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ドイツのギリシャ切り捨てを許さない巨額貸付の重荷|野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて|ダイヤモンド・オンライン

ギリシャに対する支援について、ようやく合意がなされた。支援の継続は、ドイツなどにとっては重い負担だ。それにもかかわらず、なぜギリシャを見放さなかったのか?


 それは、「ターゲット2」と呼ばれる決済制度を通じて、すでにドイツがギリシャに対する巨額の貸付を(それとは明確に意識することなく)行なってしまったからだ。ギリシャがユーロを離脱すれば、この債権は回収できない。だから、ドイツは「いまさら後には引けない」状態に陥っているのである。

 まず政治的な理由があることは間違いない。


ギリシャがユーロを離脱すれば、ギリシャのユーロ加盟を認めたことは間違いだったと認めることになる。ギリシャはヨーロッパ文明の発祥地というイメージがあるから、ヨーロッパの統合というイメージに傷がつく。


ギリシャをユーロに留め置くことは不可能と誰もが知りつつも、ヨーロッパ統合の理想を壊した張本人と言われたくないので、誰もギリシャ離脱の引き金を引かない。

 しかし、以上のことだけが支援を続ける理由ではない。最大の理由は、ドイツがすでにギリシャに対して巨額の債権を持っており、仮にギリシャが離脱してしまうと、それを回収できなくなることにある。


 実は、これこそがユーロ問題の中核なのである。そして、これを理解しないと、ユーロ問題を正しく理解することができない。


 この債権は、「ターゲット2」という仕組みを通じて発生している。

 ユーロを経済的に見ると、参加国間の固定為替同盟と見ることができる。しかし、ユーロは、単なる固定為替同盟ではない。


 ユーロには、中央銀行であるECB(ヨーロッパ中央銀行)が存在し、ターゲット2(TARGET2)と呼ばれる決済システムがあるのだ(TARGETは、Trans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer Systemの略。現在のシステムは、1999年に稼働したものを2008年5月に更新した第2世代システムなので、TARGET2と呼ばれる)。


 ECBとユーロ参加17ヵ国の中央銀行(NCBsと呼ばれる)で構成されるユーロシステムが所有・運営している。

 参加国間に貿易不均衡がある場合、その決済は、つぎのように行なわれる。


 例えば、ギリシャ人のA氏が、ドイツの自動車会社B社から自動車を買ったとしよう。


 まず、A氏はギリシャ国内のC銀行の口座引き落としでB社への送金依頼を行なう。ギリシャ中央銀行はC銀行の当座預金を引き落とす。つぎに、ギリシャ中央銀行はそれをターゲット2で決済する。これによって、ドイツ連邦銀行はECBに対し債権を持つことになり、ギリシャ中央銀行は債務を持つことになる。ドイツ連邦銀行はB社のD銀行の当座預金に振り込み、D銀行はB社の口座に振り込む。

 ユーロ危機が顕在化した2010年以降、ギリシャなど南欧諸国から資金が流出し、ドイツ、オランダなどの欧州北部諸国に流入した。このために、ドイツのターゲット2残高が急激に増えた。


南欧諸国の流動性不足に対処するため、11年12月と12年3月にECBが実施した資金供給オペLTRO(Longer Term Refinancing Operation:銀行からの申し込みに対し無制限に1%金利での3年間貸出)が、ターゲット2残高の累増に拍車をかけることになった。

 このように、ターゲット2を通じて、ドイツ連邦銀行が、ECBに対して、巨額の貸出を、言わば「自動的に」行なってしまっているのである。しかも、そうした貸出が行なわれたこと自体が、一般のドイツ国民に必ずしも正確に理解されていたわけではない。「気がついたら、とんでもない貸出をすでに行なっていた」というような状態なのだ。


 そして、仮にギリシャがユーロを離脱し、ギリシャ中央銀行債務不履行に陥り、返済不能になると、ドイツなど黒字国には巨額の損失が発生するのではないかとの懸念がドイツ国内で浮上してきた。


 だから、「いまになってギリシャを離脱させたくとも簡単にはできない」という状況になってしまっているのである。

 各国中央銀行がECBの同意を得て、最後の貸し手となって経営難にある自国銀行に貸し付ける。マネーは中央銀行の負債に計上される。赤字国の中央銀行が創出したユーロが、赤字国の決済資金の不足を埋めるわけだ。


 こうしてユーロ内の経常収支不均衡が間接的に是正された。それは、ターゲット2での不均衡を増大した。


ギリシャなどの借り手の立場から見れば、借り入れを続けることによって、高い支出水準を維持できる。それをドイツなどの貸し手が支える。IMFなどからの支援は返済期限があるが、ターゲット2を通じる債務には返済期限はない。借り手国の立場からすれば、願ってもない状態だ。


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