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コラム:ロシア機の異常接近、プーチン氏がやめさせるべき理由 | ロイター

米ハリウッド映画「トップガン」では、トム・クルーズ演じる天才的な戦闘機パイロット、マーベリックが「F─14トムキャット」に乗って、米海軍の管制官に向かって繰り返す定番の冗談がある。


何か機上任務を達成するたびに、高速で低空接近飛行の許可を求める。いつも却下されるのだが、型破りな主人公は、お構いなしにやってしまう。


現実には、高速の航空機を飛ばすことは世界で最もリスクの高い職業の1つだ。緊張関係にある国家間でよく見られる流血を伴わない示威行為のような、大空での模擬戦闘はパイロットの仕事ではあっても、まったく必要のないリスクは許容されない。


先週、バルト海を航行中の米イージス駆逐艦「ドナルド・クック」に対して、ロシア空軍のSU24戦闘機が数回にわたり「攻撃のシミュレーション」(米当局者)を仕掛けてきたとき、ユーモアの精神でこれに応じる余裕は米軍にはまったく欠けていたが、それも無理からぬ話だ。


米軍欧州司令部は報道発表のなかで、こうしたロシア機の行動は「危険でプロフェッショナルではない」と表現し、意図せぬ紛争を引き起こす大きなリスクをもたらしていると警告した。


現時点で米国が示している怒りや公式の抗議には、やや芝居がかった面がある。ケリー国務長官の発言はどうあれ、非武装のロシア空軍機がいくら接近してこようと、少なくともすでに砲火が交わされているのでなければ、米海軍がこれを撃墜することは考えにくい。


ロシア軍機と同様に、米軍機や米艦船にも、必ずしも歓迎されていない場所で自らの存在を誇示する伝統がある。もっともそれは、航行の権利という点で何ら問題のない国際水域・空域での話ではあるが。


たとえば南シナ海では、米国および同盟国の「航行の自由作戦」のもとで、艦艇や航空機が慎重に派遣されているが、その領域に対しては、中国政府が排他的経済水域その他の権利を主張している。とはいえ、中国以外のほぼすべての関係国がその主張に異議を唱えている。


今年1月には、中国政府からも今回の場合と非常に似通った抗議が行われている。中国が支配する島しょから12カイリ(22キロ)の域内に入った駆逐艦「カーティス・ウィルバー」について、「プロフェッショナルではなく、無責任」な通過であると表現したのだ。


米国や、オーストラリア、フィリピン、インドネシアなどの航空機は、領有権が争われている島しょ周辺で中国が自国の防空圏を主張しているのは違法であるとして、定期的にこの空域への侵入を試みている。


中国政府も、自国領域に近い国際水域における米軍などの活動を偵察するため、頻繁に軍艦や航空機を派遣している。専門家のなかには、こうした作戦が偶発的な衝突やエスカレーションにつながるのではないかと懸念する声もある。


もっとも、米当局者によれば、米国側とのやり取りにおいて、中国側の行動はこれまでよりもプロフェッショナルなものになってきたという。軍の部隊はお互いに遠慮して距離を置き、英語で明確かつ効果的なコミュニケーションを取り、意図せずして危険な状況が生じかねないような接近した距離での航空機や船舶の運用を避ける傾向を示しているという。


数年にわたって、関係の構築と行動ルールの基本的な理解に努めてきた米軍の司令官にとって、これは大きな安心につながる。3月にワシントンで行われた会議で、米海軍作戦部長ジョン・リチャードソン大将は、米中両国の軍艦が緊急時に双方の艦橋どうしで直接コミュニケーションを確立できるようにするという点で、非常に現実的な前進が見られたと述べている。


公式の議事録によれば、「おおむね、われわれが策定を進めてきたルールがますます遵守されるようになっている」とリチャードソン大将は述べたという。「(中国側の)司令官とは良好なコミュニケーションを取ることができた。何か疑問が生じるようなことが起きた場合にはお互いに連絡を取ることができる」


ペルシャ湾でも、イラン軍が分かりやすく効果的に行動する傾向を見せていることについて、米海軍の将校が渋々ながら敬意を(あるいは少なくとも評価を)示している。イランの領域に米軍の部隊が接近すると、すぐさま英語で退去するよう警告がある。


