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ウクライナ疑惑はトランプ大統領がことし7月のウクライナの大統領との電話会談で、来年の大統領選挙に向けた野党・民主党の有力候補、バイデン前副大統領に不利な情報を得ようと、軍事支援と引き換えに調査を要求したとされるものです。

民主党が主導する議会下院は選挙目的の不正な要求の疑いがあるとして、非公開で関係者の証言を聞き取り弾劾に向けた調査を進め、先月、調査について正式に決議したことを受けて公開の公聴会の開催を決めました。

日本時間の14日未明に始まる初めての公聴会では、ウクライナ側との外交交渉を担っていたテイラー駐ウクライナ臨時代理大使と、国務省のケント次官補代理が証言します。

テイラー氏はこれに先立って非公開の聞き取りに応じていて、バイデン氏に関する調査がウクライナへの軍事支援や首脳会談の条件だったという認識を明らかにしています。

トランプ大統領は「魔女狩りだ」として疑惑を全面的に否定していますが、民主党は全米に中継される公聴会で核心に迫る証言を引き出して弾劾への支持を広げたい考えで、どこまで疑惑の解明が進むのか、政府高官らの証言に全米の高い関心が集まっています。

発端となったのは、ことし7月のトランプ大統領ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談です。

この会談でトランプ大統領は、ウクライナへの軍事支援と引き換えに、大統領選挙に向けた野党・民主党の有力候補のバイデン前副大統領とウクライナとの関係をめぐる調査を要求し、圧力をかけたとされています。

これを問題視したアメリカの政府機関の当局者が8月に内部告発し、その後、9月中旬にメディアで報じられて疑惑が明るみになりました。

報道を受けてトランプ大統領ウクライナへの軍事支援を一時、保留していたことを認める一方、これが見返りだったことや圧力は否定し、会談の記録だとする文書も公表して、問題はなかったと主張しました。

これに対して民主党ペロシ下院議長は9月、「トランプ大統領の行動はアメリカの安全保障や大統領に就任する際の宣誓に反している」として、主導権を握る議会下院での弾劾調査に踏み切り、関係する政府高官らの聞き取りを非公開で進めてきました。

そして先月、議会で正式に調査開始を決議し、公開での公聴会の開催を決めました。

弾劾調査を巡っては、最新の世論調査民主党の支持者の8割以上が賛成する一方、共和党の支持者では8割以上が反対で、全体では賛成が51%、反対が42%と世論が大きく割れています。

トランプ大統領は疑惑を全面的に否定し、弾劾調査も「魔女狩りだ」と非難して乗り切る構えですが、民主党は全米に中継される公聴会を通して世論を喚起し弾劾への支持を広げるねらいがあり、その行方次第では、大統領選挙に影響を与える可能性があります。

弾劾調査の最大の焦点は、トランプ大統領が選挙目的でウクライナ側に調査を要求したかどうか、それが法律違反に当たるかどうかです。

<1:連邦法違反の疑い>
アメリカの連邦法では選挙活動で外国政府や外国人に支援を求めたり、支援を得たりすることを禁じています。

トランプ大統領が来年の大統領選挙に向けた野党・民主党の有力候補であるバイデン前副大統領に打撃を与えるためにウクライナに調査を要求したとすれば、外国政府に選挙活動への支援を求めたと見なされ、連邦法違反に問われる可能性があります。

<2:権力乱用の疑い>
さらにトランプ大統領がバイデン氏に関する調査をウクライナへの軍事支援の条件に挙げていた場合は、みずからの政治的な利益のために権力を乱用したと判断される可能性があります。

これらが事実と認定されれば、大統領の罷免に向けた弾劾訴追の理由になるとみられます。

<3:隠蔽の疑い>
また、ウクライナ疑惑では、ホワイトハウスの高官がこれを隠蔽しようとした疑いも浮上しています。

一連の疑惑では、政府機関の当局者が7月のトランプ大統領ウクライナの大統領の電話会談を問題視して内部告発しましたが、その後、これを把握したホワイトハウスの高官が電話会談の内容を機密性の高いシステムに移していた疑いが出ています。

