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私(記者)が「それ」を目の当たりにしたのは、世界的通信社のAP通信とロイター通信の編集現場でした。

メディア業界の団体「GEN」が、9月にアメリカで行った研修で訪れたのです。両社とも、すでに「記事の自動化システム」を導入していて、企業の株価や決算、スポーツの試合結果など、データが中心の、いわば「定型スタイル」の原稿については、多くをシステムが書いているということです。

複数のデータを照合するため、記事の作成に要する時間は「10秒~30秒」ということでしたが、それでも「私なら過去のデータの確認も含めて10~30分はかかる…」と思いました。

ロイター通信では現在、1日に制作するコンテンツの約4分の1に、自動化の技術を取り入れているということでした。

「記者の役割は?」という疑問に、テクノロジー担当エディターのパドライク・キャシディーさんは「決まったデータを原稿にするのはシステムの方が早い。記者はそのニュースを掘り下げた解説などを担当する」と話していました。

AP通信も「自動化の目的はジャーナリストが、質の高いジャーナリズムを生み出すことに集中する時間を作り、単純なルーティーンから解放することだ」と説明していました。

システムはデータの扱いは正確ですが、そこから文脈や意味を読み解くことはまだ難しいということです。

APでは記事の作り方を重要度に応じて3種類に分けていて、大手企業の決算など重要な原稿は最初から人が書き、あとは「システムが書いた原稿を人がチェックし加筆する」ものと、「完全にシステムが書く」ものに分けているそうです。

そのあと話を聞いた「ストーリーフィット」というスタートアップ企業は、文章の内容を評価するシステムを開発しました。

システムは、まず出版された本や過去の記事の、文章構成やストーリー展開などをAIが解析し、スコア(評価)をつけます。記者が書いたニュース記事も同様に解析して、その結果を人気記事などと比較することで、その記事が多くの人に読まれそうかどうか、掲載前に判断することもできるというわけです。

取材方法も大きく変わろうとしていました。

ロイター通信が開発した「トレーサー」というツールは、ツイッターに投稿された事件や事故、災害の発生を知らせるツイートを自動でキャッチし、その「信ぴょう性」なども判断して、ニュース現場に伝えます。

記事を書くだけでなく、その内容に沿った画像や映像を用意するのも、記者の仕事です。

その自動化システムを開発している「ウィブビッツ」という企業を見学しました。

今回の研修で頻繁に話題に上ったのが、読者一人一人に合わせた記事を発信する「パーソナライズ」という考え方です。

ウォール・ストリート・ジャーナルでは、サイトで表示される記事の内容を、読者によって変えるという取り組みが紹介されました。
例えばイギリスの首相の発言を伝えるニュースでも、通常は「イギリスの首都・ロンドンで首相が○○を発表した」と書きますが、イギリス国内に住む人には、「ダウニング街(イギリスの首相官邸の場所)で首相が…」と書いたほうが、親しみやすく伝わります。

読者一人一人の好みにあった記事をシステムが自動で大量に作って、配信することもできるというわけです。

その考えを進めると、例えばリベラルな政治志向を持つ人にはリベラルな表現を使った記事を、逆に保守的な志向の人には保守的な表現の記事を自動で作成、配信することも可能になります。

パーソナライズは、読者の満足度を高める効果がある一方で、メディアの担当者からは「行きすぎると『エコーチェンバー現象』(読者が自分の意見に近い情報だけを摂取した結果、特定の思想が増幅されること)が起きる」、「社会の分極化を招くおそれがある」という懸念が出されました。

アメリカのメディア業界では、想像以上にニュース現場へのAIの導入が進んでいました。そこで感じたのは、記者の仕事が単純に奪われるのではなく、量から質への変化、つまり記事の本数よりも、一本一本の中身がより求められるということです。

「未来の仕事はクラフトビールになるのさ。普通のビールと違ってクラフトビールは、ストーリー性がある。普通のビールは誰でもつくれる。これからの記者は、ストーリーを生み出すクラフトマン(職人)になっていくんだ」