https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

「隠された価値」を決算書はいつも見逃す|あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門|ダイヤモンド・オンライン

つかみどころのない「ファイナンス」という学問の本質が知りたければ、その「双子の兄」とも言うべき「会計」と対比すればいい。ファイナンスと会計は、ともに「企業のお金」という同じ対象を扱いながらも、その根底にある考え方は正反対である。ファイナンスによれば、「会計はいつも決定的に重要な価値を見落とす」のだという。その真意とは?

ファイナンスは、ブランドのような「目に見えないもの」を価値の源泉だと考える。「価値が価格を決める」という価値中心の世界観で宇宙をとらえようとするのだ。

この違いをよりはっきり理解したいのであれば、ファイナンスの「双子の兄」とも言うべき会計(アカウンティング)と対比してみればいい。

会計の世界では、会社の状態をバランスシート(貸借対照表で表現する。

【問題】
H社が1株1000円で10万株を発行し、1億円の資金調達をした。
このときH社の企業価値はいくらになるのか?

コスト・アプローチで考えれば、この企業の価値は1億円である。なぜなら、この企業の資産の原価は1億円の株主資本だからだ。


実際、H社の社長が「今日で会社を解散します」と宣言し、すべての資産を売り払ったとすると、そこには1億円の現金だけが残る。これをH社の清算価値という。H社が解散すれば、株主たちにはその現金が返ってくることになる。

しかし、現実的にはH社の価値は1億円ではあり得ない。

たとえば、発行当初1000円だったH社株の価格が現在、2000円になっていたらどうだろうか?


この株は10万株がすでに発行されているので、そのH社の株式をすべて手に入れようとすれば、2億円(=2000円×10万株)の資金が必要になる。これをH社の株式時価総額と呼ぶ。


つまり、H社の資産をすべて売り払っても1億円の清算価値しかないのに、株を100%買い占めようとすると2億円かかるということだ。

では、この「目に見えない価値」というのはいったい何なのか? これが銀座の街のブランドに相当する。より専門的な言い方をすれば無形資産と呼ばれるものだ。


企業の無形資産として一般に考えられるのは、ブランド力とか顧客基盤、独自のノウハウ・特許などだ。


たとえば、リクルートという会社は、大学受験から就職活動、結婚、住宅などの情報提供を通じて、膨大な顧客データを保有している。しかし、この顧客基盤はバランスシート上には資産として計上されない。同社の企業としての強みは、こうした顧客情報にあるはずなのに、会計はこの最重要要素を捨象してしまうのである。

株式時価総額と株式資本の比率は、PBR(株価純資産倍率: Price Book-value Ratio)と呼ばれている。この指標の単位は「倍」である。


PBR = 株式時価総額 ÷ 株式資本額


たとえば、H社のPBRは2倍(=2億円÷1億円)だ。健全な企業では、株主資本よりも株式時価総額のほうが大きい、つまり、PBRが1倍以上になる傾向がある。これは、株で集めたお金以上の価値を会社が持っている状態である。

ファイナンスが注目する価値は、こうした無形資産の部分に存在している。それゆえ、会計的には説明できない事象も、ファイナンス的には容易に説明がつくことがある。

1杯1000円のコーヒーは「何で」できているか? ファイナンス的思考としてのキャッシュフロー・アプローチ|あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門|ダイヤモンド・オンライン

そして何よりも、すべての企業にとって決定的に重要な無形資産がある。


それはヒトだ。企業活動の源泉は、やはり従業員なのである。


しかし、驚くべきことに会計上のバランスシートには、従業員は資産として計上されない。たとえば、ある会社を解散すれば、清算価値分の現金1億円が手に入るかもしれない。しかしその背後では、その会社に蓄積されていた、有益なノウハウや強固な人的ネットワークといった膨大な無形資産が散逸している。会社の破産によって失われる価値は、清算価値の何倍、何十倍にも上るのだ。


この大きな損失を見落としかねないのが、お金中心で考える会計的思考の弱点だ。逆に、ファイナンスの強みは、こうした人的資本やブランドその他をひっくるめて、価値を考えることにある。

ところで、この見えない価値は、どうすれば見えるようになるだろうか?

価値評価の方法として、コスト・アプローチ(原価法)とマーケット・アプローチ(取引事例比較法)についてはすでに検討し、それぞれには弱点があることを確認した。これに対してファイナンスが採用するのが、キャッシュフロー・アプローチ

キャッシュフロー・アプローチとは、「モノの価値はそれが生み出すお金の量によって決まる」という考え方である。


あるモノが生み出すお金のことをキャッシュフローと呼ぶ。たとえば、月10万円の家賃のマンションには年120万円のキャッシュフローがある。このように、あるモノがどれくらいのキャッシュフローを生む力(稼ぐ力)を持っているかという観点で、モノの価値を考えるのがファイナンスである。


銀座のコーヒー1杯が1000円するのは、コーヒー1杯で1000円稼ぐ力を銀座のカフェが持っているからだ。同様に、そのカフェが入っているビルが100億円で売られているのは、それに相当するテナント料を稼ぐ力があるからだ。

モノの価値はそれが生み出す将来のキャッシュフローの総和で決まる。これがファイナンスの最も基本的かつ重要な考え方だ。


ここで混同しないでほしいのは、価値を決めるのが「キャッシュ(現金)ではなく、キャッシュフロー(お金の流れ)」だという点である。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160427#1461753997
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160426#1461667268