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 電撃逮捕劇の背後には、日産内部の「調査チーム」の告発があった。

「2018年6月ごろから、日産はゴーン容疑者関連の資料を特捜部へ持ち込み、チームで動いていた」(司法担当記者)

 いま記者が、連日「夜討ち朝駆け」をする幹部がいる。調査チームの一員とみられる、川口均専務執行役員(65)だ。

「渉外や広報を長く担当しており、菅義偉官房長官と親しい間柄。逮捕劇の翌日に官邸を訪れるなど、ルノー筆頭株主であるフランス政府の動きを見据えて動いているようだ」(経済部記者)

 この1人めの「侍」に加え、調査チームを指揮したのは、今津英敏監査役(69)だった。

「2014年に監査役に就くまで、副社長として製造部門のトップを務めていました。社内ではゴーン派と目されていましたが、監査法人などからの指摘を受け、情報収集に動いていました」(日産社員)

 今津氏が目をつけたのは、ゴーン氏の牙城とされた秘書室。3人めの「侍」は、2016年まで秘書室を担当していたハリ・ナダ専務執行役員(54)である。ナダ氏は、もともと法務を長く担当してきた。

「特捜部と司法取引をしたと目されているマレー系英国人の幹部です。ゴーン容疑者が海外の高級物件を購入した際、オランダにあった日産の子会社の取締役として立ち会っている」(前出・司法担当記者)

 ナダ氏は、ゴーン容疑者と同時に逮捕された前代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者のもと、経理処理の「実行部隊」だった。一連の事件を取材するジャーナリストはこう明かす。

「ナダ氏は、ケリー容疑者の指示で役員報酬に関する文書を保管していた元秘書室長を説得し、調査に協力させたようなのです」

上場企業のガバナンス、内部統制を前提にすれば、総額で数十億に上る支払いを行うためには、稟議・決裁、取締役会への報告・承認等の社内手続が当然に必要となる。秘書室長との間で合意しただけで、財務部門も取締役会も、監査法人も認識していないというのであるから、ゴーン氏の退任後に、どのような方法で支払うにせよ、社内手続を一から行う必要がある。

報道によれば、検察は、「ゴーン氏に個別の役員報酬を決める権限があったこと」を強調しているようであり、それを「支払いの確定」の根拠だとしているのかもしれない。しかし、「退任後の報酬支払い」を秘書室長と合意した時点では、ゴーン氏が自らの役員報酬を決める権限を有しており、約20億円の役員報酬を受け取ることも可能だったとしても、その一部の報酬の支払いを「退任後」に先送りしてしまえば、話は全く違ってくる。退任後に、コンサルタント料などの名目で支払うことについて社内手続や取締役会での承認を得る段階では、既に退任しているゴーン氏に決定する権限はないのである。

実際に、今回の事件での逮捕の3日後に代表取締役会長を解職され、今後、取締役も解任される可能性が高まっているゴーン氏が、「先送りされた役員報酬」の支払いを受けることができるだろうか。

年間約20億円の役員報酬だったのが、2010年以降、約半分の金額となり、残りは「退任後の支払い」に先送りされたことで、「支払時期を先送りした」だけではなく、確実に支払いを受ける金額は半額にとどまることになった。ゴーン氏の意思で、残りの半額については、支払いの確実性が低下することを承知の上で、退任後に社内手続を経て適法に支払える範囲で支払いを受けることにとどめたということであろう。

結局のところ、日産の執行部や財務部門も認識しておらず、取締役会にも諮られていない以上、支払いの確実性は確実に低下しているのであり、日産という会社とゴーン氏との間で、役員報酬の「支払いが確定した」とは到底言えない。したがって、それを有価証券報告書に記載しなかったことが虚偽記載罪に当たらないことは明らかだ。

検察の起訴によって、20日間以上の身柄拘束まで行ってゴーン氏に問おうとした「罪状」が、前記のような「退任後の報酬」という事実だけであった場合、その罪状で、日産・ルノー三菱自動車の3社の会長を務める国際的経営者のゴーン氏を突然逮捕し、ゴーン氏らの取締役会出席を妨害し、代表取締役会長を解職するに至らせたことを正当化できるとは到底思えない。その罪状に比べて不相応に長い身柄拘束など、不当な捜査・処分が行われたことについて、国内外からの激しい批判にさらされることは必至だ。それは、裁判で有罪になるか無罪かという問題ではない。

それが日本社会に与える悪影響は計り知れないものとなる。ルノー筆頭株主でもあるフランス政府、さらには、ゴーン氏が国籍を持つレバノン、ブラジル等との外交問題に発展する可能性もあり、また、被疑者の長期間の身柄拘束や、弁護士が同席できない取調べによる人権侵害等に対する国際的な批判が高まっている中、ゴーン氏への人権侵害の理由となった罪状が上記の程度のものであったことが明らかになれば、日本の法制度に対する信頼は地に堕ち、日本の企業社会での外国人の活用にも大きな支障を生じさせかねない(八幡和郎氏【日産の強欲は日本の安全保障にも危険】)。

