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「立ち上がれ!ソニーの中の“不良社員”」:日経ビジネスオンライン

ーー大曽根さんはソニーの副社長まで務めました。経営の一線から退く前に、ソニーの凋落を止められたかもしれない、と思うことはありませんか。


大曽根氏(以下、大曽根):あと出しジャンケンみたいなことはしたくないからな。だけどあえて、今そういうことが言えるとしたら一つ。


 一度は売却する方針を出して、後に撤回したバッテリー事業に関することかな。具体的には、ソニーが今も手掛けているリチウムイオン電池事業。こういう、新興国勢がキャッチアップできない分野の事業を大事にすべきだと、もっと強く言っておくべきだったと思うね。


 リチウムイオン電池は、ソニーはかなり昔から手掛けていてね。大賀(典雄、元ソニー社長)さんと私で、まだ塙(義一、日産自動車の社長や会長などを歴任)さんが専務くらいだった頃の日産自動車に、ソニー製のクルマ用リチウムイオン電池を運んだんだ。


 追浜(神奈川県)にある日産の工場で、試作している電気自動車に載せるっていうんで、大賀さんとヘリコプターで電池をそこまで運んだ。今でこそ電気自動車や燃料電池自動車とか、エコなクルマが話題になっているけれど、これは20年以上も前の話だよ。実はそんな前から、電気自動車の研究が粛々となされていたんだ。

大曽根:ヘリで追浜の工場に到着したら、そこにテストコースもあってさ。試作された電気自動車が走っているわけ。エンジンの音が全くしなくて、すごく静かなのに、スーっていう感じで結構なスピードが出ていた。


 大賀さんは乗り物が大好きだから、自分でも電気自動車を運転させてもらって、「これはすごいな」なんて言って、はしゃいでいたよ。


 何が言いたいかというと、当時からソニーには、電気自動車用のバッテリーを作れる最先端の技術があったということなんだ。けれど出井(伸之、ソニーの社長や会長兼CEOなどを歴任)さんがトップになってから、「自動車会社の下請けなんてダメだ」と言い出して有望だった電気自動車向けのバッテリー開発を重視しなくなったんだ。


 電気自動車におけるバッテリーは、もうクルマの性能を大きく左右する中核技術だからね。電気自動車の時代が到来したら、それは下請けかどうかとか、そんなことにこだわっている場合ではないような重要な技術なんだよ。


 当時も当然、ガソリン車が主流だったけれど、将来的には電気自動車が徐々に出てくるし、省エネが意識されれば電気自動車が主流になるかもしれない。そこで必要となる中核技術はモーターを回すためのバッテリーだよ。だから下請けじゃなくて、電気自動車の中核技術を作るってことなんだ。これがないと電気自動車が動かないんだからさ。そういうことが、出井さんには全く見えなかったんだろね。


 一方で、このトレンドを見抜いたパナソニックは米テスラモーターズと組んで、電気自動車用のバッテリー事業を大規模にやり始めた。技術を持っていたのに、なんでソニーがこれをやってないのか、忸怩たる思いがあるよ。


 あの時、追浜の工場に大賀さんと一緒にバッテリーを運んだ当事者であるだけに、もったいないったらありゃしない。日産みたいな大手の自動車メーカーから、ソニーにお声がかかっていたんだから。今ではそんな状況、到底考えられないでしょ。

大曽根:もちろん、まだ本格的な実用化なんて全く見えていない時期だよ。だから、電池から煙が出るとかの不具合もあったよ。なにせ、今から20年以上も前の話だからね(笑)。


 でも大賀さんは言っていたの。「教科書がないんだから仕方がない。ソニーが新しい教科書を作っているんだから、何が起こるかも、何をしたら失敗するかも分からないよ。だから細心の注意を払いつつ、いろいろ挑戦しようよ」ってね。


 「煙が出るだけじゃなく、電池が火を噴いても、ちゃんと保険をかけてあるから安心して、どんどん挑戦をしろ」と発破をかけられてたよ。経営トップからそう言われたら、現場は盛り上がるよね。


