https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

「原発広告」の欺瞞を元博報堂の営業マンが激白 『原発プロパガンダ』の著者・本間 龍氏に聞く|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

 これまで私の本は、大手広告代理店とメディアの関係における諸問題を衝くものが多かったことからか、新聞の日曜版の中面にある書評欄では黙殺されてきました。例えば、『電通原発報道』などは、実際に読んでくれた人の評価は高く、今でも少しずつ売れ続けていますが、どうやら私の本は新聞社における書評掲載基準に抵触するようでして(苦笑)。それでも、ジャーナリストの鎌田慧さんや、文芸評論家の斎藤美奈子さんが、自分が新聞紙面で持つ書評コラムの中で取り上げてくれました。ありがたいことです。


 今回の『原発プロパガンダ』は、書評欄でこそ紹介されていませんが、大型書店の新書部門ランキングの紹介という形で書評欄の一角に掲載されました。それだけでも驚きですが、知ってもらうということでは一歩前進と言えます。

原発広告は、原発の黎明期に立地地域を対象とした賛助広告としてスタートしましたが、後に原発推進側による意見広告としての性格を強めていきました。歴史を調べてみると、最初は官民でおっかなびっくり原発を進めていたことが分かります。そして、日本各地で原発の数が増えていったことから、立地地域ばかりでなく、全国を対象とした広告が増えました。同時多発的に、全国各地で増えました。産官学による安全神話キャンペーンは、1978年に米スリーマイル島原発事故、86年のチェルノブイリ原発事故などの世界的な大惨事が起こる度に、広告出稿量が激増しました。これは経年データで見れば、一目瞭然です。


 とりわけ、90年代に入ってバブル経済が崩壊してからは、電力会社もしくは電力関連団体は“大”が付くスポンサーとして、代理店やメディアから頼られる存在になりました。知名度のある堅い会社であり、巨額の広告費を落としてくれるばかりか、まったく値引きを要求しない稀有な発注主だったからです。


 となると、電力会社などのスポンサーのために、知力と体力をフル稼働させて原発広告を製作し続けてきた電通博報堂などの大手広告代理店は、結果として嘘を拡散する原発プロパガンダに加担したことになります。広告を載せてきたメディアも、ある種の先棒担ぎをしたとの誹りは免れません。そうなっていたのは、(1)スポンサー → (2)代理店 → (3)メディアとお金が流れていくサイクルが順調に回っていたからであり、実際には“誰も困らなかった”からです。

原発広告の目的は、一般消費者に向けたイメージ広告のようでありながら、原発に対するメディアの批判的な意見を封じ込めるために、広告費という形に変えて賄賂を渡すことにありました。言い方は悪いですが、事実上の買収です。長年にわたって巨額の広告費を投下し続けた結果、こうした構造が出来上がりました。私の本で詳しく解説していますが、その網羅性は圧倒的で盤石なものでした。電力業界は、この構造を逆手に取ったのです。原発に関して、都合の悪い記事を書いたメディアに対しては、さまざまな手段で圧力をかけました。


 しかも、直接その記事を書いた記者に対して圧力をかけるのではなく、立場の弱い広告部の担当者などに圧力をかけるのです。当然ながら、電通博報堂の担当営業マンは、電力業界にとって都合の悪い記事の扱いが小さくなるように“お願い”に走り回ります。扱いが小さくなるというのは、例えば朝刊の一面にデカデカと出るのではなく、夕刊の社会面に回してもらうなどの工作活動です。いつもうまく行くわけではありませんが、うまく行けば「よくやった!」と担当営業マンの評価が上がるのです。それも、仕事の範囲内だからです。


 その一方で、広告代理店を介さず、直接、記者に対する抗議行動に出ることで知られていたのが業界団体の電気事業連合会電事連)で、都合の悪い記事を書いた新聞・雑誌の記者や原発に否定的なテレビ番組を製作したスタッフを更迭するよう圧力をかけるということもしていました。「電力業界はどんな些細な間違いでも見逃さずに文句を言ってくる」「広告出稿の引き上げをにおわせる」ことでアンタッチャブルな空気を醸成し、それがメディア内での“自主規制”につながりました。電力業界は、そうして強大な力を持つようになったのです。

 民間企業との最大の違いは、電力会社は「総括原価方式」といって、広告費までが原価に含まれる点で、最終的に電気料金に上乗せして回収できました。総括原価方式があったからこそ、関東のローカル企業に過ぎない東京電力が、年間269億円(2010年度)もの広告費が使えたのです。この金額は全国的にビジネスを展開するトヨタ自動車パナソニックなどが並ぶ「日本の大企業が1年間に使った広告費のランキング」でも、ベスト10に入るほどの規模でした。


 少し前の朝日新聞の調査ですが、1970年から2011年までの42年間で、日本の電力会社9社が使った普及開発関係費(広告・宣伝費)は、2兆4000億円にのぼります。これ以外にも、業界団体の電事連は年間866億円(2010年度)もの広告・宣伝費を使っていました。その規模感たるや、世界にも例がありません。

博報堂に在籍していた頃から、私は原発問題に関心を持っておりましたので、独立系のシンクタンクである原子力資料情報室の個人会員になっていました。きっかけは、1986年のチェルノブイリ原発事故でした。その後、「朝まで生テレビ!」で反原発の立場から論陣を張っていた物理学者・核科学者の高木仁三郎さん(1938年〜2000年)が鋭い質問を繰り返していたのに対し、原発推進側の電力会社の人たちがまともに答えられない状況を見ました。堂々と質問に答えない電力会社は「何か隠しているな」としか思えませんでした。私は、高木さんの言うことのほうが筋は通っていると感じましたので、高木さんが中心になって設立していた原子力資料情報室の会員になりました。今でも会員を続けています。


原発広告については、博報堂に勤務していた頃から、私は「おかしいな」とは考えていました。北陸支社勤務時代は、北陸電力の担当を断ったこともあります。

 東電の福島第一原発事故で、国土の一部が半永久的に失われたのですから、決して風化させてはいけない。今日、安倍晋三首相は、原発の再稼働を急いでいますが、その前に、立ち止まってじっくり向き合うべき現実があるはずです。今も10万人の被災者が家に戻ることができないのに、どうして再稼働なのか。


福島第一原発事故では、誰も責任を問われず、訴追されていないのです。あれだけの大惨事を引き起こしながら、責任の所在がうやむやになっているという大問題が残っています。根本的におかしい。もとより地震大国の日本で、再び原発事故が起きたら、国が破滅してしまうでしょう。国策と言いながら、“原発のゴミ”である放射性廃棄物の処分問題も、まったく解決していないままです。