
――今日、教育や研究機関としての東京大学の最大の使命は何だと考えられていますか。
21世紀に入って人間の活動のグローバル化が進み、いろいろなことをまさに地球規模で考えるべき機会が増えました。
金融不安や環境汚染などが瞬時に世界に広がる昨今、そのような問題をいかに解決するかは、いろいろな文化圏から知恵を出し合い、それらを組み合わせながら探らなくてはなりません。大学はまず、その担い手になる必要があると思います。
東大の138年の歴史を繙くと、明治以降、研究面で西洋に伍して先進的な活動を行い、西洋とは違った形で、東アジアでリーダーシップを取ってきた実績があります。
今日の資本主義的社会が立ち行かなくなったとき、地球の持続可能性という視点をもって、新しいものをどう作っていくか。1つの価値観に基づくのではなく、さまざまな文化が学問を開拓していくことが重要です。
その面で、東大を含めた日本全体の学術研究は世界に貢献できると考えています。
――そのためにどのような人材を育成するお考えですか。
グローバル化の中で地球を調和あるものに発展させていく、それを多くの人と共有していくことを念頭に置き、将来の不確実性に怯えることなく、その不確実性を楽しみながら知を身につけていく。知をつくり、知を用いて人との関係を築き行動することが重要です。
そのような人を東大は世に送り出してきましたし、今後もそういう人材輩出を先導していきます。
――多様な学生を育てていくために、どういう入学者を希望されますか。入試改革についてはいかにお考えですか。
大学には蓄積された膨大な知識が編成され、体系化されていますが、それを学ぶには基礎的な数学力や読解力が欠かせません。無から有を生み出したり、資料を組み合わせて考えたり、ひとつのことをじっくり粘り強く考え続けたりする力も必要です。
そうした力は、知的に面白いと思う心がなければ身につかないし、それには小中高のときの経験が重要です。できるだけ教員同士で連携を図りながら、若い世代が学問の面白さに触れられる機会をつくるようにしています。
また、海外に出たときに、言語のバリアを感じないように英語力を磨いたり、違った文化に触れたりする経験をしておくことも必要です。
東大の入学試験においては、これまでも考える力は最重要であると位置づけています。暗記的な知識だけを問うのではなく、例えば歴史の論述試験では、設問自体のなかに歴史を考えるための視点をどう持てばいいのかを考えさせる高度な問題を課してきました。
また、新たな入試制度として、機会均等と入試の透明性、公平性を保ちつつ、これまでの試験の枠に収まりきらない多様な人材を確保するため、100人程度の規模の学校長推薦による推薦入試を平成28年度入学者選抜から実施します。
この推薦入試では、特定の分野や活動に関する卓越した能力、もしくは極めて強い関心や学ぶ意欲を持つ人たちに入ってもらいたいと考えていますが、この入学者の関心や意欲にきめ細かく応えられるよう、フォローアップの仕組みも考えています。
学問や研究とは、本来新しいものを生み出したり、従来あるものを違う角度から見て新しいものを発見したりという、わくわくする体験です。それを味わうための膨大な知のストックや、腰を据えてじっくり考えたり議論したりする知の場が、東大にはあります。
だから是非意欲的で野心的な人たちに、そのわくわくを一緒に体験し、世界中に広げて欲しい。
そうした若者の期待を裏切らず、安心して知の創造に向かって邁進できる大学にしていきます。