 そのくらい将来性のあるバッテリー事業なのに、この10年で有望なエンジニアがどんどん辞めてしまった。

大曽根:10年以上も続いたリストラに次ぐリストラで、ソニーを去った人は約7〜8万人。開発や設計、技術、営業など、幅広い職種で、優秀な人材がいなくなった。リストラすると、どうしても能力のある人から先にやめていくのが致命的だよね。


 一時的に人件費が下がってコスト削減できるから業績は回復するけれど、長続きはしないよ。将来の会社の成長を担うべき技術を持っている人がいなくなって、もう二度と帰ってこないんだから。リストラを繰り返してソニーは本当に弱ってきてしまった。そういうのを、ソニーOBは心配しているんだ。


 例としてあげたリチウムイオン電池だけでなくて、森園(正彦、ソニー副社長などを歴任)さんなどが技術の統括をやっていた頃はいろんな研究開発をしていた。大賀さんや盛田正明(ソニー創業者である盛田昭夫氏の実弟で、ソニー副社長などを歴任)さんといった、技術に理解ある人たちも先進的な研究開発を進めさせていた。しかし結局、その後に経営体制が変わると、コスト削減を理由にやめちゃった。早くから着手していた様々な分野の研究をね。


 あまり知られてないけど、「クロマトロン」という技術を地道に研究開発してきたから、後のヒット商品となった「トリニトロン」という技術を使ったテレビの開発につながっていった。これは大賀さんが腰を据えて研究開発を続けさせていたんだよ。新しいことを生み出すっていうのは。そういうことなんだよ。

大曽根:今、しきりに思うのは、韓国勢や中国勢が台頭しても、すぐ真似をされない分野は、ソニーグループにちゃんとあったってことなんだ。そういう意味では、ソニーがかつて持っていた化学部門が極めて重要だった。ソニーケミカル(現デクセリアルズ、2012年にソニー投資ファンドなどに売却した)っていう会社ね。


 例えば半導体や液晶が分かりやすいけれど、物理学を基本にした技術や製品は、装置があれば作れてしまう。技術もノウハウも、今は日本製の製造装置に入っているからね。


 デジタル化の時代になって、韓国勢や中国勢、台湾勢が、その製造装置を買うことができれば、日本企業と同じ品質やスペックの製品が作れるようになってしまった。半導体は物理学の世界で、原理原則をきちんとやると、後は論理的に同じ結果が出る世界なんだ。だから同じ装置を使えば、同じ品質のものが作れる。


 結局、半導体や液晶パネルは、中国勢や韓国勢に急速に追いつかれて、抜かれてしまった。こうなると技術力うんぬんではなく、いかに質の高い設備を大量に買うことができるかという投資余力の有無で勝負がつく。パワーゲームになってしまうんだ。日本勢には分が悪いよね。そういう戦い方に慣れてないから。


 ソニートランジスタラジオで一世を風靡したのは、世界のどこを探してもトランジスタの製造装置なんてなかった時代だからだよ。ソニーは自分で独自の製造装置を作って、トランジスタラジオを作った。だから競争力のある製品だったんだ。


 その製造装置は外販していなかったから、ソニートランジスタラジオは差別化できた。今のデジタル家電やデジタル部品は、生産設備メーカーが、完成品メーカーとは別になっていて、同じ生産設備を入れれば同じ品質の製品を作れてしまう。これが物理を基礎にした分野ね。

大曽根だけど、物理の世界と違って、化学の分野は全く異なる勝負ができるんだ。化学分野では、触媒を一つ変えるだけで、従来と大きく異なる素材や製品ができるからさ。欧米企業は家電や半導体などのコモディティー分野でモノ作りが空洞化しても、独BASFや米3M、米デュポンといった化学分野の企業は、今もちゃんと生き残っているでしょ。東レとか、日本勢も化学分野は元気だよね。あれは化学分野が、簡単に新興企業に真似されにくいことの証左だよ。


 だから、ソニーケミカルが手掛けていた、電機製品を作るための接着剤や粘着テープといった部材は、新興国勢がキャッチアップできない化学分野の事業として重要だったんだ。今もソニーケミカルが作っていた部材の世界シェアはものすごく高いよ。


