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 微分積分学の歴史は古く,西欧近代の数学がいよいよ大きな盛り上がりを見せようとする黎明の時代,17世紀にまでさかのぼる。その後,微積分が発展していく流れにおいて,ロピタル,オイラーラグランジュ,コーシー,フーリエピカール,グルサ,ジョルダンデデキントなど,大物数学者が著した書物が,その理解・発展に重要な役割を果たしてきた。また,日本においても,高木貞治著『解析概論』(岩波書店)や藤原松三郎著『数学解析第一編 微分積分学』(内田老鶴圃)といった名著が読み継がれてきている。
 本書では,名著として名高い古典的著作を適宜引用しながら,著者独特の語り口で,微積分の基礎を解説していく。『解析概論』を軸とし,『数学解析』や西欧の古典的名著の数々をその周辺に散りばめながら,関数とは何か,数とは何か,無限級数の収束とは何か,微分とは何か,積分とは何かなど,「微積分の厳密化」に関して考察を進めていく。
 微積分の理論的側面のみならず,その歴史的流れも捕らえ,なおかつ数学を創った人びとが持っていたであろう,論理的厳密性の根底に横たわる数学的実在感を感じとることも可能となる,稀有な一冊である。

まえがき(pdf)

将棋九段金子金五郎先生は


定跡は歴史である.


という言葉を遺しました.定跡は論理的に構築された指し手の系列ではありません.次の一手をどのように指すべきかという局面に際会し,過去の幾多の棋士たちのひとりひとりの思いが多種多様な指し手となって具体的に現れて,絶えず修正を受けながら積み重ねられて定跡が形成されていくのですから,ひとつの定跡にはおびただしい人のこころが反映しています.その情景がそのまま「歴史」であると,金子九段は言うのです.


 本書は大学の理科系学部生を対象とした微分積分学入門である。極限の厳密な定義から出発し,一変数の微積分を丁寧に解説した後,多変数の微積分の基礎まで進む。本書の全体的な方針は次のように要約できる:


 抽象的な概念や定理が出てくるごとに,それらの意味を,具体例を通じ一歩一歩踏み固めながら進む。また,練習問題を通じ,読者自らが頭と手を動かし,概念や定理の使い方に慣れ親しめるようにする。


 また,本書の特徴として次の点を挙げる:


 厳密性,一般性をできるだけ確保すると同時に,抽象論に偏らず,できるだけ早い段階で具体例,特に指数関数,三角関数などの代表的初等関数を導入し,それらを丁寧に論じる。


 厳密な論理の美しさが分かりやすく伝わるように工夫すると同時に,応用分野との関連,微積分学の歴史にも適宜触れる。初学者から教員まで,様々な目的で本書を手にとられる方々が,それぞれの立場で楽しんで頂ける本である。

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