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コラム:ノーベル経済学賞の理論、市場の暴走止められず | ロイター

企業の所有をその経営から切り離すことが、資本主義の主要な発明のひとつだ。この仕組みは同時に、多発する自由市場の暴走の根幹でもある。今年のノーベル経済学賞を授与されるオリバー・ハート、ベント・ホルムストローム両教授は、こうした制度を支える契約の限界を巡る研究に尽力してきた。


企業はなぜ関連事業を自ら所有しようとするのか、企業幹部の報酬制度にはなぜこれほど落とし穴が多いのか。両氏の研究はこれらの理由の説明に役立っている。


企業を所有する株主と、経営にあたる幹部のインセンティブはしばしば相反する。契約はその溝を埋める一助となる。しかし現代の複雑な企業においては、発生し得るすべての問題を網羅する法的書類は作成し得ない。米ハーバード大教授のハート氏は、こうした「不完備契約」を検証する論文を数多く執筆している。彼の理論のエキスは、紛争の際に力を持つのは所有者側だということだ。


一見単純に見える理論だが、重大な影響を及ぼしている。例えば、多くの石油企業が製油所だけでなく掘削リグまで所有しているのはなぜかが、これによって説明がつく。答えは、契約を巡って紛争が起こるリスクがあまりに高いためだ。企業が資本(エクイティ)を調達するより資金を借りた方が安くすむことが多いのも、この理論で一部説明できる。負債契約では、債権者は着実な利払いを保証され、問題が発生したときに経営の支配権を得る。


マサチューセッツ工科大のホルムストローム教授(フィンランド出身)は、不完備契約の一側面である企業幹部の業務遂行能力について集中的に研究した。彼の「有益原則」は、企業幹部の幸運ではなく実際の能力を反映するような要因を、報酬に連動させるべきだと説明している。現在多くの企業が競合企業との相対的な株価動向に基づく報酬制度を採用しているのはこのためだ。


かつては革新的だったが今や常識になった理論に授与されるのは、学術賞の定めだ。そして両氏の理論モデルは契約に関するわれわれの理解を研ぎ澄ましてくれたかもしれないが、市場の暴走を抑制することはできていない。企業報酬と能力との連動は以前に比べてずっと強まったが、その額も劇的に増えた。企業が関係のない事業を買収するという過ちは繰り返されている。企業とその所有者の行動を理解するという点で、経済学者がやるべきことはまだ多い。