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歴史には未来のシナリオが潜んでいる 本村凌二先生 | 慶應MCC 夕学リフレクション

偉大な先生のお話にはいつも示唆がたくさんあるけれど、本村先生のローマ帝国研究にも、現代を構造的に大局的に理解する鍵が詰まっている。

本村先生が考えるローマ人の特徴は3つある。1つはローマ人が敬虔で誠実であること。2つ目はローマ人が実利を重んじていたということ。最後に、ローマ人は他者に対して寛容さを持ち合わせていたことが挙げられる。

しかし、古代地中海世界が近代化することで、この文化的価値観が崩壊していく。引き金となったのは、統合してきた都市や農村地域の人々の間に貧富の差や階層が生まれ、それを救済する手段としての一神教であるキリスト教が普及したこと。キリスト教は、帝国の皇帝によってしばらく弾圧されていたが、ミラノ勅令によりローマの信仰同様に許可されるようになる。また、4世紀以降の寒冷化によりゲルマン民族が大量に移民として流入したことで広まった。


先生によれば、貧富の差が再生産されることにより、敬虔で自助努力を好むローマ人の精神は、選民思想に基づくキリスト教にとってかわることになる。また、多神教を認めてきた土壌が、一神教のみが許容される風土にとってかわったこと、大量のゲルマン民族の移民の異質性が露見したことによりローマ人は文化的寛容さを失っていくことになる。

一神教の話よりも気に入った先生の説明がある。それは、民主制と共和制の違いに関するお話である。先生の説明によると、民主制は個人個人の主張の積み上がりにより、合意形成がされるのに対して、共和制は「公的」なものが統治下の民の行動指針となる。ローマ帝国は共和制である。


多文化社会に対して寛容で包容力が高いのはどちらだろうか。先生の説明にのっとれば、おそらく共和制の方なのだろうと思う。各個人がそれぞれの文化に根付いた私的な生活を基盤として、政治や共同体としての運営に関わるのは、「公的」なものに対する人々の忠誠心である。人々が共有する思想の個人差やブレはすくなく、且つ私的な世界を担保することができる。他方、民主主義を採用し、多文化である国はそれぞれの主張が際立ち、50%以下の意見を主張した人々には常に不満が残る。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20180624#1529837296
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20180621#1529578128