また、疑惑が明るみになったあとにホワイトハウスが電話会談の記録だとする文書を公表した際、内容を削除したり修正したりしたという証言も出ています。

これについて内部告発した当局者は「ホワイトハウス幹部は電話会談の内容を封印すべく介入した」と主張していて、民主党も追及を強めています。

トランプ大統領は、疑惑はむしろバイデン氏と、次男のハンター・バイデン氏の側にあり、真相を明らかにするべきだと訴えています。

<ハンター氏をめぐる「疑惑」>
ハンター氏は、父親のバイデン氏が副大統領を務めていた2014年に海軍を除隊となったあと、ウクライナのガス会社「ブリスマ」の役員に就任しました。

ハンター氏は、それまでガス事業に携わった経験はありませんでしたが、ことし4月に退任するまで毎月5万ドル、日本円でおよそ550万円の報酬を受け取っていたとされています。

これについてハンター氏は先月、ABCテレビのインタビューで、不正はなく何も問題はなかったと強調する一方で「副大統領の息子でなかったら、おそらく役員には就任していなかっただろう」と述べ、父親の立場が役員就任に影響したという考えを示しました。

そのうえで「父親を攻撃する材料を与えてしまった。それが私の過ちだ」などと釈明しました。

<バイデン氏をめぐる「疑惑」>
一方、父親のバイデン氏は、副大統領だった2015年にウクライナを訪問した際、汚職対策の推進が不十分だとしてウクライナに対して検事総長の解任を求めました。

バイデン氏は後にシンクタンクで行った講演で当時を振り返り、検事総長を解任しなければ10億ドルの経済支援を行わないとウクライナ側に圧力をかけたとみずから述べています。

ウクライナ汚職対策の推進は各国やIMF国際通貨基金などと連携して要求していたものですが、トランプ大統領ウクライナの検察当局によるガス会社「ブリスマ」をめぐる捜査から息子のハンター氏を守るためにバイデン氏が副大統領の地位を利用し、不当に圧力をかけたと批判しています。

<中国でも?>
また、ハンター氏は「ブリスマ」の役員に就任する前の2013年12月に、当時、副大統領だったバイデン氏の中国訪問に同行し、そのあと、まもなく設立された中国の投資会社の役員にも就任しています。

これについてトランプ大統領は、バイデン氏が副大統領の立場を利用し、息子の中国でのビジネスを支援したと批判。

さらに、根拠は示していませんがハンター氏が中国側から15億ドル、日本円で1600億円以上の資金を得ていたなどと指摘し、ウクライナだけでなく中国政府もバイデン氏親子の調査を行うべきだと主張しています。

ハンター氏は、トランプ大統領が批判を繰り返す中、先月、この投資会社の役員を退任しています。

バイデン氏は先月、民主党候補者のテレビ討論会で、息子がウクライナ企業から巨額の利益を得ていたことについて司会者に問われると「息子も私も間違ったことはしていない。われわれが焦点を当てるべきはトランプ大統領だ」と述べて、批判はあたらないと主張しました。

民主党への影響>
バイデン氏親子はいずれも反論していますが、ハンター氏が副大統領の次男という立場を利用し、利益を得てきたという指摘を完全に否定するのは難しい面もあり、民主党の指名争いでトップを走ってきたバイデン氏の勢いにかげりも出ています。

今後、民主党が議会を舞台に進めているトランプ大統領の弾劾に向けた調査の展開次第では、バイデン氏の選挙戦にさらなる影響が出る可能性もあります。

アメリカのメディアによりますと、議会下院の弾劾調査で進められてきた非公開の聞き取りで、これまでにホワイトハウス国務省の高官など18人が証言に応じたということです。

