散髪代「700円vs21ドル」意外な日米インフレ差の象徴|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン
大阪の通天閣周辺にある商店街は、串カツ人気やアジアからの観光客増加もあって活況を呈している。しかし、有名串カツ店を除けば、この辺りの物価水準は異様に低い。梅田駅周辺と比較すると別世界に来たような感覚にとらわれる(商店街の名前は「新世界」だが)。
例えば、立ち食いそば店では「かけうどん」が160円、ゲームセンターをのぞくと「テレビゲーム50円」、居酒屋の看板には「生マグロ300円、八宝菜200円」と書かれている。人の流れからやや外れた場所の串カツ店は「1本30円から」だ(どんな肉、野菜なのかは不明)。
そう、ここは「デフレゾーン」なのだ。見上げると「日本一の安値に挑戦」との看板が見える。
理髪店もすごい。われわれがよく知る全国チェーン店の1080円という価格も安いが、通天閣周辺には通常カット700円という店がある。
米国と英国、日本の消費者物価指数における理髪料の過去15年間の上昇率を見ると、米国は37%、英国は58%もの値上がりだ。しかし、日本はわずか2%である。2014年4月の消費税率引き上げを考慮すると、ほぼ横ばいだ。
理髪料は主に店員の賃金と店の家賃の影響で動くと考えられる。米英の場合、それらが毎年顕著に上がっていくため、経営者は顧客にコスト増を転嫁する。小幅な値上げは何の説明もなしに行われるが、まとまった値上げをもくろむ場合は、あの手この手が使われる。
ニューヨークに住む知人によると、美容院から次のようなメールがよく来るという。「担当の美容師が○○大会で○位に入りました! 彼の評価ランク上昇を一緒に祝いましょう! なお、次回より指名料が○ドル上がります」。
一方、日本は賃金や家賃があまり上昇しないこともあり、理髪店は値上げをしない(怖くてチャレンジしづらい)。しかしながら、日本銀行が目指しているインフレ率2%は、原油価格の急騰や大幅な円安でも起きない限り、理髪料のような一般サービス価格が大幅に上昇しないと実現できない。
消費者物価指数の構成比の約半分は財(モノ)だが、その価格はグローバルな値引き競争や、電子商取引(Eコマース)の攻勢によって多くの国でデフレだ。それでも米国のインフレ率が全体としてはプラスなのは、財はデフレでもサービス価格が上昇しているからである。しかし、日本の場合、サービスの7割強を占める公共料金と家賃関連の上昇率は、米国とまったく異なって非常に低い。しかも、それらは日銀が金融緩和策を拡大しても反応を示すのに長い時間がかかる。
それ故、残りの一般サービス価格が急上昇しないと、インフレ率は早期に2%には届かないのだが、それは無理がある。「総括的な検証」後の日銀は、やみくもにインフレを目指すのではなく、長期的な視野で日本経済を支えるべきだ。