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鈴木敏文氏、異能の経営者が語る「ものの考え方」の極意|セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文|ダイヤモンド・オンライン

鈴木 基本的には、「世の中の変化を見つめろ」ということ。それを僕の経験などから話しています。その上で、「今の自分がやっている仕事の延長でものを見てはいけない」と繰り返し伝えている。


 例えばセブン-イレブンは、「日本では小さな店は成り立つはずがない」と言われたが、実際にやってみたら、またたく間に伸びていき、今では社会インフラになってしまった。だからインフラというのは、それがあるからインフラなのではなく、無のところからでも環境がどう変わるかという見方をしていけば創り出せるのです。そういうものの見方をしていかなければ、強い企業は作れない。


 よく「鈴木さんの真似などできない」などと言う人がいますが、私は決して予言者じゃない。ただ、変化を見極めて、仮説と検証を繰り返してきただけです。過去の延長で現在や未来を考える方が、無理があるわけだから、よほど難しいことでしょう。

――鈴木さんのお話を伺っていると、セブン-イレブンの創業はもちろん、新商品として出したおにぎりや銀行サービスなど、新しいことに挑戦するときに、「周囲から無理だと言われた、反対された」という経験がたくさん出てきます。GMSのカリスマだったダイエー中内功さんもそう言ったというし、銀行の頭取からも反対された。業界のプロにそう言われて、ひるまない強さはどこから来るのでしょう?


鈴木 私はそうした時、自分の内側に、よくよく問いかけます。「彼らの言い分は正しいか、それとも自分の考えに理があるか」とね。セブン銀行のときには、主力銀行の頭取のお話をよく伺っていると、どうやら「中小企業融資なども含めた、既存の銀行業」をイメージしておられたようでした。しかし、僕はそんなことをやりたかったわけじゃない。引き下ろしや振込などをコンビニでできるようにしたかっただけです。


 であれば、心配してくれるお気持ちはありがたく受け止めるけれど、僕が自分の歩みを止める必要はない。そんな風に考えたね。

――しかし、凡人なら失敗も怖いし、ひるみますよね(笑)。


鈴木 僕は自分のキャリアの中で、幸いなことに「あれは大失敗だった」という経験が思いつかないんです。自分に甘い性格なのかもしれないけれど、成功するまで仮説と検証を繰り返しながら、粘り強く取り組んできたんです。やり始めたからには絶対にやり通す、とね。これは、もうほとんど執念と言っていい。


 僕なんか、どっちかと言うと、夏休みも取りたいと思わなかった。いまだに習性が抜けないんだけれども、朝早く来て、情報を集めるんです。「情報収集」だなんて何かかっこ良く聞こえるけれど、要は新聞を読むとか、そういうことです。そうすると、世の中がどう変化するだろうかとか、自ずとイメージが出てきますね。何とはなしに情報を集めていると、新しい発想も出せるということなんじゃないかと思うんですよ。


――そういう風にいつも考えられるということも、仕事への執念ですか。相当無理をして頑張ってきた、ということはないんですか?


鈴木 そう。執念だろうね。だけど無理はしてない。僕自身は、自然体でやっているという感覚しかないんです。

――最初は偶然でありながらも、何が、ここまでの成果を鈴木さんにもたらしたのでしょう?


鈴木 自由にやらせてもらえましたね。振り返って思うのは、経営者が伊藤さん(当時の伊藤雅俊社長)だったから許されたのは事実で、他のカリスマ性あふれる創業者たち、たとえばダイエーの中内さんや西武の提(清二)さんの下だったら、とっくの昔にドロップアウトしたでしょうね。既存のところに入り、そこでガチッと枠を嵌められたらなにもできなかった。


 だけど、新しいことをするような人は、みんな似たようなものじゃないかな。似鳥さんだって、大きな家具屋さんに入って伝統的なやり方の枠を嵌められていたらどうなっていたか。ユニクロの柳井(正)さんも、彼は最初はジャスコ(現イオンリテール)に入社しているのだけど、間もなく辞めて家業に入り、自由にやっておられる。

――ひょうひょうと働いてこられたイメージがありますが、セブン‐イレブンが100店舗になったときは、思わず涙が出たそうですね。


鈴木 要するに、自分でやっていて自信が持てなかったの。最初は5店舗が目安だと思ったんだけど、50店舗になってみても、本当に納得がいかなかった。100店舗になったときにね、「ああ、何とかいけるな」と、初めて思えたんです。


 というのも、スタート前からすべて手探りだったんですよ。アメリカのセブン-イレブンは当時、全米で4000店舗も展開していたから、日本に導入するに当たって、彼らのすごいノウハウが欲しいって思って契約をしたんです。そうして、いざ27冊のマニュアルを手に入れてみたら、レジの打ち方とか掃除の仕方とか、どうってことないことしか書いてない。失敗したなと思いましたね。さんざん反対されて、伊藤社長も口説いて、ようやくゴーサインをもらったのに。


 だから自分たちでイチから作って行こうと思ったんです。コンビニって言ったって、全然注目もされない小規模店舗だから、新聞広告を出して人材を募集しましたね。ヨーロッパにずっといた商社マンとか、法律事務所や会計事務所にいた人とか。そういう、小売りのシロウトが集まってきたんだけど、今考えたら、小売りを知らないから良かった。