<テイラー臨時代理大使>
このうちウクライナとの外交交渉を担っていたテイラー駐ウクライナ臨時代理大使は、先月22日に非公開で証言しました。

今月6日に公開された証言記録によりますと、テイラー氏はウクライナへの軍事支援の条件は、ウクライナ側によるバイデン氏に関する調査実施の表明だったと認識していたということです。

また、テイラー氏は、これらの要求がトランプ大統領の意向だと別のアメリカの大使から伝えられたと証言しています。

テイラー氏は、この大使に「選挙活動への協力と引き換えに軍事支援を保留することは正気の沙汰ではない」と伝えたとしています。

<ソンドランド大使>
テイラー氏にこれを伝えたのはEU=ヨーロッパ連合を担当するソンドランド大使で、ソンドランド氏はトランプ大統領に多額の献金をした有力な支援者として、大統領と近い関係にあるとされています。

このソンドランド氏も先月、非公開の聞き取りに応じ、当初はトランプ大統領が軍事支援の見返りに、ウクライナに調査を要求した事実は知らないと証言していました。

しかし、その後、今月4日に追加で提出した供述書で証言を一転させ、ほかの政府高官の供述を聞くにつれて内容を思い出したとしたうえで、ソンドランド氏自身からウクライナ側にバイデン氏の調査に関する声明を出さなければ、軍事支援は難しいと伝えていたと認めました。

これについて、メディアは政府高官の証言がそろう中、議会の調査にうそをついた偽証罪に問われることをおそれた可能性があると指摘しています。

<ビンドマン陸軍中佐>
一方、問題となっている7月のトランプ大統領と、ウクライナの大統領の電話会談の場にいたという政府高官も証言に応じています。

その1人がホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のビンドマン陸軍中佐で、先月29日の非公開の聞き取りで「外国政府にアメリカ人に関する調査を要求することは適切ではなく、大統領の発言に懸念を覚えた」と証言したとされています。

また、ビンドマン氏はホワイトハウスが電話会談の記録とする文書を公表した際に、会話の内容が削除されたり修正されたりしたことも明らかにしたということです。

ジュリアーニ弁護士>
一方、議会による一連の調査でウクライナ疑惑に深く関与しているとみられるトランプ大統領の側近の存在が浮かび上がっています。

トランプ大統領の顧問弁護士のジュリアーニ氏です。

ジュリアーニ氏はトランプ大統領の依頼を受けて、民主党のバイデン氏とウクライナの関わりを調査していたとされています。

<ケント国務次官補代理>
このジュリアーニ氏の存在について証言したのが、国務省ウクライナ政策を担当するケント次官補代理です。

証言記録によりますと、ケント氏は先月15日の非公開の聞き取りで、ジュリアーニ氏がバイデン氏の調査に否定的だったアメリカのヨバノビッチ前駐ウクライナ大使の解任をもくろみ、中傷を繰り返していたと明らかにしました。

ヨバノビッチ前大使>
結果としてヨバノビッチ氏はことし5月に解任され、先月、本人も証言に応じています。

それによりますとヨバノビッチ氏は、ことし2月、ウクライナの高官からジュリアーニ氏の行動に警戒するよう忠告を受けていたということです。

ボルトン大統領補佐官
疑惑の追及を強める民主党が実態解明の鍵を握る人物として注目するのが、トランプ大統領の側近だったボルトン大統領補佐官です。

ボルトン氏は、ことし9月に解任されるまでトランプ政権の安全保障政策のかじ取り役を担い、ウクライナへの軍事支援の決定にも深く関わっていたとみられています。

アメリカのメディアによりますと、ボルトン氏はことし7月、ソンドランドEU担当大使からバイデン氏に関する調査をウクライナに要求する考えを聞かされ、その際、外交を政治利用する動きだとして激怒したということです。

民主党ボルトン氏に証言を求めることを検討していると伝えられていて、その行方が注目されています。

アメリカの憲法では、大統領を裁く手段として弾劾制度が規定されています。

この制度では、連邦議会が大統領の犯罪の疑いを調べ、必要があれば訴追して裁判を開き、事実上の有罪無罪の判断を下します。

その際、まず議会下院の委員会が調査を実施し、弾劾の対象となる「反逆罪や収賄罪、その他の重大な罪または軽罪」にあたると判断した場合は、本会議で採決にかけ、過半数の議員が同意すれば訴追となります。

