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凋落日の丸家電が「甘えの構造」から抜け出すための最終提言|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

 なかでも気がかりなのは、右顧左眄型の横並び志向や「皆で渡れば」式の協調体制の淀みが、日本の家電業界の底流に長年浸みついているように見える点である。過去には、上層部が本務を蔑ろにしてまで出世争いにうつつを抜かすなど、目に余る人事抗争に明け暮れてきたケースもある。


 こうした見えざる「しがらみ」の呪縛からか、相互に企業序列を守り合う「甘えの構造」が今なお根強く横たわっているように感じられる。これが国際的な構造変化への臨機応変な対応を鈍らせてきた共通の真相であり、深層でもある。このような古い業界体質や企業風土を自らの手で払拭できない限り、家電業界の行方は前途多難に思える。

 日本の家電業界はなぜ、今なお底流に淀む業界体質や企業風土から脱し切れずにいるのか。あえて直言すれば「奢れる者は久しからず」で、今流に言えば企業ガバナンスの欠如である。田植えはいつすべきか、自分で決めることなく隣に合わせる行動原理に従い、いわば農耕型経営の下で大過なく家電ブームに酔い痴れ、わが世の春を謳歌してきた慢心が、半世紀の歳月を経て体質化するなか、経営危機への備えを怠り、自戒作用が働かなくなったのではないか。昨今の凋落傾向は、その咎めである。

 新製品開発や新規事業への参入をめぐる日本の家電業界の横並び志向は、どこを切っても同じ顔を見せる「金太郎あめ」方式の典型で、古くから有名だ。家電各社は始めは先を競って新製品を開発し、新規市場へ参入するものの、やがて振り向けば全社が足並みをそろえて全製品を手がけている。表向きはしのぎを削り合っているが、その裏では企業序列を守り合う共存共栄の協調体制を優先しているわけだ。いわゆる「つくれば売れる」時代の市場環境で長期にわたり許されてきた売り手市場のぬるま湯が、家電業界の習性となって定着し、今日に尾を引いている。


 また、上層部の出世争いによる人事抗争は、家電業界に限らず、日本の産業界に共通するエネルギーの発露であり、むしろ有効競争が機能している企業ガバナンスの一環としてプラス指向で評価する向きもなくはない。しかし、家電業界の場合は度が過ぎている。特に、カリスマ性の強い創業者の引退や逝去に伴う後継者争いで、躓いている事例が多い。


松下幸之助をはじめ、早川徳次井植歳男らのケースは、その典型例である。後継者の育成に関する遺訓集も出している松下幸之助パナソニックでも、人事抗争が母屋の凋落の引き金になっている(詳細は、岩瀬達哉著『ドキュメント パナソニック人事抗争史』講談社)。


東芝の場合は、創業者ではないが、過去の経営危機を救った中興の祖である石坂泰三や土光敏夫の両名が同社のトップ在籍中に相次いで当時の経団連(現在の日本経営者団体連合会)の会長に就任していることが刺激となって、上層部の出世争いに拍車をかけてきた面が否めない。

次の3つの共通要素も見逃せない。


 1つには、監督官庁経済産業省が「日の丸家電」の国際競争力を強化する大義名分の下で口を出してくる、政策的な介入である。往々にして短期的な効果は期待できても、より必要な構造改革とその課題解決に役立つとは限らない。かえって政策依存心を強めて、自力更生力を弱め、甘えの構造を助長してきた面が否めない。2009年5月の家電エコポイント制度の導入は、典型的な失敗例である。


 2つには、経営の多角化に伴う弊害である。好調な事業の陰に隠れて、不振な事業の効率化や採算への透明性を求める圧力を弱め、効率化への改善、改革やイノベーションへの投資機会を見損なうなど、不採算事業への厳しい監視、監査や切り出しへの経営努力を鈍らせ、やがては企業内で抱え込み、課題解決を先送りする点である。これには、日本国内に経済や産業のスケールに見合うだけの、いわゆるM&A(合併・買収)市場が不幸にもいまだ育っておらず、未成熟であるという事情も見逃せない。これは、政策の怠慢の誹りを免れない。


 3つには、独立系の大型量販店への依存度が強い点である。家電業界の場合、流通機構における末端小売市場の主導権を大型量販店に握られているため、メーカーに対する大型量販店の価格交渉力が強く、大型量販店が安値競争に走り出しても、メーカー側にはそれを阻止して押し返すだけの抑止力が乏しい。いわば、癒着が甘えを助長している構図である。

 家電業界の凋落傾向は、決して今に始まったことではない。『社会実情データ図録』の輸出入を中心とした貿易から見た国際競争力指数で分析すると、家電の国際競争力はすでに1990年代から2000年代にかけて続落の一途を辿っている。その後もタイを震源とする1997年7月からのアジア通貨危機、米国経済のバブル崩壊に端を発した2007年8月からのサブプライムショック・リーマンショックで体力を消耗した。そして2011年10月には、遂に1ドル75円78銭を記録した史上最高値の超円高に襲われ、輸出依存度の高い家電各社は止めを刺されている。


 とりわけ、2011年は3月の東日本大震災に始まり、10月にはタイの大洪水にも見舞われて、国内外のサプライチェーンが打撃を受け、部品調達が逼迫する一方、主力のテレビ関連事業が国際的な値下げ競争で総崩れするなど、かつてない大荒れの1年となった。

 主役交代を加速して決定的にした要因は、国際市場での勝負どころが製品の高品質化競争から低価格競争へ、つまり値下げ合戦へシフトしたためである。日本勢が圧倒的な強みとしてきた「高品質」は、アジア勢の急速な追い上げでその優位性をあっという間に失った。品質での優劣に落差がなくなった日本勢は、安売りで勝負する消耗戦へ否応なく巻き込まれ、自滅の道へ追い込まれていったのである。


 日本国内はもとより、国際的にもほぼ同時進行で一斉にデジタル化した薄型テレビの市場争奪戦が、その象徴であった。投資コストを回収している暇もなく、値下げに次ぐ値下げの消耗戦を強いられたため、コスト競争力に強いアジア勢と弱い日本勢とでは、勝敗は決定的であった。アジア勢は基本的に人件費が安く、為替もはるかに割安である。これに対し、日本勢は人件費が高く、為替は超円高続きだった。アジア勢の安売り攻勢にはついて行けず、脱落を余儀なくされていった。

 1つには、古い業界体質や企業風土を自らの手で払拭していくことが先決である。それには、この度のシャープの外資導入によるテコ入れも、決して当該企業の経営再生策で終わらせることなく、業界全体が古い体質や風土から脱皮するための他山の石として受け止め、わが身への教訓として活かしていくことである。


 2つには、東南アジアをはじめ、中南米やアフリカなどの途上国では家電化の普及がむしろこれからの地域や貧困層が多いため、家電先進国である日本はその普及、啓発に尽力して、寄与、貢献していくことである。日本の家電業界の輸出先は、これまでは欧米やアジアを含め、富裕層向けが中心であったが、これからは日本にとって未開発地域の海外戦略、戦術が急務となる、


 3つには、家電イノベーションが「もの」ベースから「サービス化」へ、さらには家電のIoT(Internet of Thing)革命へと急進展する中で、日本の家電業界はその先端的なビジネスモデルを開発し、市場化への展開で「お家芸」を発揮・再現して、先端家電の国際市場を先導していくことである。それには、液晶に代わる次世代ディスプレイとなる有機ELの応用展開をはじめ、家電と自動車と電力網をつなぐV2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)など、家電のIOT革命を率先垂範して、推進していくことである。