稲盛和夫が語る「企業家精神」【第1回】――京セラの原点は300万円と「人の心」|稲盛和夫経営講演選集(公開版) 「経営の父」が40年前に語っていたこと|ダイヤモンド・オンライン
最初にその方にお会いしたとき、私は、「今まで行ってきた研究を生かして、何か電子工業に使えるような新しい材料をつくっていこうと思っています」ということをお話ししました。
すると、その方は
「あなたはまだ若いけれども、すばらしい思想をもっている。非常に真面目な人間でもある。私が援助してあげましょう。私が300万円を出します。ただし、それであなたを雇うのではありません。あなたに惚れたから300万円を出してあげるのであって、あなたが自分でこの会社を動かしていくのです。
どのような状況にあっても、お金に使われるようではいけません。あなたと一緒に仕事をしようという仲間がいるのなら、お金も何もない中でも、みんなで力を合わせていく、すばらしい心根をもった集団をつくるのです。そのようなものは、何ものにも代えがたいものです。それを頼りにして経営をしていきなさい」
と、教えてくださったのです。
私は、7人の仲間と、中学校を出たばかりの20人の社員を雇い、28人で会社を始めました。私どもには他に何もありませんでしたので、私は教えていただいたとおり、人の心を経営のベースにしようと思いました。
経営のベースを決めた後、私は「頼りにならない心もあれば、頼りになる心もある。その差はどのようにして生じるのだろうか」と考えました。その当時、私は27歳ととても若かったのですが、「これからは人の上に立って一生懸命人を指導し、人の生活の面倒を見なければならない」という責任を感じていましたので、真剣に考えました。
そして「すばらしい人の心を求めても、自分の心がすばらしいものでなければ、決して立派な心をもつ人たちは寄ってこないだろう」という結論に至りました。同僚や部下からの信頼に値するような心を、自分自身がもっているかどうか。そのことが大事だと思いました。従業員に信頼されるに足る心を経営者自身が育てていかなければ、事業はうまくいかないだろうと思ったわけです。