 それなのに、足元の経営が厳しいからと、短期的な視野しか持たないストリンガー(ハワード・ストリンガーソニー会長兼CEOなど経営トップを歴任)体制時代に、経営陣が「高く売れるうちに売っちゃえ」と売却しちゃった。これは当時のソニー経営陣が、あまりに技術音痴で、先を読めなさ過ぎることを証明していると思うね。こんな大事な技術を持つ会社を、「ノンコア事業」と判断して、手放しちゃったんだから。

大曽根:まだソニーに残っているバッテリー事業も化学分野だからね。差別化しやすい事業なんだから、その重要性にちゃんと気が付いて大事に育ててほしい。


 平井(一夫、現ソニー社長兼CEO)さんが経営トップになった当初は、ソニーの宝のような事業であるバッテリー部門を売却する方針を出してたのを覚えているかな。結局、1年くらいしたら売却する方針を撤回したんだけど今度は、「バッテリーは中核事業だ」とか言い始めて、方針が二転三転している。


 この話を聞いて、「なんで、バッテリー事業の重要性が分からないのか」と残念に思ったよ。売却する方針が一度でも出たら、この分野で優秀な人材はすぐに会社を辞めて次に行くからね。


 「売却する」と経営陣が言った時点で、キーパーソンの技術者がいなくなったはずだよ。その後で方針転換をして、「やっぱり重要な事業です」とか言い出してももう遅い。それをこの数年でやっちゃったんだ。

大曽根:大賀さんが社長を退いた後、もう四半世紀近く、ソニーは長く低迷している。2015年度は3年ぶりの最終黒字を達成したけれど、これをいつまで続けられるのか、今の経営陣も取締役も見通せてないと思うよ。一時的に業績は良くなっているけれど、全く安心できる状況にはないと思う。

ーーソニーはエレキ事業に注力し続けていてもよかったと思えるのに、映画や音楽というエンタメ事業や、生命保険などの金融事業といった、モノ作りから離れた分野に多角化していきました。これはなぜでしょうか。


大曽根:映画や音楽、金融と、業容を広げていったのは盛田(昭夫、ソニー創業者)さんのアイデアだね。当時も今も、メーカーとしては異例の多角化だったと思う。


 金融分野に進出したのは、盛田さんが「銀行に頭を下げてばかりいられないから、いつかはソニーグループで金融事業を持ちたい」と、しきりに言っていたことが始まりだよ。井深(大、ソニー創業者)さんは生粋の技術者だからやりたいことは一つ。ハードウエアの分野で次々と新しいモノを作りたかったんだと思う。


 盛田さんは井深さんとは違って興味の範囲が広かった。だから、映画や音楽といったエンタメ分野や金融分野といった、経営の多角化を進めたんだろうね。


 音楽会社や映画会社を買収した後、役員会などの会議がソニーの本社で開かれるようになったわけ。そうすると米国から、米ソニー・ミュージックエンタテインメントや、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの幹部連中が東京に来るようになった。これが結構なカルチャーショックでね。みんなTシャツにジーパンで、靴下もはかないでスニーカーだったりして。そんな恰好でソニーの本社に来るわけだよ。


 スーツを来ているソニー本社の連中はみんな、びっくりしちゃって。「この世のもんじゃないな」みたいな目で彼らを見てた。「こういう連中がソニーグループに入って来ちゃうのかよ」、なんて言う人もいたよ。


 会議に参加する人の格好からして全く違って、異様な感じがプンプン。モノ作り一筋だった我々とは世界が違うんだなという感じが出ていたよ。


 だから、向こうに任せっきりで野放しになっていた部分はあるんだろうけど。米ソニー・ピクチャーズでは経営トップの2人が、しこたま会社のカネを使いこんでいる時期があったよね。大賀さんが米国に行って、ハリウッドの世界で「これは使える」と見込んだ人材を採用して経営陣に迎え入れたりしたわけだけれど、やはり言葉も文化も違う世界だし、ソニーはまだエンタメ業界のマネジメントもしたことがなかった。どういうタイプの人間がこの業界で信頼してビジネスを任せられるのか、それを見極める力が足りなかったのかもしれない。


 音楽や映画の世界は、ちょっと異質だったよね。盛田さんは、ハード製品を売るためにソフト事業を強化するという位置づけにして、エレキ事業と全く関係ないわけじゃないから、という意図で買収をしたんだろうけれど。未知の事業で外国の企業でもある。人脈も知見も少ない状態で新しい分野に参入するのはリスクが多かったということだろう。

