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農林水産省の元事務次官、熊澤英昭被告(76)はことし6月、東京・練馬区の自宅で、長男の英一郎さん(44)を包丁で刺して殺害したとして、殺人の罪に問われました。

被告は起訴された内容を認め、裁判では被告が長男から家庭内暴力を受けるなどした事件のいきさつを踏まえて、情状酌量がどの程度認められるかが争点となりました。

検察は懲役8年を求刑し、弁護側は執行猶予の付いた判決を求めていました。

16日の判決で、東京地方裁判所の中山大行裁判長は「『長男に殺されるという恐怖から刺した』とする被告の供述は信用性に乏しく、ほぼ一方的に攻撃を加えたと認められ、強固な殺意に基づく危険な犯行だ。主治医や警察に相談できたのに相談することなく、同居してわずか1週間で殺害を決意して実行した経緯には短絡的な面がある」と指摘しました。

そのうえで「長男から暴行を受けて恐怖を感じ、対応に不安を感じる状況になったという事情が背景にあることは否定できず、それなりに考慮すべきだ」として、懲役6年を言い渡しました。

熊澤被告はスーツとネクタイを身につけて、ややうつむきながら法廷に入ったあと、裁判長から法廷の中央にある証言台の前のいすに座るよう促されました。

判決の冒頭で「懲役6年」という主文が言い渡された際には、裁判長のほうをまっすぐに見ながら聞いていました。

裁判長のことばを聞きながら、被告は内容を確認するようにしっかりとうなずいていました。

言い渡しが終わると、裁判長と弁護士、それに検察官に一礼して法廷をあとにしました。

農林水産省の元事務次官、熊澤英昭被告(76)はことし6月、東京・練馬区の自宅で、長男の英一郎さん(44)を包丁で刺して殺害したとして、殺人の罪に問われました。

裁判では、長男による家庭内暴力など事件のいきさつを踏まえて、情状酌量がどの程度認められるかが争点となり、検察が懲役8年を求刑した一方、弁護側は執行猶予の付いた判決を求めました。

16日の判決で、東京地方裁判所の中山大行裁判長は「『長男に殺されるという恐怖から刺した』とする被告の供述は信用性に乏しく、ほぼ一方的に攻撃を加えたと認められ、強固な殺意に基づく危険な犯行だ。主治医や警察に相談できたのに相談することなく、同居してわずか1週間で殺害を決意して実行した経緯には短絡的な面がある」と指摘しました。

その一方で、「被告が長年、長男と別居しながらも月に1回程度、主治医に状況を伝え、長男に薬を届け、たまったゴミを片づけるなど安定した関係を築く努力をしてきた。同居を始めた翌日に初めて長男から暴行を受けて恐怖を感じ、対応に不安を感じる状況になったという事情が背景にあることは否定できず、この点はそれなりに考慮すべきだ」としました。

そのうえで「子を殺害した同じような事件の中では執行猶予を付けるべきではないが、重い実刑にすべきとはいえない」として懲役6年を言い渡しました。

熊澤被告は、スーツとネクタイを身につけてややうつむきながら法廷に入ったあと、裁判長から法廷の中央にある証言台の前のいすに座るよう促されました。
判決の冒頭で「懲役6年」という主文が言い渡された際には、裁判長の方をまっすぐに見ながら聞いていました。

裁判長のことばを聞きながら被告は内容を確認するようにしっかりとうなずいていました。

言い渡しが終わり、被告が裁判長と弁護士、それに検察官に一礼して法廷をあとにしようとした際、検察官から「お体に気をつけて下さい」と声をかけられていました。

判決のあと、裁判員を務めた人たちが会見に応じました。

このうち、裁判員を務めた50代の男性は、「被告を見ていて、罪をしっかりと背負っていきたいという気持ちがあるように感じました。長男への謝罪の思いを持ちながら、これからの人生を送られるのではないかと思います」と述べました。

また、「父親としての役割や責任を果たそうとしていたと思いますが、結果として今回のような事件に至ってしまいました。もっと社会が関わりを持たないと解決は難しかったように思いましたし、それができていれば、被告を助けてあげられたのではないかと思いました。私自身も子どもがいますが、裁判を通じて家族の本当の幸せとはどういうものなのか深く考えさせられました」と話しました。

被告と同じ70代の補充裁判員の男性は、「自分の子どもを手にかけるという大変なことをしてしまったわけですが、事件に至るまでに被告にはいろいろな考えがあったように感じ、考えさせられました。刑の重さを考えたとき、自分の中でもさまざまな葛藤がありました」と話しました。

裁判員を務めた30代の女性は「被告本人や妻の話を法廷で聞いていると、同情したり共感したりする部分も少なからずありました。どこまで感情を入れていいのか、悩みました。検察官の主張も分かるし、弁護士の言う背景も分かるので気持ちがとても揺れ動きました」と話しました。

判決について、元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸 教授は、「一般的に誰がそういう立場になってもそれしか手段がない場合には殺人罪で執行猶予も考えられる。しかし、この事件では暴力を受け続けていたわけではなかったし、主治医や警察に助けを求めるということも考えられ、短絡的だという裁判所の判断はそのとおりだと思う。執行猶予が付かずに実刑となったのは妥当だ」と話しています。

また、家庭内暴力があったことは確かなので、検察官も、この事件の特色を考えて求刑段階で軽くしたと考えられる。家庭内の問題であっても警察や医者など、外部の機関に助けを求めるなど穏やかな手段で解決してほしかった」と話していました。

家庭内暴力などの問題を抱えている親子をサポートする活動を行っている埼玉県のNPO法人の代表者の女性は、今回の事件は誰の身にも起きる可能性があるものだったと感じ、裁判の行方に関心を寄せてきました。

そして、午後3時すぎに判決の内容が速報されると、インターネットのニュースサイトですぐに確認していました。

この団体は、10年ほど前から、発達障害家庭内暴力、それにひきこもりなどの問題で悩んでいる人たちの自立支援に取り組んでいます。

これまで相談を受けてきたケースの中には、今回の事件のように「自分の子どもに殺されるかもしれない」という不安を抱えた親からの相談も少なくなく、ことし6月に今回の事件が発生した直後には、「事件の報道を見て自分も不安になった」という親などから1日に10件以上相談が寄せられたということです。

NPO法人「太陽の輪」の高橋陽子代表理事は、「発達障害は今は身近な問題で、どこでも起こり得るものだが、自分の子どもが問題を抱えていることを知られることを恐れ相談しようとしない人が多い。しかし、こうした問題は家族の中だけでは解決せず、第三者が入らないと状況が変わらないものだ。これまで支援してきた人の中には、『もっと早く相談してくれればこんなに苦しまなくて済んだのに』と思う人もたくさんいた。われわれのような支援団体はオープンに相談を受け付けているので、同じような事件が繰り返されないためにもまずは気軽に相談してほしい」と話していました。

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