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 筆者が昨年の時点で指摘したのは、小泉氏のあまりに技巧的な政界遊泳術の要因のひとつとして、秘書やブレーンにPRやマーケティングのプロを配置していることだった。詳しくは繰り返さないが、公設秘書に二代続けて女性マーケッターを招聘。それも広告業界では、デジタルマーケティングなどで「その人あり」と知られる実績がある人物などで、政治家の個人事務所としては異例なほどPRを重視した体制を取ってきた。また、事務所外では、自民党の小委員会で博報堂出身の若手クリエイターをブレーンにし、政策提案のキャッチコピーにそのアイデアを活用したこともある。

 メディア関係者の間で囁かれる小泉事務所の広報手法の評判とは、だいたい次のようなものが通説だ。SNSでプロ仕様の画像や動画を巧みに使いながらも、露出をかなり戦略的にコントロールする「映え」重視。その裏で、討論番組の出演や単著の出版は控え、PRに精通した秘書が窓口となってメディアをかなり選んできた。しかし、過去に務めた復興大臣政務官自民党農林部会長などと比べ、「大臣」となればその注目度、メディアの取材攻勢は段違い。小泉氏の政治家としての「本当の力量」を隠せなくなったように見える。

 もちろんブレーンたちは、危機管理も熟知している。小泉株の暴落をなんとか下げ止め、反転攻勢できないか潮目を見極めようとしているはずだ。筆者のこれまでの政治PRの経験上、ネット世論は捨て置き、小泉氏の支持が特に期待できそうな中高年女性に影響力の大きい、テレビでの論調を「勝負所」に見ているようにも思える。

 しかしSNSを起点に、ネットメディア、新聞、そしてテレビへと波及する世論のサイクルは、年々ますます早くなっている。小泉氏の中身のない発言がツイッターで「大喜利」と化した現象についても、一昔前ならネットニュースで取り上げられる程度だったが、今回は、共同通信(9月22日)が早々に記事化して全国の加盟地方紙に配信する異例の事態となった。スポーツ紙、週刊誌は言うに及ばず、テレビでもフジテレビ系の「バイキング」(9月27日)やTBS系の「グッとラック!」(10月3日)で迷言ぶりがとうとう取り上げられてしまった。まさかとは思うが、小泉氏のPRブレーンたちが「騒いでいるのはネットだけ」とタカをくくっているうちに、ダメージコントロールが後手後手に回ったのではないだろうか。

 一方、小泉氏がここまで袋叩きに遭う現象をよく見ていると、誰が叩き、誰が擁護に回っているかで、彼がどういう政治志向なのかも、ある程度、想像がついてくる。

 まずは保守層、ことに安倍政権を支持している人たちと小泉氏は、実に相性が悪い。先日、筆者は櫻井よしこ氏が主宰するインターネットテレビ「言論テレビ」の公開収録イベントの観覧に招待され、目玉ゲストの菅義偉官房長官を囲む政界談義を生で拝聴した。その際、聞き手が「小泉さんが次の首相だという人は誰もいない」と菅氏に水を向けると、満場の聴衆は大きく頷き、小泉入閣を後押しした菅氏がいまにも苦笑しそうな雰囲気だった。

 昨年の拙稿でも触れたが、安倍政権の保守系支持者は、小泉氏の父・純一郎氏が首相だった時代の構造改革路線に、否定的という政治的な伏線がある。ネットでも純一郎氏を、「拝金主義」「新自由主義」などと手厳しく非難する投稿はよく見かける。

 また、小泉純一郎政権が財務省寄りだったことも、成長重視で増税回避志向の経産省が主導する安倍政権のシンパたちは、お気に召さない。消費増税反対運動で敗北した彼らは、小泉氏が環境相に就任したことで、すでに欧州で先例がある炭素税導入を警戒し始めている。

 ちなみに、筆者が編集長を務める言論サイト「アゴラ」は保守タカ派に見られることもあるが、アベノミクスなどのリフレ政策には批判的で、執筆陣も小泉政権の改革路線を支持していた人たちが多いため、実は安倍シンパの保守層とは異なる。敢えて言えば、今のネットでは“絶滅危惧種”となった中道右派だろうか。

 アゴラ主宰の池田信夫氏も、小泉進次郎氏が首相になって国家破綻の危機に改革を断行したらどうなるかという近未来を描いた本(『もし小泉進次郎フリードマンの資本主義と自由を読んだら』[日経BP])を出版したこともあるくらいで、筆者を含め、元々は彼の将来性に期待していた部分がある。しかしその一方で、アゴラは原発再稼働などリアルなエネルギー政策を一丁目一番地にしているだけに、処理水を巡る小泉氏の逃げ腰に対して結果的に批判の急先鋒となった次第だ。

 そして、保守層以外の小泉氏のアンチといえば、言うまでもなく反自民のリベラル。そのなかでも山本太郎氏の支持者に代表される反原発系の人たちは、処理水の海洋放水には徹底抗戦の構えを示している。

 ところが興味深いことに、この期に及んで小泉氏の擁護に“必死”な人たちがいる。それは、政治的にはリベラル志向ではあるものの憲法9条を神棚に祭り上げる絶対護憲信者のオールド左翼とも、反原発や貧困問題などで山本太郎共産党に共鳴する「プア充(実生活が充実していないという意味のネットスラング)」のリベラルとも一線を画している人たちだ。社会的には勝ち組とも言えるリア充(プア充とは反対に、リアル=実生活が充実しているという意味)」なエリートリベラルである。