刑事事件の中には、国や社会に重大な影響を与えるものがある。

検察内部で「法と証拠に基づいて適切な判断を行う」だけでは、国の利益、社会の利益を守ることができない、国や社会に重大な影響を与える事件については、内閣の一員で、検察を所管する大臣である法務大臣には、検事総長に対する指揮権が与えられている。

検察庁法14条は、「法務大臣は、検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」と規定している。個々の事件の取調べ・処分などの検察官の権限行使については、法務大臣は、検事総長を指揮し、部下の検察官を指揮させることで、その権限行使に法務大臣の指揮を反映させることができる。

これは、「一般的な事件」については法務大臣検察庁の捜査や処分に関わることはないが、例外的に、社会に重大な影響を与え、国益にも関わるような「特別の事件」については、法務大臣検事総長を通じて個別事件の捜査・処分をも指揮することができるという趣旨である。

実際に、「特別の事件」に当たる可能性がある重要事件・重大事件については、法務大臣の指揮を受ける可能性があるので、検察庁では「請訓規定」に基づいて、検事総長法務大臣両方への報告が行われている。これを「三長官報告」(「法務大臣検事総長検事長への報告」)と呼んでいる。行政機関である以上は、検察庁も、国会で選ばれた内閣の指揮監督下にあるという原則を維持する必要があるので、「検察の職権行使の独立性」の例外を設けているのがこの法務大臣の指揮権の規定である。

「特別の事件」の典型が、国家としての主権を守り、他国との適切な外交関係を維持することに影響する「外交上重大な影響がある事件」である。実際に、2010年9月に起きた尖閣諸島沖での中国船の公務執行妨害事件では、那覇地検次席検事が「外交上の影響」を考慮して船長を釈放したことを会見で認めた。それが、当時の民主党内閣の判断によるものであることは明白だったが、外交関係への配慮も含め、すべて検察の責任において行ったように検察側が説明し、内閣官房長官がそれを容認する発言をするにとどめた。この事件でも、外務大臣も含む内閣の判断が、法務大臣検事総長への指揮という透明な手続で、刑事事件の捜査・処分に反映されるべきであった。

今回の事件でゴーン氏が起訴され、しかも、起訴事実が、上記のような罪状にとどまった場合、フランス政府が筆頭株主ルノーの会長でもあるゴーン氏に対して、日産経営陣のクーデターに手を貸すかのような突然の逮捕をすることを正当化することは到底できない。フランス、レバノン、ブラジル等との外交関係にも重大な影響を生じかねず、また、日本の刑事司法に対する国際的信頼を損ないかねない。

「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」(憲法66条3項)。行政機関である検察の権限行使も、当然、この「行政権の行使」に含まれるのであり、安倍内閣にとって、日本の国益にも社会的利益にも重大な影響を与える事件ついて、検察の「組織の論理」によって起訴が行われ、国益が損なわれようとしている時には、「検察当局の判断に委ねる」ということで済ますことはできない。

「行政各部を指揮監督する」(憲法72条)内閣総理大臣として、法務大臣を指揮する立場にある安倍首相は、法務大臣の指揮権によって検察のゴーン氏起訴を止めることの是非を真剣に検討しなければならない。そこで必要なことは、検察がゴーン氏に対して行おうとしている刑事処分が、検察の「組織の論理」だけでなく、日本の経済社会のみならず国際社会の常識から逸脱したものでないかどうかを、内閣の責任において検討することである。

安倍首相が、「適材適所の閣僚人事」として、検察官・法務省官僚の経験を有する山下貴司氏を法務大臣に任命しているのも、このような場合に、内閣の一員たる法務大臣として、事件の内容や身柄拘束の当否等について検察当局から詳細に報告を受け、適切な対応をおこない得るからであろう。

検察がゴーン氏に問おうとしている「罪状」は、有価証券報告書への役員報酬の記載という上場企業の開示の問題である。役員報酬の虚偽記載、しかも支払方法も確定していない「退任後の報酬」の記載が、投資判断にとって「重要な事項」と言えるかという点は、本来、金融庁の専門領域である。また、その程度の「罪状」による検察の逮捕、長期間にわたる身柄拘束が、先進国の常識を逸脱したものでないか、それが国際社会からどのような批判を招くのかという点は、外務当局において把握できる。

これらの点について、内閣として、慎重な検討を行った上、安倍首相と山下法務大臣との間で協議・検討し、検察のゴーン氏の起訴方針に対する指揮権の行使を検討すべきである。

日本政府は、韓国最高裁の徴用工判決という「司法判断」について韓国政府を厳しく非難しているのであり、ゴーン氏起訴に対する国際的批判が起きれば、「司法判断だ」という理由で批判をかわすことはできない。ましてや、検察は、準司法的性格を有するとは言え「行政機関」である。検察の捜査や基礎に対する批判は、政府として正面から受け止めざるを得ない。

ゴーン氏の事件は、決して同氏個人の問題ではない、日本の国と社会の利害に関わる重大な問題である。検察庁の権限行使に対して、最終的な責任を負うのは、内閣の長たる総理大臣の安倍首相なのである。

https://d1021.hatenadiary.jp/entry/2018/12/04/200430(「ゴーン前会長はモラル欠いていた」日商三村会頭)