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イギリスのEU離脱に隠されるアベノミクスの停滞 林宏明×松村嘉浩(前篇)|日本人が知らない本当の世界経済の授業|ダイヤモンド・オンライン

林 日銀は欧州のマイナス金利政策をイメージしていたのかもしれませんが、欧州は量的緩和政策を行わずにマイナス金利政策をとっていたわけで、日本のように大規模な量的緩和をしながらマイナス金利を行っていたわけではありません。大規模な量的緩和は0.1%の金利で準備預金に積めるから成り立っていたわけです。それがマイナスになれば、極端に需給が逼迫している国債市場では長期金利や超長期金利もマイナスになってしまいます。


 現在、18年前後までの国債がマイナス金利となっており、20年から40年にかけても一時すべて0.1%台を割りました。早晩、日本から国債金利が消えることになるかもしれませんね。このベース金利の極端な急低下が金融機関や金融市場のリスク許容度や収益性を圧迫する方向に作用してしまったのが今回、マイナス金利が機能しなかった実相だと考えます。

林 異次元緩和によって円安になったという考えが、そもそも間違いなのです。2013年にFRBバーナンキ議長(当時)がテーパリング(量的金融緩和の縮小)を宣言して以来、米国が金利を上げていく方向に舵を切ったことが円安の大前提にありました。つまり「ドル高−円安」を米国が容認していたわけです。


 昨年、この対談で我々はFRBも出口から出られないだろうと、世間の一般の予想と全く逆の予想をしていました。結果は昨年12月に1回、0.25%上げただけになっています。金融政策の正常化を「テーパリング」で示唆してから3年も経過しているのに、たった1回しか利上げできていないのです。しかもQE3までやって供給した莫大な流動性は温存したままです。今でも償還した国債MBSの分は買い増して、量的緩和は続けているのです。今後もFRBの利上げは難しいでしょう。実際、米国の10年国債は一時、1.3%台に突入するなど低下傾向にあります。FRBが3年前にテーパリングを表明したときは3%あった長期金利が1.3%台まで低下したということはまさしく次の金融緩和を織り込みにいっているということだと思います。


 このように米国が容易に利上げできない環境に入ったこと、つまりドル高政策が変更されたことが円高の背景なのです。マイナス金利政策はその流れに飲み込まれたことで、本来目指した円安を招来できませんでした。

松村 加えて、昨年半ばから懸念していた問題も噴出し始めました。それは中国経済の問題です。『増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』に詳しく書きましたが、期待の新興国がコケはじめたわけです。


 私は、ドル安つまりドルとリンクする新興国通貨安の合意が、暗黙裡に行われたと思っています。そして、その結果、FRBは利上げを断念することになったのではないでしょうか。『増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』にも書いた話ですが、本来2016年は世界が正常化の過程に入るはずだったわけです。しかし、それどころか景気後退を懸念しなければならなくなっています。


 金融政策で世の中を良くすることは、やっぱりできなかったわけです。そして、その事実をマイナス金利政策の失敗で、ついに誰もが認めざるをえなくなったということでしょうね。黒田さんはけっして認めないでしょうけれど(笑)。

林 私は、2013年にキャメロン首相が国民投票を決断した時点で、イギリスはEUを離脱すると思いましたよ。


松村 えーっ、そうなんですか。さすがです!私はこの件に関しては完全に間違えていて残留だと予想していました。さすがにまだこのタイミングでは、経済非合理な行動、つまり離脱は起きないのではと思ってしまったのです。


林 国民投票の前に海外メディアの幹部やイギリス人記者たちと話す機会があったのですが、みんな残留だと言っていたんですね。しかし私が離脱だと思う理由を説明すると、イギリス人の幹部の方が、実は自分も同じ理由で離脱だと思っていると告白して、まわりの記者たちが驚愕していました。立場上、なかなか言えることではなく、仲間内でも初めて明かしたらしくて。


松村 林さんが離脱だと思われたのは、なぜですか?


林 まず、経済格差に不満を感じている国民の民意の恰好の受け皿になると考えたことが一番ですが、次に英国人のプライドとメンタリティーの問題です。60代以上の大英帝国の栄光を知っている世代は、EUによって主権が制限されていることに憤りを感じていますし、移民をコントロールすべきと考えています。ですから離脱派が多数なのです。また、これらの世代の国民が若いころ、イギリスはEUに加盟していませんでしたから、EUに加盟していなくても問題がないという考えになるのです。


 それに対して、移民に囲まれて育った若い世代は、なぜ今さら門を閉ざすのかと考えており、残留派が多数なのです。


 そういった状況を踏まえ、私は投票率がカギになると思いました。もともと60歳以上の国民の投票率は極めて高く、若者層の投票率がかなり低かったからです。投票率が高い60歳以上の世代中心の離脱派が優勢なのは明らかだと思いました。残留派の議員が殺されてしまう事件がありましたが、その同情票がなかったら、離脱派の圧勝だったのではないでしょうか。

林 ボリス・ジョンソンが英国王だったジョージ2世の末裔だったこともあり、「英国の主権を取り戻す」というスローガンが彼の政治的思惑とは別にバッチリはまってしまった側面もあると思います。


 それにしても、安倍さんはある意味、本当にツキのある首相です。消費税増税見送りに至った国内経済の低迷も、多くはイギリスのEU離脱を始め世界経済の影響として議論されることになりそうです。


しかしながら、前回の対談でも申し上げたように、日本の本来有している「伸びしろ」や地方のポテンシャルを引き出そうという安倍首相の基本的考え方には私は賛同しています。日本文化や日本の外交のポジションを大切にする姿勢もとても評価しています。私の記憶では政権発足後3年半経過して内閣支持率が50%近くある政権というのは、戦後では安倍内閣だけです。今、世界中で日本ほど政治が安定している国はありません。それゆえになおさら、この政権基盤の強固さを背景に規制改革や地方創生といった分野でメリハリのある具体的な政策を打ち出し、日本を良い方向に導いてほしいと期待しています。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160616#1466073501

#リフレ #アベノミクス #FRB