アングル:欧州が掲げた「友人の輪」構想、難民流入の悪夢招く | Reuters
東はコーカサス地方から南はサハラ砂漠にかけて「友人の輪」を築くという欧州連合(EU)が掲げた構想は、内戦や紛争を逃れる難民が欧州に押し寄せたことで、悪夢へと変わろうとしている。
EUの「東方拡大政策」が奏功し、旧共産圏諸国が市場経済の民主国家に移行して欧州に同化したのとは対照的に、2003年に始まった「欧州近隣政策」は目を覆うばかりの失策となった。
スウェーデンのカール・ビルト元首相は「現状を見る限り、われわれは『友人の輪』ではなく『苦難の輪』に囲まれているという結論を避けられないようだ」と述べた。
欧州近隣政策は、欧州の近隣に位置する16カ国に対し、EUの民主主義、行政、経済の基準を導入するのと引き換えに、資金や技術支援、市場アクセスを提供するが、ただしEU加盟は認めない、というものだった。
EUの近隣諸国を安定化または民主化するという狙いが頓挫したのは、欧州には制御できない力が働いたことも一因だ。すなわちソビエト連邦崩壊をめぐってロシアが抱く遺恨や、中東における激しい政治闘争や宗派間対立といったものだ。
東方6カ国のうちウクライナ、モルドバ、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンの5カ国は、ロシアが加担する一発触発の「凍った紛争(フローズン・コンフリクト)」を抱えて弱体化し、残るベラルーシは権威主義的政権のもとでEUの経済制裁を受けている状態だ。
しかしEU高官はいまや、欧州の近隣政策は初めから傲慢さと稚拙さが入り混じった不完全なものだったと認める。友人というより「目下のものを保護する」立場で、何をすべきかを教えようとしたためだ。近隣諸国は自分たちのようになりたいに違いない、という思い込みが背景にあった、とある高官は指摘する。
EUのやり方は多くの条件を課す半面、見返りがあまりにも少なかった。押しつけがましい監視に対し、ベラルーシやアゼルバイジャン、エジプト、アルジェリアなどの権威主義者や独裁者は自分たちの利益が脅かされかねないと受け止め、直感的に抵抗した。
また、経済発展や統治の水準が大きく異なる国々と画一的な関係を築こうとしたものの、大半の国ではEUの市場や環境、保健、安全性の法制度をそのまま導入する準備ができていなかった。
北アフリカや南コーカサス地方の国々がそれぞれ域内で協力関係や貿易関係を築くだろうという前提も、実際には異なっていた。
そのためEUの近隣政策について抜本的な見直しを行うことになり、より穏当で柔軟、かつ差別化した新しい方針が11月17日に発表される予定だ。今回の見直しが効果的かどうかは今後を見なければわからない。
元英国大使で現在はロンドンのシンクタンク、欧州改革センター(CER)に在籍するイアン・ボンド氏は、現行の政策が「矛盾と希望的観測に満ちたもの」だと指摘する。
2010─11年の見直しでは「深化した持続可能な民主主義」の促進を目指したが、その後リビアとシリアは無政府に近い状態に陥り、エジプトでは軍事クーデターが起き、アゼルバイジャンなど複数の国々で市民社会やメディアの抑圧が悪化した。
EU高官らは新たな現実主義が必要だと話す。それは人権や民主主義について説き教える前に、パートナー国との共通の利益を追求することだ。
ただ、現実にはEUと近隣諸国との関係で喫緊の課題となるのは中東やアフリカからの大量の難民流入を抑え、制御することであり、それが他のすべての重要事項に優先される公算が大きい。
すなわち、経済発展や行政改革に割り当てるべき予算は、難民の収容施設の準備や欧州に押し寄せてくる原因の解決のために回すことになるだろう。
友人の輪は、もっと良い時期が来るまで待たねばならない。差しあたってEUが望んでいるのは難民の洪水から身を守ることだ。
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150913#1442140576(キッシンジャー)
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