民法には、離婚後に生まれた子どもの父親が誰なのか争いになるのを防ぐため、明治時代から女性にだけ再婚を6か月間禁止する規定があり、岡山県の女性は、「男女の平等などを保障した憲法に違反する」として、国に賠償を求める裁判を起こしました。
16日の判決で、最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、再婚を6か月間禁止する規定について、「再婚を禁止する期間が100日であれば合理的だが、100日を超えるのは過剰な制約で憲法違反だ」と指摘しました。
これによって、明治時代から100年以上続く民法の規定は見直しを迫られることになります。
女性にだけ離婚後6か月間再婚を禁止する民法の規定は、離婚後に生まれた子どもの父親が誰なのか争いになるのを防ぐために設けられました。
民法が制定された明治時代は、科学的に親子関係を確かめる技術がなかったため、女性が妊娠した時期によって父親を定める「嫡出推定」というルールが設けられました。
このルールでは、女性が離婚したあと300日以内に生まれた子どもは、離婚した前の夫の子と見なすことになっています。また、女性が再婚したあと200日たってから生まれた子どもは、今の夫の子と見なされます。このため、仮に離婚の直後に再婚したと想定した場合、201日から300日の間に生まれた子どもについては、前の夫と今の夫のどちらも父親の権利を得ることになってしまいます。
そこで、女性にだけ再婚を禁止する規定が設けられ、期間は妊娠していることが外見から分かるようになるまでという趣旨で離婚後6か月とされました。
しかし、この規定を巡っては、有識者などから「重複を避けるためなら100日で十分だ」という指摘が出ているほか、「DNA鑑定の技術が発達しているので、そもそも規定が必要なのか」という意見も出ています。
女性の再婚禁止期間については、海外でも親子関係の混乱を防ぐために規定が設けられていましたが、「女性差別にあたる」などとして廃止の動きが広がっています。
婚姻の制度に詳しい専門家などによりますと、北欧のデンマークやフィンランド、ノルウェー、スウェーデンでは、離婚した女性に10か月間再婚を禁止する法律の規定がありましたが、1968年から69年にかけて相次いで法律が改正され、廃止されました。
80年代に入ると、オーストリアやギリシャ、ベルギー、それにスペインやアルゼンチン、フィリピンなどでも廃止され、その後、98年にはドイツで、2004年にはフランスで、同様の制限が廃止されました。
さらに、日本と同じように6か月間再婚を禁じていた韓国でも、2005年に廃止されました。
一方、イギリスやオーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、離婚の前に一定の別居期間が必要と定めていることから、再婚を禁止する規定はないということです。
国連の女子差別撤廃委員会などは、日本政府に対して「女性差別にあたる」として、規定を廃止するよう勧告していました。
女性にだけ離婚後6か月間再婚を禁止する民法の規定について、NHKの世論調査では「今のままでよい」という回答が49%だったのに対し、廃止や見直しを行うべきだとする回答は、合わせて44%で大きく分かれています。
NHKは先月21日から3日間、全国の20歳以上の男女に対し、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行い、2376人のうち58%に当たる1380人から回答を得ました。
現在の法律で女性は離婚後6か月間再婚が禁じられていることについて、「今のままでよい」と答えた人は49%でした。
これに対して、「禁止する期間を短くすべきだ」が23%、「規定を廃止すべきだ」が21%で、見直しや廃止を求める回答は合わせて44%となり、意見が大きく分かれています。
「今のままでよい」と答えた人に理由を聞いたところ、最も多いのが「子どもの父親が誰か、分からなくなるおそれがあるから」が66%、「離婚から6か月で再婚するのは早いから」が17%でした。
これに対して、見直しや廃止を求める回答をした人に理由を聞いたところ、「女性だけ禁じるのは不平等だから」が41%、「今の技術なら父親の特定は可能だから」が40%でした。
16日の最高裁判所の判決によって、国は女性が離婚してから100日が経過した時点で再婚できるようにすることを迫られます。
再婚する女性が婚姻届を提出した場合、これまでは民法の規定にしたがって、離婚から6か月間、180日が経過しないと受理されませんでした。
しかし、最高裁判所が女性の再婚禁止期間が100日を超えるのは憲法に違反するという判断を示したことで、民法の規定は80日分については事実上、効力がなくなります。
法務省はこのような判断が示された場合に備えて、すでに対応を検討していて、応急的な措置として離婚から100日が経過した女性の再婚を認めるように自治体へ通知することなどを検討しています。
また、女性の再婚禁止期間を180日から100日に短縮する民法の改正案を国会に提出するための議論を進めることも検討しています。
民法には離婚後に生まれた子どもの父親が誰なのか争いになるのを防ぐため、明治時代から女性にだけ再婚を6か月間禁止する規定があり、岡山県の女性は「男女の平等などを保障した憲法に違反する」として、国に賠償を求める裁判を起こしました。
判決で最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、「再婚禁止の期間は、生まれた子どもの父親が前の夫なのか今の夫なのか重なって推定されないように設けられたものだ」と指摘しました。そのうえで、「重複を避けるためには、再婚を禁止する期間は100日とすることが合理的で、それを超える部分は少なくとも原告が離婚した平成20年には過剰な制約で憲法違反だ」と指摘しました。
民法では▽女性が離婚したあと、300日以内に生まれた子どもは前の夫の子とみなすという規定と、▽女性が再婚したあと、200日たってから生まれた子どもは、今の夫の子とみなすという2つの規定があります。
判決は、再婚禁止の期間は100日あれば前の夫と今の夫がそれぞれ父親の権利を主張できる期間が重複しないため、半年という期間は長すぎると判断したものです。
この判決によって明治時代から100年以上続く再婚禁止期間に関する規定は、見直しを迫られることになります。
原告の代理人の作花知志弁護士は、判決のあと記者会見しました。
作花弁護士は「判決を踏まえて、国会で速やかに6か月の再婚禁止期間を100日に短縮する法改正をしてほしい。また、今回の判決では憲法違反とした理由について、医療や科学技術の発達を述べているので、行政には離婚から100日以内のケースについても、例えば『妊娠していない』という医師の診断書があれば、すぐに再婚ができるという運用を認める通達を出してほしい」と述べました。そのうえで、作花弁護士は「原告の女性は仕事の都合で裁判所に来られなかったが、『自分のようなつらい思いをする人が出なくなってほしい』という思いで始めた裁判なので、原告にはぜひおめでとうと言ってあげたい」と話していました。
岩城法務大臣は法務省で記者団に対し、再婚禁止期間について「最高裁判所の判断を踏まえ民法を改正することになるが、改正法が成立するまでの間であっても離婚後100日を超え、6か月以内の女性を妻とする婚姻届が出された場合には受理することになる。各法務局・各地方法務局に対し、その考え方を各市区町村へ周知するよう事務連絡を発出した」と述べました。
判決について、家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は、「100日という限定は設けたものの、最高裁は国会が法制審議会の提案を20年近くほったらかしにしてきた規定について、『違憲』と判断したことは非常に重い」と評価しました。そのうえで「国会は速やかに法改正を進めるべきだし、法制審で議論された時よりもさらに時代は変化しており、100日を残すのか、もしくは全部廃止するのかという点から議論を進めるべきだ」と話していました。