ヨーロッパ中央銀行は、3日、金融政策を決める理事会をドイツのフランクフルトの本部で開き、主要な政策金利については過去最低の水準となっている今の年0.05%のまま据え置きました。一方で、金融機関から預かる際の金利を今の年マイナス0.2%からマイナス0.3%に引き下げることを決めました。この引き下げは、事実上、金融機関から取る手数料を増やすことになり、金融機関が余った資金を中央銀行に預けたままにするのではなく、貸し出しなどに振り向けるよう促す効果が期待されます。
ユーロ圏では、原油価格の下落などで、ことし9月の消費者物価指数が半年ぶりにマイナスに転じ、先月も、0.1%の上昇にとどまるなど、いったんは和らいでいたデフレへの懸念が再び浮上しています。また、中国経済が一段と減速すれば、経済的につながりが強いドイツなどの実体経済に悪影響を与えるという見方が出ているほか、パリで起きた同時テロ事件の影響で、フランスの景気が冷え込むおそれが高まっています。
今回の理事会では、各国の国債などを買い入れて市場に大量の資金を供給する量的緩和の買い入れ規模の拡大や実施期間の延長などについても議論が交わされたものとみられ、このあと開かれる記者会見でドラギ総裁がどのような発言をするのか注目されます。
<外国為替レート>
外国為替レートは政策目標ではない。ただ、物価安定と成長にとり、当然重要な要素となる。このため金融政策措置を決定する際は勘案している。同時に、世界各国の中央銀行が何を行っても為替相場に影響が出る。そしてこのことは物価安定と成長に影響を及ぼす。
<無差別攻撃の経済に対する影響>
率直に言って(どのような影響が出るか)わからない。ただ将来的に地政学リスクが高まるとの認識は当然持っている。このため、警戒を怠ることがあってはならない。
<政策リスク>
(政策の)リスクや副作用について議論したとは言わないが、いずれにしても、こうした議論は継続的に実施されている。
われわれはリスクを注視しており、リスクが存在する可能性についても認識している。リスクについて情報を得るために常に努力している。ただこれまでのところ、(政策の)副作用が出ているとの証拠は得られていない。
<再投資の行程表>
再投資は2017年3月より前に開始される可能性があると理解しておくことは重要だ。
ただ2017年3月以降も継続される。これにより債券は2017年3月以降もわれわれのバランスシート上に存在することになる。
<QEは2017年3月以降無期限に延長可能か>
ノーだ。期限はあるが、条件もある。それはインフレ率がわれわれの目標とする2%弱の水準へと持続的に向かうまでだ。
<購入債券の供給十分>
債券買い入れができなくなるとたびたび指摘されるが、実際のところ購入できる債券は十分供給されている。
<新規買い入れの範囲>
地方債買い入れの程度について話すのは時期尚早だ。仮に(買い入れ対象の)拡大が必要となった場合、どのような方向で拡大するかを語るのも拙速に過ぎる。これまでのところ(拡大は)不要で、まだ機が熟してもいない。
<預金金利が主導>
リファイナンス金利を据え置いたのは、すべての短期金利が現在、預金金利に追随しているためだ。預金金利がECBの金融政策を主導している。
<量的緩和効果>
段階的にわれわれの量的緩和(QE)策は、ユーロ圏の景気情勢改善に寄与しつつある。
<近隣諸国の苦境>
(スイスやデンマークなどが直面する)この問題を常に考えている。このことは、近隣諸国と対話していないことを意味するのか。否、まったくそうでない。繰り返し広範囲に連携している。言い換えれば、相手方に説明している。
<より広範な回復>
回復の裾野は広がりつつあり、輸出ではなく主に消費がけん引している。消費と実質可処分所得の動きは連動しており、貯蓄率は横ばいだ。
<再投資の決定>
これはかなり重要な措置となる。金融緩和の度合い、および流動性の好ましい状況をこれまで示してきた期間よりも長く維持するとのわれわれの意思を基本的に示しているからだ。
このことは、かなり潤沢な流動性、高水準の余剰流動性が存在する状況が長期間にわたり継続することを意味している。
さらに、余剰流動性の目減りにつながる自律的な要因が将来的に作用し始めるとの、これまで議論がなされてこなかったもう1つの事実について割り引いて考えることがあってはならない。
こうした自律的な要因として、貸出条件付き長期流動性供給オペ(TLTRO)の返済、銀行券に対する需要、証券市場プログラム(SMP)の下で購入された債券の償還など、数点が挙げられる。
われわれはこうした要因に対応するだけでなく、影響を相殺する以上の措置を実施する可能性がある。このことは、債券買い入れが現在も、将来的にも確実に実施され、(流動性)状況が長期にわたりわれわれのバランスシートに存在することを意味している。