ーーエレキ事業とエンタメ事業の間にあるような、ゲーム事業への参入については当時、大曽根さんはどのような意見だったのでしょうか。


大曽根:私が副社長をしていた時、プレステ(プレイステーション、日本では1994年に発売)を久夛良木(健、ソニー・コンピュータエンタテインメント社長やソニーの副社長などを歴任)が出すっていうんで、ソニーはおもちゃ会社じゃないんだから、ゲームの機械にソニーの名前を付けちゃだめだ」と私が意見したんだよね。


 そうすると大賀さんも、「それはそうだな」と同調してくれて。だからプレステは、「SONY」という名称が入っていないでしょ。今でもソニーの製品というより、「プレステ」として認知されている。それで良かったんだよ。


 そういう経緯があるから、あえてソニー本体ではやらなかった。ソニーの完全子会社でもなく、ソニー・ミュージックエンタテインメントソニーの共同出資会社になったわけだよ。


 それなのに我々が引退した後で、今度はプレステが金のなる木に化けて、本体の事業より利益が出るようになってきたからということで、ソニーの完全子会社にしちゃった。ゲーム事業はソニー本体から少し離れて自由にやれるよう、あえてソニー・ミュージックとの共同出資にして遠ざけていたから、しがらみなく成長できたんだよ。


 それなのに、カネに目がくらんで、本体に近づけようとして完全子会社にしちゃった。あの資本政策も、私は非常に違和感があったの。それぞれの会社の成り立ちには意味があるんだよ。深い考えがあるわけではなく、その会社が稼いでいるおカネが欲しいからといって、安易にその方針を変えてしまうというのは、よくなかったよね。

ーー当時、ゲーム事業への参入について、ソニー本体では反対派が多かったと聞きました。


大曽根:私は別にゲーム事業の参入に反対していたわけではないよ。参入しても、製品にソニーの名前を入れないように、と考えていただけで。


 後のプレステにつながるゲーム機は元々、任天堂に頼まれて開発していたんだ。それなのに任天堂が「やっぱりいらない」と言いだしたのが発端だよね。そのうえ、「これまでの開発費も払わない」と言われちゃった。そんな理不尽なことあるかということで、「よし。じゃあ自分たちでやろう」ということになったんだ。もう売り言葉に買い言葉で、久夛良木と大賀さんが話をしてやることになった、という経緯があるから。そしてプレステが生まれた。


 経緯はどうあれ、あの時、ゲーム機に参入したのは正解だった。当時、ゲーム機では任天堂が唯一、飛び抜けた存在だったよね。そういう状況では、ゲームのソフトを作る会社の大部分は任天堂の言いなりになるしかない。みんな忌々しいと思いつつも、圧倒的に強い立場の任天堂の言うことを聞くほかなかった。


 そういうところに、新勢力が入って見込みがありそうとなったら、みんながダーっとなびいてくるよね。ソニーがゲーム事業に入るとなったら、ソフト会社とはいい関係が作れるだろうと私は思ったよ。ソニーは音楽や映画事業も持っていて、コンテンツの重要性を理解する人材がグループ会社にいることも分かっていたからね。


 売り言葉に買い言葉で決めた事業だったけれど、冷静に考えても、任天堂と戦える余地はあるなと感じていたよ。

ーーしかし、プレステ後は斬新なヒット商品が生まれていません。今後、ソニーはかつてのようなヒット商品を生み出す会社に復活できるのでしょうか。


大曽根:まだソニーは大丈夫。建て直せる余地はあるよ。本来はものすごく豊かな発想で、アイデアをたくさん持っているエンジニアがいるはずなのに、管理屋に経営を牛耳られて不良社員化しているだけだから。リストラで抜けた人もいるけれど、不良社員化して社内に残っている人もいるはず。


 そういう人たちは、成果報酬や業務の効率化で自由な開発ができなくなって、息苦しくなって、やる気を失っているだけなんだ。こうした人材が辞めてしまう前に、どうにかしてまた、やる気を起こさせることが重要だろうね。“有能な不良社員”をいつまでも社内で腐らせておくのはもったない。それがソニーを復活させるカギだろう。


