元王朝もフランスも経済大混乱 歴史に学ぶヘリコプターマネー|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン
この政策は論者によって定義が異なるが、日本で現在話題になっているのは次のようなものだろう。政府がゼロ金利の永久国債を大規模に発行し、日銀がそれを引き受ける、または、日銀がこれまで市場から買った国債をそれと交換するというアイディアだ。日銀が永久国債を保有すれば、政府はそれに関しては返済義務がなくなる。
ただし、実現には日銀が政府から国債を直接引き受けることを禁止している、財政法第5条を修正する必要があるだろう。その法改正への着手には、現時点ではさすがに政府も慎重と思われる。
実は人類の歴史において、ヘリコプターマネーと似たような政策は数多く実施されてきた。政府が財政赤字を埋めるために、金や銀の含有量を減らす通貨改鋳を実施したり、政府紙幣を発行したりすることは、広義のヘリコプターマネー政策といえる。
それらの大半は歯止めが利かなくなり、経済は混乱した。江戸時代に徳川幕府もそういった失敗を何度か犯している。
また、『貨幣の「新」世界史』(カビール・セガール著)によれば、中国は宋の時代に経済の力が衰えるたびに、価値の裏付けとなっている金属と紙幣の結び付きを弱めて、紙幣を増刷した。一度始めると「膨れ上がる(王朝の)出費を賄うために大量の紙幣を発行する誘惑には勝てず、宋の経済はどんどん悪化」。13世紀後半にフビライ・ハンに滅亡させられた。
ハンの元王朝は金属との関係を絶った紙幣を発行する。当初それは機能したが、財政赤字が膨らむと、同様に「誘惑に打ち勝てず紙幣を際限なく刷り続け」た。その結果、激しいインフレが生じ、元王朝の通貨の信認は失われた。
1710年代後半のフランスでは、巨額の政府債務を減らすためにミシシッピ社という貿易会社がその役割を負った。これはスコットランドからやって来たジョン・ローという男が、当時の国家元首(ルイ14世のおい)に売り込んだ錬金術的スキームだった。
ミシシッピ社は自社株を発行しては、その資金で仏国債を大規模に買い上げた。同社は当時の仏植民地だったルイジアナなど、北米大陸との独占貿易権を政府に認められていた。ルイジアナが富を生み出す夢の土地であれば、同社の利益が国庫に納付され、いずれ国債は増税なしに償還され、同社の株主は配当を得られる。
ミシシッピ社の巨額購入によって国債の利回りは急低下、他方で同社の株価は急騰したので、人々は国債を手放しては同社の株を熱狂的に購入した。当時の仏国営銀行バンク・ロワイアルは、その動きをサポートするために紙幣を刷りまくった(同行は1720年になんとミシシッピ社と合併する)。
だが、程なくルイジアナは夢の土地ではなく、ただの沼地であることが発覚する。それと同時にミシシッピ社の株価は暴落、政府の支出がずさんに拡大していたこともあり、紙幣の価値は凋落した。
ローは男爵および財務総監(大臣)の地位まで上り詰めていたが、慌てて国外に逃亡。「あとには金融の混乱状態だけ」がフランスに残された。
「打ち出の小づち」的アイディアを提唱する彼のような人物が現れたら、注意する必要がある。