訴追されると議会上院で弾劾裁判が開かれ、出席している上院議員の3分の2以上が同意すれば、事実上、有罪として弾劾が決定し、大統領は罷免されます。

アメリカでは過去にジョンソン第17代大統領と、クリントン第42代大統領の2人が訴追され、弾劾裁判にかけられましたが、いずれも罷免には至りませんでした。

このうちクリントン大統領はホワイトハウスの元研修生との不倫疑惑でうその証言をした偽証の罪に問われ、1998年10月に弾劾手続き開始を決議され、およそ2か月後の12月に訴追、さらに2か月後の1999年2月に弾劾裁判の評決が出されました。

一方、「ウォーターゲート事件」で知られるニクソン第37代大統領は、敵対する民主党本部の盗聴未遂事件などの疑惑で世論の反発を招き、議会で弾劾される公算が高まったため、訴追される前に辞任に追い込まれました。

今回のウクライナ疑惑では議会下院を主導する野党・民主党トランプ大統領による不正の疑いを強めていて、今後、公聴会での聞き取りや関係文書の調査を進め、早ければ来月にも訴追に踏み切るという見方も出ています。

しかし、弾劾裁判が開かれる議会上院はトランプ大統領を支える与党・共和党過半数を握っているうえ、今のところ大きな造反の動きも見られないことから、現状では裁判で3分の2以上の同意を得るのは難しいと見られています。

アメリカ政治が専門で慶應義塾大学の中山俊宏教授は「ウクライナ疑惑は、軍事支援の見返りに大統領の政敵を調査することを求めたという、国民にとっても構図として分かりやすいものでこれまでのトランプ大統領のほかの疑惑と比べても問題視しやすかった。そのために議会で公聴会が開かれるところまでプロセスが進んだといえる」と指摘しました。

そのうえで「アメリカの近代史では弾劾にむけた調査が行われたり実際に弾劾裁判にかけられた大統領がいるが、頻繁にあるわけではないので大きな話と国民にも受け止められている」という見方を示しました。

公聴会については「大統領が直接、見返りを求めるための明確な指示をウクライナの担当者にしたかどうかが焦点になる。ただこれまでの調査でも相当はっきりとした証拠がそろってきているので、共和党側はそれ自体は弾劾に値するほどの問題ではないと議論をすり替え始めている」と話し、公聴会の内容によっては焦点が変化する可能性もあると指摘しました。

一方で「近年ではアメリカ自体が共和党支持層と民主党支持層に二極化しているので、弾劾へのプロセスが進んでもトランプ支持者が次々と寝返る状況は想定しにくい。さらに、下院で訴追されても共和党が多数派の上院で弾劾を決定し大統領を罷免するのはほとんど無理だといっていい」と述べて、トランプ大統領が訴追されたとしても弾劾される可能性は低いという見通しを示しました。

さらに「大統領は自分の無罪が証明されたと主張すると思うので、大統領本人へのダメージがどの程度あるのか不透明だ。むしろ結果として弾劾プロセスがアメリカ政治の二極化をさらに深める状況になるのではないか」と話し、弾劾の手続きがアメリカの分断をさらに深めるおそれがあるという認識を示しました。

また「民主党が言いがかりをつけてトランプ大統領を批判しているということで、共和党が結束する効果もないとはいえない。使い方によっては支持固めにもつながる状況だ」と話しました。

一方の民主党については「まだ知名度の低い候補が多くいるなかで、選挙よりも弾劾のほうに国民の関心が向いてしまうというマイナスもあり、そういう意味でも痛しかゆしとなりうる。またウォーレンなど上院議員民主党候補にとっては、上院で裁判が行われる期間中、選挙のキャンペーンに身を投じることができないのも痛手だ」と分析しました。