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「縮小市場で生き残る」勝てる営業組織のつくり方 ?『キリンビール高知支店の奇跡』(田村潤著)を読む|イノベーション的発想を磨く|ダイヤモンド・オンライン

 たとえば最近ではソニー任天堂の凋落、シャープの破綻などが取り沙汰されるが、かつて一世を風靡したヒット商品のある優良企業であろうとも、その成功にあぐらをかき市場の動きに鈍感になると、すぐにライバル企業に市場を奪われ、あっという間に業績を悪化させてしまう時代のようだ。

 競争に勝つのに、技術力や商品力はもちろん重要だ。しかしそれ以上に、戦略的に市場にアプローチして自社商品に何が求められているかを把握し、商品づくりに反映させたり、顧客を囲い込むために自社商品の良さを市場に訴求するための「営業力」が重要な時代になってきたようだ。

 現場の営業マンは、問屋や酒販店に対して「これを売ってください」というだけの“殿様営業”しかできない体質になっていた。さらに酒販店からは「キリンよりアサヒのセールスの方が一生懸命回っている」と言われてしまうようなありさまだった。


 これでは顧客のニーズなどキャッチできないし、アサヒビールにシェアを奪われてしまうのも無理はない。田村氏は、そんな「負けている組織の風土」を変えるために、現場一人ひとりの意識改革から着手した。

 田村氏は、「高知の人にキリンビールを飲んで喜んでもらうために仕事をする」という「理念」と、そのために「営業の力でどこに行ってもキリンビールがある状態を作る」という「ビジョン」を提示した。そしてそれを繰り返し語り続けた。


 また、問屋や酒販店への営業に注力せよという本社の方針に反して、料飲店(居酒屋、レストラン、焼肉店、ビアホールなど)という顧客により近く、営業力で数字が上がりやすい市場に特化する、という「戦略」を自らの足で集めた情報を元に立案した。


 さらに、「月ごとの料飲店を訪問する件数を大幅にアップさせる」というわかりやすい目標を一人ひとりに持たせた。そしてそれを実現する施策を自分で考えさせ、きっちりと実行させたのだ。

 田村氏は「リーダーはメンバーから信頼されないのが普通だ」と言う。


 信頼を勝ち取り、メンバーのコミットメントを引き出すためには、まずリーダー自身が揺るぎない「理念」と「ビジョン」をもち、それをわかりやすく言葉で語ること。さらに立てた「戦略」に本気でコミットする姿勢を見せることが必要不可欠なのだ。

 田村氏による一連の改革のいちばんの成功要因は、小さな現場から改革をボトムアップ的に始めて、最後は全社を巻き込む大きなうねりを作り出すことに成功したことにあるだろう。

キリンビールのような大きな組織で組織改革を進めるには、上層部で方針を決めてトップダウンで現場に落としていかないと無理だと思うかもしれない。


 だが、トップダウンで進めると、どうしても画一化され官僚支配的になり、計算不能な多様性を認めない雰囲気になってしまう。現場の反発にも合い、結局何も変わらない、ということにもなりがちだ。しかも田村氏は、そもそも上層部の考えには反対だったのだ。

 これは遠回りで時間がかかるやり方に感じられるかもしれない。しかし、小さな変革を確実に実行し、成果が認められれば、周りにそこから学ぼうとする雰囲気も生まれる。それを、全社改革に向けた大きなうねりを起こすことにもつなげられる。もし田村氏が高知支店に左遷されることがなく、本社で改革に着手していたとしたら、思ったようには進められなかったかもしれない。


 また田村氏は、イノベーションとは既存のものや力の組み合わせ方の革新であり、だから誰にでも実行できる、とまとめている。


 誰にでも実行できるからこそ、広く現場の意思に任せて一人ひとりに実行させることがやがて改革に向かう大きな力になる。そういう環境を身体を張ってつくることが、リーダーの役割でもあるのだろう。