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 米国は基本的に階層社会なので年収と年齢が比例しない。労働者階級は「シボレー」(シェビー)、経営者層は「キャデラック」と車種が明確に分かれており、シボレーからキャデラックに乗り換える人はあまり多くないと考えられる。米国の映画やドラマ、歌謡曲などではシボレーはブルーカラーの象徴として扱われることが多い。


 だが日本の場合には、年功序列の雇用形態なので、基本的に年収と年齢が比例する。このため、カローラから始まり、社内での役職が上がるつれて上級車種に乗り換えさせる「出世魚」の戦略が採用され、昭和の時代にはこれがうまく機能した。トヨタは1980年代に「いつかはクラウン」という非常に有名なキャッチフレーズを打ち出したが、このフレーズはトヨタの昭和型マーケティング戦略を全て言い表しているといってよいだろう。

 ところが近年、完璧だったこのマーケティング戦略が徐々に機能しなくなってきた。最大の理由は、国内自動車市場の縮小である。


 2016年における日本の総自動車販売台数は約497万台だったが、市場はかなりのハイペースで縮小が続いており、わずか2年前との比較でも10%の落ち込みとなっている。


 自動車は典型的なグローバル商品であり、国内経済の動向とは無関係に価格が決まる。日本は過去20年間、ほとんど経済が成長しなかったが、諸外国は同じ期間で1.5倍から2倍にGDP国内総生産)を拡大させてきた。当然、物価水準も上昇することになるのでクルマの価格もそれに応じて上がっていく。


 クルマは数年おきに必ずモデルチェンジが行われ、オプションでさまざまな装備を加えて販売されるので、同一車種、同一装備のクルマの値段がどう推移したのか追跡することはほぼ不可能である。だがメーカーの決算を見れば、クルマ1台をいくらで売っているのか、おおよその値段は推定することができる。


 例えばトヨタ自動車における昨年の平均販売価格(売上高を販売台数で割った単純平均)は310万円だったが、20年前はわずか180万円だった。クルマの価格は20年間で1.7倍に値上がりしているわけだが、この間、日本人の給料はほとんど上昇していない。


 現在の日本人の購買力では、クルマという商品はかなりの高級品となっており、会社での出世に合わせて、次々に買い替える商品ではなくなっている。消費者の価値観が多様化し、クルマに求めるものが人によって変わってきたことも大きく影響しているだろう。

 これに追い打ちをかけているのが人口減少である。これまでは、人口がほぼ横ばいで推移してきたが、今後は本格的に人口が減り始める。国内におけるクルマの需要がさらに低下するのは確実といってよい。


 こうした縮小市場において、従来型のマーケティング戦略や販売戦略は非効率となる。車種を絞り込んでコストを削減し、売れ筋の車種に経営資源を集中せざるを得ないというのが実情だろう。


 また、都市部と地方におけるライフスタイルの乖離(かいり)が激しくなっており、地域ごとに売れる車の種類に偏りが出るようになってきた。ディーラーの現場からも、同じ車種を全国同一基準で売るのは無理があるとの声が上がっているという。今後は地域の特性に合わせ、積極的に売る車種とそうでない車種のメリハリを付けていく必要があるだろう。

 トヨタマーケティング戦略は、日本のサラリーマン社会そのものといってよい存在だったが、そのトヨタが抜本的な改革に乗り出したということは、日本社会が大きな転換点を迎えていることの裏返しでもある。新しいマーケティング戦略は社会構造の変化に対応したものであり、おおむね妥当であると考えられるが、1つだけ大きな課題が残されている。それは国内生産との兼ね合いである。


 トヨタは自動車メーカーとしては珍しく、国内生産にこだわり続けており、2016年度の生産台数897万台のうち、約46%を国内で生産している。だが、国内市場で一定数以上のクルマが売れ続けなければ、国内生産を維持することが難しくなる。一方のホンダは、国内市場に見切りを付け、何と主力工場である狭山工場の閉鎖を決定した。

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