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» 堕ちた”ノンキャリアの星“を作ったのは誰か。 (連載「パックス・ジャポニカへの道」) | IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所

私は事件の当事者と直接の関係を持たないので「真相」をつまびらかに知ってはいない。しかし、かつて霞が関を震撼させた2001年から始まる「外務省公金横領事件」に際し、一貫して内部調査を担当し、監察業務を行って来た立場から見て率直に言うと「またあのパターンか」とある意味、懐かしくすら思うところがある。


関連報道曰く、この事件の容疑者である中安一幸室長補佐は高卒で入省した、いわゆる「ノンキャリアの星」の典型とでもいうべき人物だったのだという。情報システム関連の部署で勤務を続け、その知見という観点では他者の追随を許さない立場を確立する一方、徐々にキャリアの幹部職員からしても勤務実態を把握することが出来なくなるほど、アンタッチャブルな存在”になっていったとも報じられている。


これは霞が関におけるある種の典型だ。我が国の中央省庁における不祥事は往々にして「キャリア官僚という特権階層が甘い汁を吸っているから生じる」と世間では思い込まれている。だがその実、キャリア官僚よりはるかに性質の悪い不祥事を続々起こしているのが「ノンキャリア官僚」たちなのである。だが、マスメディアたちはそのことをあえて報じないきらいがある。「そもそも弱い立場にある者をいじめるのはどうか」というわけだ。

ある時、そんな願ってもない“天からの声”が降って来る。夜の街で世話になり続けたキャリア官僚の最高幹部が、その人事権を「高卒コンプレックス」がそれでも拭えない彼のために恣意的に行使してくれたのだ。与えられるポストは「准教授」「講師」。本来ならば、博士論文を書いていない限り与えられることのないポストだ。

だが、哀しいことにこのノンキャリア官僚には一つだけ死角があるのである。キャリア官僚たちに呼ばれて出た酒食の席、あるいは正式なブリーフィングの席において、ついつい横柄な態度を「政治家」に対してとってしまうのだ。いや、本当のところそれほど特別な振舞いをするわけではないのである。与党の利権構造において頂点に立つこの「政治家」の前でキャリア官僚たちがひれ伏す中、このノンキャリア官僚はいつものとおり振舞うに過ぎない。「政治家」がとんでもない要求をキャリア官僚たちに繰り返す中、たった一人だけ「出来ないことは出来ない」と言い切るのである。その場はキャリア官僚たちが言い繕うことで乗り切るが、後日、「政治家」の怒号が永田町から飛んでくることになる。

キャリア官僚たちにとってこの一件で大切なのは、東京地検特捜部、そして警視庁と折り合いをつけることだ。省内においては徹底して情報管制を敷き、間違ってもこれまで長年にわたって利益供与を受けてきた自分たちには火の粉が降ってこないようにしながら、これら司直の手に対しても「悪いのはこのノンキャリア官僚」という論で貫くのである。相手は最初、「そんなことあるものか、おたくのキャリアたちも甘い汁を吸っていたはず」と言い切るが、法務省警察庁といった“霞が関の住人”たちとの間では所詮は同じ中央省庁、正に持ちつ持たれつなのである。人事を司る官房のラインで、これら中央省庁のキャリアたちの「お休みポスト」をいくつか差し出すことで折り合いを付ければ良く、あるいは与党との関係で今年度国会で実際に成立させることになる法案数を譲ることで話しをつければもっと良いのだ。そして最後は、「おたくの省庁も大変ですな、まぁ今後は気を付けるように」ということで手打ちになる。

そして「逮捕」「裁判」「判決」、「収監」。経済犯罪なので所詮は大したことはないと弁護士から聴かされていたが、それまでとは余りにも違う待遇の“ムショ”の中で心底痛めつけられることになる。それでも耐えに耐え、ようやく出所の時を迎えると、これまたどこで知ったか分からないが、親元の省庁の「官房長」から連絡が届くのだ。


「さぞかしお疲れでしょう、どうですか、食事でも」


恐る恐る行くと、かつて面倒を見たキャリア官僚の一人が「課長」から「官房長」になって目の前に座っている。


「お疲れさまでした。早速ですが再就職先、お困りではないですか。この清掃会社の事務員のポストが空いているらしいのですよ。貴方は真面目だし、仕事場は静かな場所ですから、どうでしょう、ここは一つ穏便に未来に向けて再出発されませんか」


“官房長”の魂胆は分かっている。風化したとはいえ、大スキャンダルとなった「あの事件」について、今度は独白録を書かれるのが怖いのだ。

官僚たちが大量失職するその時代を目前に控え、これから更に一体何人の”小皇帝“たちが血祭に挙げられるのだろうか。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151005#1444042624