 連載の1回目で書いたように(記事はこちら)当時、イトーヨーカ堂自体はまだ伸びていたけれど、私はいずれ飽和状態になると読んでいた。伊藤社長は、それはものすごい熱心な経営者ですよ。ただし、スーパーのプロなんです。だから私はセブン-イレブンの社員たちに「伊藤社長の言う事だって聞いちゃいけない」と指示しましてね。それで、自分たちでコンビニを作ってきたんです。最初に品揃えしたのはソロバンとか丼とか、ハタキとかね。そんなところからのスタートだったんですよ。

――鈴木さんほどのカリスマがお辞めになれば、われわれマスコミは騒ぎますよ。


鈴木 カリスマなんて呼ばれ方は、自分では本当に違和感ありますよ。私は特別な才能があるわけじゃない。ただ、自分で「こうしてみたいな、やりたいな」と思ったことをやってきただけのことだからね。やり始めた以上は、なんとしても成功させようと、そういう執念は持ち合わせていましたけれどね。


 あとは、環境やチャンスに恵まれた。世の中には、いろんな分野で才能がある人はたくさんいるはずなんだけど、それがたまたま生かせるチャンスに恵まれるかどうかでしょうね。だって、さっきも言ったけど、僕は自分で小売りに入ろうとか、流通の世界で生きようなんて一度も考えたことはないのだもの。

――セブン‐イレブンの強さの1つに、鈴木さんがおっしゃったことが組織の隅々にまで行き渡り、皆が理解しているということがあるように感じます。その伝わる仕組みを、少し解剖してみていただけませんか。


鈴木 やはり相当踏み込んでいかないと伝わらないですよ。「あぁ、いいな」と思ってくれるのはありがたいが、それだけではものにならないの。例えば一口にコンビニと言ってもセブン-イレブンと他社では日販が10万円以上違うのはなぜなのか。なにが違うのか。当然、仕組みが違うし、置いてある商品の味が違ったりする。


 それらの根底にあるのは、「利益を稼ごうと考えてはダメだ」ということです。ここのところ天候が不順で売れ行きが落ちているでしょう。そうしたときに利益を稼ごうと焦ってはダメです。利益は結果であり、結果が利益です。フランチャイズのオーナーさんやお店の販売員の人たちが、商品が売れると「売れてよかった。お客さまに喜んでもらえた」と思うでしょう。そして、売上が増えれば利益も自然に増えるんです。そうした仕組みを考えるのです。


逆にお客さまではなく、自分の立場を先にして利益を上げようと考えれば、必ず失敗します。それが日販の大きな違いにもつながっている。


――しかしオーナーの方たちにも、1回話したぐらいでは伝わらないのでは?


鈴木 伝わらないね。だからこそお弁当や食材であれば、味をよくしなければならない。それと納期厳守で品切れを起こすようなことはしてはいけない。あらゆる角度から問題を探り、注意し続け、改善策を打ち続けなければいけない。それが「踏み込む」ということです。そして結果として売上が増え、利益も増える。

――セブン‐イレブンの役員によるお弁当などの試食もずっと続けてこられましたが、あれは社員への率先垂範という意味があるのですか。


鈴木 必ずしも、そういうことではないですね。やはりお客さまの立場で満足してもらえるかどうかを自分たちなりに考えるためです。お客さまは必ず飽きるんです。だからお客さまを飽きさせないために、常にお客さまの立場になって考える。それをみんなに伝えたいと思っているのです。つまり、僕が飽きるようではダメなのです。


試食の基準は単純で、「おいしいか、まずいか」それだけですよ。時々、「鈴木さんはいろんな一流店を食べ歩いたりするんでしょう」と言われるけれど、そんなこと絶対にしない。どういう有名店がどこにあるなんて、全く知らないですよ。だけど「おいしいか、まずいか」、これは自分の感覚で、確かなものだからね。僕は家で家内が作る料理をおいしいとかまずいなんて、あんまり言いませんよ。だけど、会社の試食となると、やっぱり別だね。


 でも思いを伝えるのにはいろいろな方法があるし、僕のやり方だけが正しいのではない。ただ自分の代わりになれる人はつくれない。僕が願うのは、お客さまの立場での発想に徹しようということだけです。また徹してくれるかどうかだけです。


 前は僕自身がライン長として「ああしろ、こうしろ」と言っていた。でも今は、「こう思うよ、ああ思うよ」としか言わない。それで前のように強制されなくなったということで緩みが出たら、これは今の経営者たちの責任になりますよね。

――「引退したら、これをやろう」なんてこともなかったんですか?


鈴木 ない。仕事をしているときだって、どっちかっていうと僕は行き当たりばったりだから。そこに問題があるから解決する、と。それの繰り返しでした。業革だって、いままで毎週ずっとやってきましたけど、あらかじめ指示することを決めて出席したことなんて一度もない。


――もっと、緻密にデータをご自身で準備されるのかと思っていました。


鈴木 そんなことないんです。グループの方針説明会なんかもね、一応事前に企画の担当者なんかにこれまでやってきたことなどをまとめた書類は作らせるけれど、それをその通りにしゃべるわけじゃない。即興で話しますね。用意周到とか緻密なんてことはない。


――鈴木さんは「同業他社を研究しない」ことと、「インターネットを使わない」ことで有名です。いずれも一般的には「やるべき」とされていることですが、本当にまったくやらないんですか?


鈴木 やらないね。同業他社を研究しても、新しいものなんて見えてこないでしょう。インターネットも同じ。「新しいツールを使えば新しい情報が入ってくる」なんて思う人は多いみたいだけれど、違いますよ。僕に言わせれば、流行のものをやるのが、進んでいるなんてことじゃないんだよね。はやりのことをやるってのは、結局は人真似なんですよ。自分で新しいことをやればいいじゃないですか。

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