https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

イノベーションには、「おっちょこちょいリーダー」が欠かせない 1979年8月23日、全トヨタ夏期セミナーでの講演抜粋|稲盛和夫経営講演選集(公開版) 「経営の父」が40年前に語っていたこと|ダイヤモンド・オンライン

 一九五九年に、京都セラミックという会社をつくったとき、私どもがもっていた技術は非常にレベルの低いものでした。創業当時の技術では、お客様から買っていただけるレベルの製品がなかなかつくれないのが実情でした。

 私は化学出身の技術屋です。ずっと研究をしてきましたが、研究といっても、いろいろな形態のものがあろうかと思います。最初に取り組んだのは、外国の企業や先輩の研究者がすでに取り組み、ある種の「ガイド」があるテーマを追いかけるという研究です。または学術的に発表されて、理論化はされているものの、まだ製品化されていないテーマを追いかける研究です。

 このように、比較する基準となる先行研究がすでにある研究と、一方で基準となるものがまったくなく、独創性が求められる研究があります。


 他に比較する基準がある研究は、比較的やさしいと言えるでしょう。研究を進めるときに、自分の研究の方向性、また結果が間違っているかどうかを、他の研究と比較することによって明確に知ることができ、軌道修正していくことが可能だからです。


 しかし、そういった文献などがまったくないテーマの研究が、今後は一番問題になるだろうと思います。


 戦後三〇年、日本の企業は欧米の技術を咀嚼して改良改善を続け、技術力を高めてきました。その結果、今日世界で最強の工業生産力と、高品質を具備するまでになったわけです。しかし、私は来たる一九八〇年代には、海外からの技術導入が非常に難しくなり、海外の競合他社から袋だたきに遭う時代になるのではないかと考えています。


 そういう状況が予想される中で、日本が工業生産、工業技術において、現在のような位置を維持していくには、どうしても欧米先進諸国が取り組んでいない、創造的な新しい研究開発をやらなければならないと思うのです。そういった他に比較する基準のないテーマを研究する者、ならびにそれをマネージする者は、自らの内に基準をもち、研究を進めることが要求されると思います。

 私ども京都セラミックは、資本もない、技術もない中で創業した会社であるだけに、強い危機感がありました。

ですから、研究開発をする上で一番重要なことは、動機づけと、目標設定なのです。

小さな会社でしたので、どんな注文であっても受け、製品を開発しなければ会社が存続できない、という切羽詰まった研究開発の動機があったのです。

 現在は、経営に少しゆとりができてきましたが、それでも将来を考えると、非常に不安があります。たくさんの従業員を抱え、大きくふくれあがったこの企業を、将来にわたって維持運営していくため、「こういう研究開発をどうしてもしなければならない」というように、研究者に対して、非常に強い危機感を伴う動機づけをしています。この研究開発を成し遂げられなければ、この会社は存続できないということを、経営トップから担当する研究員に至るまで、要求しています。


 このように、研究開発の動機づけと目標設定は、「同業他社がやっているからうちもやろう」というものではありません。「どうしても当社にとって必要だから」、また「これがなければ会社の将来がなくなりそうだ」という、危機感から発するものでなければならないのです。

 次に、研究を進める場合には、研究者を選ぶことになりますが、どのようなタイプが求められるのでしょうか。


 研究部門には、頭の切れる非常にクールな人が配属されます。そのような非常に冷静でクールに判断できる、また専門分野において非常に深い技術知識をもっているタイプの人は、先ほど言いました、他に比較する基準があるテーマの研究に向いています。


 つまり、同業他社が少しでも取り組んでいたり、海外のある大学教授がレポートを出していたりするテーマを追いかける場合、そのような人は、頭も非常に切れますし、専門知識も豊富ですので、非常に向いているのです。


 しかし、誰もがやっていない前人未到の領域に挑戦するときには、そのようないかにも技術屋らしいタイプの人は、非常に問題があると考えています。というのは、専門分野に詳しいだけに、その前人未到のテーマがどのくらい難しく、途方もないことなのか、よくわかるのです。ですから目標設定をする段階で、すでにどのくらい難しいか、どのくらい可能性が薄いかといった、ネガティブなことをいろいろ考えてしまうのです。


 これは、研究者だけについて言えることではないかもしれません。経営者、またはリーダーがもたねばならない最も大事なものも、テクノロジーなどではなく、すばらしい人間性だろうと思います。テクノロジーを駆使するのも、その人がもっている心であり、人間性です。ですから、研究開発をやっていく場合、やはりすばらしい人間性をもった、バランスのとれた人間でなければならないのです。


 私が研究チームのリーダーを選ぶときには、少し陽性で、ホットで、ポジティブな考え方をする技術屋を選びます。常に前向きで、一見すると無謀で、おっちょこちょいと思われるタイプの人です。


 もちろん、そういうタイプの人だけでは困りますが、少なくともネガティブな考え方をするのではなく、ポジティブな考え方、つまり可能性があるということを、まず信じられるタイプでなければなりません。可能性すら全否定するタイプではなく、少なくともチームで努力をすればできるはずだ、と信じられるくらいの情熱をもった、前向きでポジティブな考え方をするタイ
プの人を選ぶようにしています。


 しかし、そのように陽性で、ホットで、ポジティブな考え方をする人は、どうしても緻密さが足りないということがよくあります。軽率で、単細胞だからこそ、無邪気に可能性が信じられるのです。一方、思慮分別がある人は、簡単に同調して可能性があると信じられないはずですが、簡単に同調するのは、いくらか粗野で単細胞なのでしょう。


 いずれにしても、そのようなポジティブシンキングをする人、一般的には、営業に回せばいいだろうと思われるタイプの人をリーダーにして、いわゆる学校における「秀才」タイプの人を周囲につけることにしています。そして、ホットで、ポジティブシンキングをするタイプの人には、緻密さと学問的な勉強を強く求め、一方で冷静でクールな学者タイプの人には、前向きでホットでポジティブな考え方を常にするように教育をしています。そのような組み合わせでチーム編成をして、研究開発にあたっています。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160402#1459593882
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160327#1459075069
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160108#1452249554(胆大心小)