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経営者にとって、「ROEを上げること」よりも優先すべきものとは? 2009年11月2日、第18回中外管理官産学懇談会講演抜粋|稲盛和夫経営講演選集(公開版) 「経営の父」が40年前に語っていたこと|ダイヤモンド・オンライン

 ここで大切なことは、そのようにして慎重な経営に努め、高収益の企業体質をつくり上げ、豊かな財務体質を誇る企業にしたことが、度重なる経済変動を克服し、京セラを今日まで導く原動力になったということです。高収益であるということは、不況になって売上が減少しても、赤字に転落しないで踏みとどまれる「抵抗力」があることを意味します。


 また、高収益企業では内部留保が増加していきますので、不況が長引き、利益が出ない状態が続いても耐え抜くことができる「持久力」がついていきます。さらには、余裕資金を使って、不況でふだんより安くなっている設備を購入するなど、不況期でも思い切った投資を可能とする「飛躍力」がついていきます。


 常日頃から、慎重な経営姿勢のもと、高収益になるよう全力を尽くして経営にあたることが、不況への最大の予防策となったばかりか、不況期の最良の処方箋ともなったのです。その意味から、私は「一〇%を超える利益率が出せないようでは、経営をやっているとは言えない」と、ことあるごとに社内外で訴えてきました。


 不況ともなれば、製造業では注文が減り、つくるものがなくなり、売上も減っていきます。売上が一〇%落ちれば、当然利益も減少していきます。このとき、かねて一〇%以上の利益率が確保されているとすれば、売上が一割程度ダウンしても、まだ利益を出していくことができるでしょうし、売上が二割ダウンしたとしても、若干の利益は確保できることでしょう。


おそらく、売上が六〜七割程度にまで落ち込まなければ、赤字には転落しないものと思います。売上が多少減ったとしても利益が減少するだけで済むからです。二〇%あるいは三〇%といった利益率を上げている企業であれば、売上が半減したとしても、まだ利益を残すことができるはずです。


 つまり、かねて高収益の経営ができているということは、不況で売上が大幅にダウンしても、なんとか利益を出していけるという、底堅い企業であることを意味するのです。

「心配しなくてもいい。大会社が次々に倒産していくような大不況になろうとも、京セラは生き残っていくことができる。たとえ売上が二〜三年ゼロになったとしても、君たち従業員の生活を守っていけるだけの備えがある。だから、一切の心配は要らない。安心して、さらに仕事に励もう」


 そのように話をして、人心の動揺を抑えたわけですが、これには一切のうそや誇張はありません。事実、当時から、京セラにはそれだけの十分な資金的余裕があったのです。現在の京セラには、現預金等で約四七〇〇億円、株式等で三七〇〇億円、合計八四〇〇億円ほどのいつでも使える内部留保がありますので、いかなる不況に遭遇したとしても、すぐに京セラの経営基盤が揺らぐことはないのです。

 現在の「ROEが高い企業が良い企業だ」ということが経営の常識になっている中にあっては、私の言っていることは暴論なのかもしれません。しかし、その現在の常識とは、あくまでも短期的な視点から企業を見たときの尺度でしかないと、私は考えています。買った株は株価が上がったらすぐに売ればよいと考えている投資家からすれば、確かにROEは高いほうがよいのです。しかし、長期にわたる企業の繁栄を図ろうとするわれわれにしてみれば、企業の安定が何よりも大切です。いかなる不況が押し寄せてきても十分に耐えていけるだけの備えが、どうしても必要になるのです。


 このようなことから、私はかねて慎重に経営の舵取りを行い、その結果として、高収益の経営を目指し、さらには営々と内部留保を蓄積していくことに努めてきました。これこそが不況に備える経営であると同時に、景気変動を克服し、企業を長期に繁栄に導く経営であると、固く信じています。「そのような経営では、会社は大きくなりはしない」と周囲の人に言われ続けても、慎重で堅実な経営を続けてきたからこそ、多くの企業が淘汰されていく中にあって、京セラは幾多の経済変動を乗り越え、半世紀にもわたり、成長発展を続けることができているのです。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160411#1460372039
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