 ゼロを1にする人と、1を100にする人は別モノなんだ。そこそこ優秀な技術者なら、1を100にすることができるかもしれない。けれどゼロの状態を1にできる人はなかなかいない。そういう人はこだわりが強くて、奇人変人と呼ばれる類の人かもしれない。そんな人材をマネジメントできないと、新しいモノやおもしろいモノは生み出せないよね。

大曽根ソニーの経営陣が、何とか、そういった人材をマネジメントできるようになってほしい。そのためには技術の先読みができる経営陣でないと難しいだろうね。トップが技術を理解できないなら、右腕に技術系の人材を据えて、補えるようにするとか。


 有能な不良社員をやる気にさせるには、技術的な目利きが重要になる。その目利きはやはり社内の人がやるべきだ。社外取締役がいかに優秀でも、ソニーグループのどの技術者が有能かなんて分からない。だからそういう人を抜擢して、上に引き上げられない。


 こうやって経営の課題を解決できれば、ソニーが復活できる「芽」が社内で出てくるはず。異能のリーダーの下に異能の人材が寄ってくるんだ。逆に、茶坊主の下には茶坊主しか集まらないんだよ。

ーー実体験に裏付けされた、歯切れがよい大曽根さんの言葉は痛快で、人に元気を与えます。衰退する日本の電機産業や日本の技術者などにメッセージはありますか。


大曽根:メディアは「失われた20年」とか暗いことばかり言うけれど、もっと前向きなことを報道してほしいよ。GDP国内総生産)で中国に抜かれたのは事実だけれど、世界中にこれだけたくさんの国があるなかで、国としてのGDP規模はまだ3位でしょ。失われた20年だったのに、ついこの間までは米国に次ぐ2位で、まだ世界で3位。それって、すごくないか。


 産業の歴史から何を学び、どうしたら日本勢の強みを伸ばして成長できるか考えるべきだろう。さっき言ったように、化学やメカの分野で、まだ日本は技術を蓄積できていて競争力を持っている。強い産業はきちんと強くなっている。日本全体が変にクヨクヨしないで頑張ろうよ、って言いたいね。


 世界で闘える電機メーカーだってまだまだたくさんあるよ。デジタル家電の部品会社として元気のいい村田製作所や京セラ、TDKは、もともと化学分野の製品も作っていたんだよ。抵抗・コンデンサとかね。だから韓国にも台湾にも中国にも、あんな機能を持つ部品を作れるメーカーが生まれてこないんだ。


 米アップルのiPhoneも、1台につき約35%が日本の部品メーカーの部品を使っていると言われているでしょ。日本製部品の信頼性や品質は化学分野の強さから来ていて、今もとても競争力がある。


 後はメカや機械の世界ね。実装機や生産設備もそう。産業機械からコマツのような建機まで、それらはメカの分野だ。この分野の製品も新興国勢は簡単にはマネできない。デジタル家電は数学ができればなんとか真似できるけれど、機械分野はそうはいかない。


 その、機械とメカの塊が自動車だよ。デジタル家電は軒並み新興国勢にやられちゃったけれど、自動車会社は日本にたくさんあって、一部を除くと、みんな個性を出して成長している。


 だから産業機械や素材、生産設備、医療機器、ロボットなど、そういう分野では、まだ日本勢が伸びるよね。しかも日本にはそういう分野の基礎技術や開発、生産のインフラが整っている。すそ野となる企業も育っている。こういう分野こそ日本企業は強化すべきなんだよ。

ーー一般消費者向けの最終製品ではなく、主にBtoB(企業間)や黒子となるような分野で日本のメーカーは生きていくべきなのでしょうか。


大曽根:そんなことはなくて、考え方次第だよ。あらゆる製品で「市場は成熟している」とか、したり顔で語られるけれど、「バカ言っているんじゃないよ」と言いたいね。今の製品なんかちっとも成熟してない。


 最近の製品は処理能力が上がっただけで新しさを感じられない。だから誰も欲しいと思わなくなった。これを成熟市場になったからだと勘違いしているけれど、次から次に進化する未知の世界はあるんだよ。単に新しいコンセプトの創造ができてないだけなんだ。


