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著者によると,“justify” の語には「正当化」と「整序」の両義が込められているという.本書では,知的財産法(以下,知財法という)に含まれる諸法のうち,とくに特許法著作権法など,人の知的な創作物を保護する創作法と呼ばれる制度を対象に,それがなぜ存在するのかという「正当化」根拠と,そうした存在理由に照らして同制度が今後いかに「整序」されていくべきかについて,思索が展開されている.

現代に生きる私たちの生活は,無数の発明――IT からバイオ医薬まで――や著作物――アニメからデータベースまで――に取り囲まれている.日常を豊かに彩るこれらの知的創作物について,創作者に法的権利(独占的な利用権)を付与するのが知財法である.その制度設計においては,創作者にどれだけ強い権利を付与するのか,裏返しに言えば権利者以外の者による利用の自由をどこまで制限するのかが常に問題となる.はたして,その判断はどのような方法と基準に基づいてなされるべきか.単に権利が強すぎる,弱すぎるといった水掛け論を越えて,そこに理論的なアプローチは可能なのだろうか.こうした課題に対して,知財法の存在理由にまで遡って取り組む研究として,本書は最新かつ最重要の作品であり,今後の知財法学は賛否を問わず本書への言及を避けて通ることはできないだろう.

知財法(とりわけ創作法)の正当化根拠論については,経済学を取り入れた功利主義的な立場と,道徳哲学に依拠した義務論的リベラリズムの立場が長らく対立してきた.両者いずれもその内容は多面的であるが,ごく簡単にまとめると,前者は創作誘引による社会的効用(発明や著作物の量的拡大・質的向上)の最大化という目的(政策目標)を実現するための「手段」として知財法制度を捉えるのに対して(帰結からの正当化),後者は知財権を創作者が本来的にもつべき当然の「権利」として把握する(淵源からの正当化).マージェス教授は,原著刊行の前からすでに国際的に著名な知財法の泰斗であったが,なかでも前者の立場からの特許制度等の経済分析(いわゆる「法と経済学」と呼ばれる研究手法)に関する優れた業績で知られていた.ほかでもないそのマージェス教授が,つまり亜流の学者ではなく当代一流の研究者が,これまでの功利主義的研究を総括し,義務論的リベラリズムへの転向を宣言したために,原著は米国知財法学界の耳目をさらうこととなったのである.

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