これらの決定は非常に重要である。こうした決定がわれわれの目的達成に向け適切であると確信している。
<資産買い入れプログラムは柔軟>
われわれの資産買い入れプログラムは柔軟なものだ。いつでも期間や規模、設計を調節でき、テクニカルな問題でこれらの調整が妨げられることもない。実は(来)春に、プログラムに関する一部のテクニカルなパラメーターを見直そうと考えている。
<多少のインフレ変動の行き過ぎを許容するかとの質問に>
われわれのインフレ率は中期的に、2%付近だが下回る水準にとどまるべきで、長期にわたって2%を大きく下回っていることを考慮に入れる必要は当然ある。
<ECBのコミュニケーションは悪くない>
ECBのコミュニケーションが間違っているとは思わない。こうした措置が十分に評価されるには時間を要する。様子を見よう。
<全会一致の決定ではない>
全会一致の決定ではなかった。だがかなり大幅な賛成多数だった。
<資産買い入れは機能>
買い入れを続けているのは機能しているからであって、失敗しているわけではない。これまでに上手くいっているものを強化したい。
<主要オペと長期オペを継続>
固定金利、金額無制限の主要オペ(MRO)および3カ月物長期オペ(LTRO)を必要なかぎり継続し、少なくとも2017年の最終準備預金積み期間の積み最終日まで実施する。
<地方債購入>
ECBは、現在各国中銀による通常の資産買い入れ対象となっているユーロ圏諸国内の地域、地方政府が発行するユーロ建て市場性証券を資産買い入れプログラムに追加する。
<償還元本の再投資>
資産買い入れプログラム(APP)の下で買い入れた証券の償還元本を必要なかぎり再投資する。これは良好な流動性状況および適切な金融政策スタンスの双方に資する。
種々の決定のなかでも目新しいものの一つが償還元本の再投資だ。これは非常に重要なもので、金融緩和の度合いと良好な流動性状況を維持することが狙いだ。
<資産買い入れプログラムの延長>
われわれは資産買い入れプログラムの延長を決定した。
現在の資産買い入れプログラムの下での月額600億ユーロの買い入れは2017年3月まで、もしくは必要に応じてそれ以降も、インフレの道筋が中期的な目標としている2%をやや下回る水準を達成する目標に沿って持続的に調整されていると理事会が判断するまで実施する。
#ECB
コラム:ドラギマジックの蹉跌、期待制御の難しさ浮き彫りに | Reuters
最近のドラギ総裁やECB幹部の発言で、市場の期待値は上がる一方だった。特にドラギ総裁の「いかなる手段も排除しない」というメッセージは、市場にとって「追加緩和は大幅」という認識を形成させる大きな材料になった。
だが、中銀預金金利をマイナス0.30%に引き下げ、月額の買い入れ規模を据え置いたパッケージは、「目線」の上がった市場のイメージからみると、陳腐に映ったようだ。
同じことは、FRBにも言えるのではないか。2、3日のイエレンFRB議長の発言に対し、多くの市場関係者は想定よりもタカ派的と捉えたようだ。
もし、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、2016年の利上げペースに関し、計4回・100bpの利上げを織り込ませるようなメッセージを出せば、一部の市場関係者は「タカ派的な色彩が過剰」と受け止め、米利上げセッションの途中における「米経済腰折れ」シナリオの可能性を高めるかもしれない。
FRBと市場の「対話」で、市場の期待がFRBの思惑通りに推移しないシナリオにが現実化すれば、ECBが直面しているような苦境に陥るリスクも出てくるだろう。
日銀にとっても、「遠い世界の出来事」と等閑視できないと考える。10月に2回あった金融政策決定会合のどちらかで、日銀が追加緩和に踏み切るのではないかと予想していた市場関係者は、かなりの規模に上っていたとみられる。
その後、11月会合でも政策維持が公表され、日銀の金融政策の先行きに関し、多くのシナリオが語られ始めた。BOJウオッチャーの中には、ECBの対応を見て日銀もマイナス金利を採用するのではないかとの声も出てきている。
これをハイキングにたとえると、眺めのよい峠までは、歩きいやすい登山道が整備されていたが、その先は突然、整備された道が見えず、どれも前人未到の「獣(けもの)道」のようなルートがいくつもある──という状況ではないか。
こうした時は、中銀サイドからのちょっとしたメッセージの変更でも、市場が大きく変動する可能性が高まる。
市場の期待を日銀の思惑通りに「誘導」するのは、量的・質的金融緩和(QQE)が始まってから2年超の期間よりも、ハードルが高くなっている可能性がある。