 消費者が新製品を買うかどうかを決めるのは、機能や能力が既存製品からアップしただけじゃない。だから最初の目標設定能力が大事なんだ。コンセプトと言ってもいい。どういうコンセプトの製品を作ろうという観点が、今の日本企業の最終製品にはなくなってきている。


 結局、処理能力や機能向上ばかりの新製品が増えてしまうのは、1を100にすることが得意な人間が幅をきかせているっていうことなんだろうね。目標設定能力を持った人間がなかなか出てこないのだろうけど、確かにゼロを1にする人はそんなにいないよ。ただ重要なのは、そういうコンセプトを作れる人間を日本で大事にできるかどうかだろう。


 ユニクロにしたって、「衣類」なんていうのはもう太古の昔からあった。だけどそういう製品市場で、全く新しいコンセプトの製品を作ったから急成長した。日本電産もそうだよね。モーターなんていうものは100年前からある。日立製作所の創業者がモーターを作っていたよね。だけどモーターの需要を次々に広げて、今も市場は伸びているでしょう。


 だから、「この世に全くないモノを新しく創ろうなんていうことだけに、捉われなさるな」とも言いたいよ。衣類やモーターみたいに、元々あるものでも新しい発想や組み合わせで革新を生めるんだから。

大曽根白物家電の分野もおもしろいよ。最近だって英ダイソンが、羽根のない扇風機を作ったよね。ずっと昔からある扇風機だけど、ああいう革新的な製品が白物家電の分野からはまだ出てくる。洗濯機や電気釜とか、日本勢しか作れないような製品がまだ出てきて、高い値段でも売れている。ここは韓国勢や中国勢と戦っても、安売りしなくて売れるでしょう。


 デジタル製品分野で韓国や中国にやられちゃったことを、マスコミが過度に叩くから、みんなしょぼくれちゃったんだよ。電機だけでなく、いろんな分野で日本人は新しいものを作ってきたんだよ。勝てる領域で新しいことを大胆に発想して、「まずはやってごらんよ」と言いたいね。そういうムードができれば、日本からまた新しいものが次々と生まれるよ。


 いつ成果が出るかとか、結果がどうなるかとか、管理屋的な発想は置いておいて、ね(笑)。まず自由に発想してほしいよね。みんなが何に困っていて、どうやったら便利になるのか、どんな世界になれば楽しくなるか考えていこうよ。


 例えば、今も高速道路は渋滞していて正月や連休は大変になる。自動車のドローンみたいなものが出てきて、ひょいと3メートルくらいの高さまで上がって、すーっと空を飛んで進んで、渋滞が途切れたところまで飛んだら、また道路に降りて走行できるとか。ドローンは垂直に離着陸できるから、この技術をクルマと組み合わせられないのかな、とかさ。


 「バカみたい」とか「そんな無茶な」とか思うかもしれない。だけど、まずは発想を豊かすることが重要なんだよ。そうしないとゼロは1にならない。


 クルマもまだ進化するし、新しい需要を生みだせる。発想次第では、クルマをベースに新しいモノを出せるはずなんだ。衣類やモーター、クルマもそうだけど、まだ需要があって使っているものは、成熟市場になんてならなくて、成長産業になり得る。いらないものだったら、すぐにこの世からなくなっちゃう。必要だから、まだ存在しているんだから。

大曽根:サービスでもいいんだよ。セブンイレブンは和魂洋才で生み出した新しい小売りサービスだよね。元々は米国で生まれたサービスを日本流にして、今の進化したコンビニビジネスができて、本家を追い抜いちゃった。


 こういうので失敗するパターンは、海外で流行っているからと、そのまま日本に持ち込んで、うまくいかないやつね。日本向けの工夫がないからダメなんだ。「無魂洋才」じゃあセブンイレブンにはならない。既存のものにひと工夫がいるよね。


 その点、星野リゾートも面白い。ホテルや旅館業は昔からあるのに、日本的なおもてなしのテーストを取り入れたりして外国人や日本の富裕層に受けている。元々あるサービスに日本ならではの良さや強みを加えても、新しいものができるんだ。


 「発想次第で、新しいモノは必ずできるぜ」という心意気だよ。もっと日本全体で元気出して、自信を持とうよ。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160531#1464691098
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