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これからは『鉄腕アトム』が人類を不幸にする:少子化を後押しする教育コストの増大|日本人が知らない本当の世界経済の授業|ダイヤモンド・オンライン

ブラック・アイド・ピーズのリーダーのウィル・アイ・アムは、非常にスマートな人で、テクノロジーに関しても造詣の深い人です。彼が音楽産業について話した内容は非常に示唆に富んでいます」


「教授ってじつは、すごくいろいろなこと知ってるんですね。どうして、こんないろいろなこと知ってるんですか?」
絵玲奈は、教授のあまりに幅広い知識に、素直に驚いていた。

「ところで、彼の説によれば、80年前にレコード産業が産声をあげるまで、音楽産業で一番儲かったのはだれだと思いますか?」

「彼は、いずれテクノロジーが進歩して、体温や脈拍を手につけたブレスレットが読み取って、そのデータからそのときの気分をコンピューターが計算して、そのときの気分に合った音楽を作曲・演奏してくれるような時代が来るだろうと述べています。よって音楽家は必要なくなると」

「はい、なんだか映画のターミネーターみたいになってきてますが、じつは、このように、デジタル革命が過去に経験したことがないようなものすごい速度で起きようとしていることが、前回に言ったハイパワーで起きている大変化で、私が考える少子化の原因なのです」


「すみません、教授。話が飛んでよくわかりません……」
唐突にデジタル革命の話が少子化になって、絵玲奈は混乱した。


「すみません。順に説明していきますね。まず、デジタル革命によって、産業革命と同じような大きな変化が起きようとしているのです。その結果、仕事を機械に奪われる人が出てこようとしているわけです。それは、デジタルと親和性が高いところから起きやすく、ウィル・アイ・アムが指摘したような音楽はデジタル情報化しやすいため、最も先行してそういうことが起きているわけです」

「だと思います。みんな迷子になっているんだと思います。また、デジタル革命が産業革命と違うのは、そのスピードの速さです。ムーアの法則で知られていますが、デジタル技術の革新は、ものすごいスピードで生じているので、そのスピードに人間がついて行けなくなりつつあるのです。ここで、やっと本題の少子化に戻ります。


 もうおわかりだと思いますが、デジタル革命による社会の高度化は、これまで以上に教育コストの増大を生んでいく可能性が高いのです。勝ち組になるには、機械に負けず機械を管理する高度な知能が必要なのですから」

「そうですね。成人するまでに20年ほど必要という時間もコストもかかる人間が、どんどん進化してゆく機械に追いつくのが大変になっているのです。


 さらに重大な事実があります。産業革命以降、モノをつくる産業が中心だった時代、例えば車だとしましょう。自動車会社をつくれば、工場を建て、人を雇い、その人の衣食住を支える仕事を生み、という具合に1つの町ができていく過程で、創業者は当然大金持ちになるのですが、富は創業者が独占するわけではありませんでした。会社を経営するうえで管理をするホワイトカラーや工場で働くブルーカラーといったさまざまな職種や雇用を生んで、富は分配されていくメカニズムでした。


 しかしながら、これまでに説明したようにデジタル革命の世界では、ホワイトカラーやブルーカラーの仕事は機械によって置き換えられる部分がどんどん増えていき、勝ち組である創業者や出資者である株主、機械に勝って機械をコントロールする人に富が集まる形になってしまいます。つまり、勝ち組でなければ負け組といったように、真ん中がなくなっていく傾向が出るわけです。これが、1人あたりの生産性は大きくなっているのに、所得の中央値が下がっているという事実の原因です。今までの社会であれば社長になれなくても、ホワイトカラーのエリートになればいいということだったわけですが、社長にならないとダメだという世界だとすると、もし子どもを育てることを投資という概念で捉えるならば、リスクとリターンがものすごく投機的な投資、つまりイチかバチかの投資になっていくということになるんだと思います」

「そうです。そのとおりです。最初に言ったように《漠然とした不安》は《新しい時代》に直面しているけれど、どうしたらいいのかよくわからないからなんです。そして、あなたが指摘したように、少子化の問題の例をとっても、政府は《新しい時代》を認識できずにいて、昔と同じ方程式で解決しようとして、とんちんかんなことになってしまうのです」


「原因がわからずにいるから、わけわかんなくなって“街コン”とかやっちゃうんですね」


「そのとおりです。その結果、さらに人に《漠然とした不安》を感じさせているんだと思います。みんなよくわからないけれど、どうも間違えた方向に進んでいる気がするわけで不安な気持ちにさせられるのです。


少子化が進むのは仕方のない話なので、無理やり子どもを増やそうとするのではなく、それに社会をどう合わせていくかが本当は大事なのです。現状のようなおじいさん・おばあさん層におカネをかけていくのではなく、未来ある子どもたちに高度教育を施すための教育コストを社会でどう負担するのかという議論をすべきですし、現状のようなホワイトカラーを大量につくるためにできた教育制度も見直していく必要があるのです。こういう本質的な政策努力をしないと、ますます人は《漠然とした不安》に襲われて極端な少子化が進むという悪循環が発生していくでしょう」

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160510#1462876730(巨大コンピューターと機械妖怪〜隷属する宇宙科学者たち〜)