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2017年米アマゾンのベストセラー歴史書『米中戦争前夜 新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』の著者で、アメリカの安全保障の実務にも精通するグレアム・アリソン・ハーバード大学教授が2月上旬に緊急来日、経済学者であり政治の現場も知る竹中平蔵東洋大学教授と対談が実現しました。

 ですが、新興国はみずからが強くなったからといって直接戦おうとはしないし、覇権国も新興国に対して今のうちに潰してやろう、などと考えるわけではない。第三者的な別の国や事象に挑発されるかたちで新旧両国が反応し、対立が一気にエスカレートする恐れを秘めているのが、「トゥキディデスの罠」の怖さなのです。


 目下であれば、米中関係の火種になりかねないのが、朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)の金正恩労働党委員長です。北朝鮮がICBN(大陸間弾道ミサイル)の実験を続けて、再び朝鮮戦争が勃発するようなことになれば、米中間で戦うことになり、日本も参戦せざるを得ないでしょう。

 トランプ大統領がやっていることは、金正恩習近平中華人民共和国国家主席)を説得して、こちらは避けないぞ、そちらが避けなければどうしようもないぞ、という脅しともいえる意思表明です。それがハッタリなのか、そうでないのかは誰も分からない。伝統的なゲーム理論でいえば、信じられないものを信じられるようにしなければなりません。相手方を説得しつつ、自分のほうがもっとクレイジーだと相手を納得させられるか。トランプなら、それができるかもしれない。「俺のほうがクレイジーなんだ」とね。

 国際政治を学ぶ者として、謎にも感じつつ歴史的な事実として言えるのは、領土問題はさほど重要に見えなかったとしても、ナショナリストの感情に影響を与えることで、ときに政治家に冷静さを失わせる問題だということです。


 中国も豊かになっていけば、人々は自由を求めて、日本や台湾のように民主化が進むだろうと、長い間思われていました。ですが、中国は今のところそうなってはいないし、習近平国家主席共産党大会で「中国で西側や日本のような民主化が起こるなんてありえない。中国は共産党が主導していくんだ」というメッセージを明確に打ち出している。
 他方、民主化した台湾や香港の人たちは自由でありたい、中国の支配下には戻りたくないと思うでしょうが、習は意見の違いを受け入れないし譲らないでしょう。すると、かなり早期に台湾などとの間にも衝突が起こる可能性があります。現在の状況が極めて危険であることを認識して、慎重に議論し、対応しなければなりません。万一戦争になれば、米中両国、もちろん日本にとっても破滅的です。

竹中 大変難しい質問だと思います。ただ私は次のように考えています。
 中国は規制によってグーグルやアマゾンが参入できない状況ですよね。そういう鎖国状態であっても、国内だけで人口は13億人いますから、どんな産業であれ規模の経済性が発揮され、競争力が非常に高まっているのではないでしょうか。特に、現代の産業は研究開発投資がかさみやすいため、規模の経済がはたらきやすくなり、中国の成長を加速させているように思います。
 問題は、追いつけ追い越せというキャッチアップの過程はアメリカやヨーロッパで起きたイノベーションを取り入れて大きくなってきたけれども、その後、中国が世界のフロントランナーになったときにイノベーションを起こして成長を維持できるのか、という点です。
 私が経済財政政策担当大臣だった2000年代初頭、CEA(大統領経済諮問委員会)委員長だったグレン・ハバードが、コロンビア大学に戻って書いた経済学の教科書(邦訳『ハバード経済学1〜3』日本経済新聞出版社、2014年)は300以上の大学でテキストとして使われていますが、そこに大変面白いことを書いています。イギリスで世界初の産業革命が起こったのは、世界中で最も早く「法の支配」を確立したからであり、自由と権利を認めるルールがないとイノベーションは起こらない、と言っている。彼だけでなく、ノーベル経済学賞を受賞したエドマンド・フェルプスコロンビア大学教授しかり、オーソドックスなエコノミストは同じように、法の支配がなく自由がない国でイノベーションは起こらない、と考えていたのではないでしょうか。日本経済研究センターという日本で老舗の経済シンクタンクも、「中国ではやがてイノベーションが起こらないために“中所得国の罠”にはまって、2030年頃には中国の成長率は3%を下回るだろう」という予測を出していました。今日は「罠」の話が多いですけれど(笑)。


 しかし今日に至っても、中国の成長の勢いは止まりません。ここは将来にわたる大いなるクエスチョンです。自然なストーリーとして予想できるのは、しばらく中国の発展は続くものの、徐々にサチュレートしていく、というところでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170321#1490092811(公序説)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170306#1488797575小室直樹 資本主義講座)