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錬金術師から“薬剤師”へ 神通力が落ちた世界の中央銀行|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン

錬金術師たち』(The Alchemists)。ニール・アーウィン氏が2013年に著したこの本は、中央銀行関係者の間で大きな話題となった。


ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会FRB)前議長、ジャン=クロード・トリシェ欧州中央銀行(ECB)前総裁、マーヴィン・キング・イングランド銀行前総裁が、金融危機後に巨額資金供給でパニックを鎮めた経緯、内幕が描写されていたからだ。


アーウィン氏は、中央銀行錬金術師のように「無価値なものから価値ある何かを作り出す魔法のプロセス」を持っていると考えた。そういったミラクルなパワーが中央銀行にはあるとイメージしていた人は、当時の株式市場や為替市場にも多かった。


 しかし、同書の表紙にも載っていたキング前総裁が今月出版する新著のタイトルは、『錬金術の終わり』(The End of Alchemy)である。時代の変化が感じられる。

 この1年を振り返ると、欧州の株価は昨年4月上旬までは上昇したが、その後は下落、現在はQE開始直前の水準より低い位置にある。インフレ率も2月はマイナス圏に舞い戻ってしまった。


 かといって、過度なマイナス金利政策は銀行の金融仲介機能を損ねるため、ECBはさらなる金利引き下げは行わない様子だ。「金融政策には限界がある」と考える市場参加者が増えている。英紙「フィナンシャル・タイムズ」も「何年もの間、投資家たちは中央銀行のとりこだった。しかし、状況が変わってきた」と最近書いていた。


 かつて大胆な緩和策の必要性を声高に主張していた経済学者アダム・ポーゼン氏は、前掲書『錬金術師たち』へのコメントの中で、「中央銀行家は錬金術師ではなく、実際は薬剤師だ」と述べていた。「棚にある薬の量は限られており、法律で一定量を超える薬の使用は禁止されている」「望まれる最善の状況とは、副作用を最小限に抑えつつ、患者が時とともに着実に回復してくれることだ」。一時イングランド銀行の政策委員を務めた経験が、彼の見方を変えたようだ。


 日銀もECBも、いっそ「中央銀行は実は薬剤師」と認めて身の丈に合った政策を行う方が、副作用を回避できるだろう。先日の主要20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議でも、通貨安誘導につながる緩和競争は避けるべきという合意が形成された。


 しかし、政府による有効な景気刺激策や構造改革は日欧共に期待しづらい面があるだけに、「中央銀行は無限のパワーを持つ」「緩和手段はいくらでもある」といった強弁をやめることは、なかなか難しいのかもしれない。

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