だが、より政治性の強いイラン革命防衛隊の部隊については、予測可能性がはるかに低く、許容範囲を超えてくる傾向があるという。今年初め、米海軍の哨戒艇2隻がイラン領海をわずかに侵犯したという理由で拿捕(だほ)された例に見る通りだ。


一方、海空におけるロシアとの対立に関しては、米国・北大西洋条約機構NATO)の関係者のあいだには、ロシア政府が(あるいは少なくともその当局者の一部が)あまりにも多くのリスクを冒しているという確かな印象があるようだ。米当局者の多くは、ロシア側がそのような行動を取るということは、最上層部からそのように促されているに違いないと考えている。


駆逐艦「ドナルド・クック」に対する模擬攻撃の場合、抗議の要点とされているのは、ロシア機が接近したスピードと距離そのものである。「クック」は当時、艦載ヘリコプターの運用作業を行っていたが、指揮官は作業を中止せざるを得ないと感じた。


その後まもなく、ロシアの軍用ヘリコプターが米艦隊の周囲を飛行した。危険性ははるかに低い動きに見えたが、それでも威嚇を試みているのは明らかだった。


米当局者によれば、この事件は、ロシア軍機によるバルト3国の空域を中心とする偵察で繰り返し見られる、はるかに広範囲の行動パターンに合致しているという。場合によっては、ロシア機が実際に領空の境界を越え、警告が発せられることもある。


西側当局者によれば、こうした事件がニアミスにつながる場合もあるという。スウェーデンは昨年、識別信号を出さずに航行していたロシアの偵察機が民間旅客機に危険な距離まで接近したとして抗議した。


12月にはNATOが最近のロシアによる行動について、「域内の民間航空に対する脅威」であると述べた。米連邦政府によれば、「クック」事件の直後である先週末には、別のロシア軍機が、同じ空域で航行していた米軍の偵察機の周囲で潜在的な危険の伴うバレルロール飛行を行ったという。


ロシアの軍事的な行動範囲と影響力が、冷戦終結以降見られなかった規模に拡大している今、こうした事件はロシア近傍以外でも発生する可能性がある。もっとも、「不当にスケープゴート扱いされている」というロシアの抗議も、場合によっては正論であるかもしれない。


昨年、北アイルランドの漁船が、船員たちの考えでは国籍不詳の潜水艦と思われるものに漁網を引っかけ、危うく転覆しそうになった。英海軍の潜水艦は無関係とされ、専門家のあいだには、ロシアの潜水艦ではないかとの声があった。だが9月になって、英当局者が実は英海軍の潜水艦だったことを明らかにした。


問題の一端は、現在のロシア軍の方針において、ロシア政府による軍事行動の詳細をできるだけ曖昧にしておくことが非常に重視されているように見える、という点にあるのかもしれない。


2014年のクリミア併合が示しているように、こうした方針にはいくつかの利点がある。西側諸国の政府が事態を正確に把握する前に、ロシアの非正規部隊(あるいは少なくとも、明らかに軍属と分かる記章をつけていない勢力)がクリミア半島の大半を確保することができたのだ。


地上に関しては、現在米国とNATOが、リトアニアラトビアエストニアといった旧ソ連圏諸国において衝突が生じた場合に、クリミア半島に似た状況に対処する方針・戦略の策定を急いでいる。バルト3国は現在いずれもNATO加盟国であり、NATO憲章では、加盟国のいずれかに対する攻撃はすべての加盟国に対する攻撃であると定めている。


海空においては、状況はもっと明確であるはずだ。1972年には海上において発生した事件の処理に関する合意が米ソ間で結ばれているだけに、なおさらである。しかし先週のバルト海における一件では、この条約への違反があったと米国は主張している。


ロシアからの挑発的な行動が止まると期待する者はいない。実際のところ、米国・西側の当局者の多くは、ロシア政府の立場からすれば、そうした行動が理にかなっている場合が多いことを認めている。だが2014年にウクライナ上空でマレーシア航空MH17便が撃墜された件は、軍事的な責任に関する基準をあまりにも曖昧にすることのリスクを明白に物語っている。


ロシアのプーチン大統領が、自軍の戦闘機パイロットを多少なりとも大人しくさせたいと考えてもよさそうなものだが。

Commentary: Why Vladimir Putin should rein in his 'Top Guns' | Reuters

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160416#1460803048