「セクシー発言」が炎上した直後の9月23日、小泉氏と親交のある社会学者の古市憲寿氏が、「セクシー発言」は引用であり、メディアの切り取りだとして、「全貌を知っているはずなのに一部を切り取って面白がるマスコミも、それを脊髄反射で批判するバカも、いつもの光景」(ツイッター)などと擁護した。

 古市氏といえば、著書「絶望の国の幸福な若者たち」(講談社+α文庫)で一世を風靡し、テレビでもおなじみ。近年は小説執筆にも熱心で、2回連続で芥川賞候補作として俎上にあげられ、かの津田大介氏が「新しいタイプの高等遊民」(ツイッター:2016年6月20日)と評するなど、典型的なリア充リベラルの旗手と言えるだろう。

 また、小泉氏のブレーンのひとりに博報堂出身のクリエイターがいると先述したが、それが昨年の拙稿で紹介した高木新平氏。一連の小泉バッシングを受けて、フェイスブックに投稿し、「メディアはステーキやらセクシーやら報道して進次郎ネタでしょうもないView稼ぎ、“識者”らは答弁に具体性乏しいとドヤ顔批評」などと、小泉批判のメディアや専門家をくさした。

 高木氏は31歳だが、博報堂を新卒1年で退社し、フリーランス活動は長い。20代半ばでネット選挙解禁運動やシェアハウスブームを仕掛け、若干27歳で制作会社を創業。DeNAの自動運転プロジェクトや卓球日本代表のブランディングを手がけるなど、こちらもなかなかのリア充リベラルぶりだ。

 そして、ドワンゴ社長の夏野剛氏だ。Abema TVの報道番組(9月23日)が小泉氏の「セクシー発言」を特集した際、「全く失言ではない。いいじゃないかと」とほとんど開き直り気味に擁護。「騒いでいるネット民は影響力もない」とネット企業の社長とは思えないほど、ネットユーザーを軽んじたかと思えば、「これでまた60歳以上の女性の有権者をわし掴みにしたと思うし、今後のキャリアの中で得点を稼いだ」とまで言い切った。

 夏野氏はNTTドコモiモード事業の中心的存在となったことでおなじみ。その実績を引っ提げて慶應大学の特別招聘教授に就任し、SBIホールディングス、ぴあ、セガサミーホールディングス、グリーなど数々の社外取締役を歴任。実業活動の一方で、ニコニコ超会議の「リベラル再生会議」に何度も出演して、旧民主党の不甲斐なさに辛口のエールを送るなど、まさにリア充リベラルの“大御所”とも呼べる存在だ。

 そもそも、小泉氏が尊敬する政治家として挙げるのはジョン・F・ケネディJFKだ。今年5月にワシントンを訪れ、かつて研究員として所属した戦略国際問題研究所CSIS)で講演した際にも、日本の高齢化社会の問題への取り組みについて、ケネディが政策コピーに用いた「ニューフロンティア」を引用。「ケネディ大統領のように、私も日本国民を鼓舞し、全ての改革を実行するため、全力を尽くす覚悟だ(NNNニュースの和訳より)」などと、まるで首相就任時の演説のような怪気炎を上げてみせた。

 あらためて言うまでもなく、ケネディアメリカの民主党から出馬して第35代大統領に就任。小泉氏が言及したニューフロンティア政策には、経済成長だけでなく、貧困や人種差別の解消も含めた“リベラル”な社会政策も含まれている。そして何より、JFKの祖父は港湾労働者からマサチューセッツ州議会議員に上り詰め、父親は金融業で莫大な資産を築いて初代証券取引委員会委員長や在英国大使なども歴任するなど、ケネディファミリーは名門中の名門。これぞ“リア充リベラルの権化”のような存在だろう。

 そういえば、日本にもケネディファミリーを彷彿とさせる財力がある政治家一家がいた。鳩山家だ。現当主で、政界引退後は中国・韓国に独自の土下座外交を繰り広げる鳩山由紀夫氏は、ツイッターで読むのもイタいお騒がせを続けている。実は、その鳩山氏が9月21日のツイッターで、小泉氏が処理水(ツイートでは汚染水)問題に直面した話題を次のように取り上げているのだ。

小泉進次郎さんが環境大臣に就任して人気がとてもあると伺った。人気があることは良いことだ。小泉大臣、前大臣は汚染水を海に流すしかないと述べたが、海に流さないで処理する方法はあるということを肝に銘じて、人気に相応しい仕事をやっていただけるように期待します。」

 海洋放出せずに済む「方法」と言いながら根拠を示さない鳩山氏に、ネット民が失笑やツッコミを巻き起こしているのは相変わらずだが、リア充リベラルに擁護されてきた小泉氏も鳩山氏にエールを送られたとなれば、さすがに自分がどのような状況にいるのか気づき始めるかもしれない。

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アニメは現実の映し鏡、あるいは合わせ鏡でなければならない。
自分自身の似姿であり、あるいはその奥にある無限の可能性なのだ。

だからアニメはここまで発展してこれたのだ。