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第5話「おれの弟」

 滝口丈助(渡辺裕之)は、長谷川平蔵中村吉右衛門)も通った本所の高杉道場の師範代をつとめる優れた剣士だ。鍛え抜いた体に整った顔立ち。肩には大きな刀傷があった。心行寺という寺の離れに一人住んでいるが、質素な暮らしぶりである。平蔵はそんな丈助を弟のように思っていた。
 ある日平蔵は「丈助の身辺に異変が起こっている」と感じた。愛刀を見つめる時の丈助の異様な目…なじみの刀研師・今井宗仙(織本順吉)の美しい後妻・お市真行寺君枝)を見るときの熱いまなざし…。お市が丈助を見る目も同じだった。
 平蔵は役目を離れて、密偵のおまさ(梶芽衣子)、彦十(江戸家猫八)に丈助の見張りを頼んだ。同心の沢田小平次真田健一郎)は高杉道場内部の情報を収集する。実はその昔、高杉道場の隆盛をねたむ他流の剣士たちが、道場一の使い手だった平蔵を闇討ちしようとしたことがある。その時、丈助が身代わりになって戦い、肩に傷を受けた。平蔵はその恩を忘れられない。そのうえ、丈助も平蔵と同じように実の母に早く死に別れ、苦労して育った。そんな共感もあった。
 道場内部にはもめごとがあった。衆目の一致するところ、高齢の道場主の後継者は丈助なのだが、同門で幕府の有力者の息子である石川源三郎(友居達彦)がそれをやっかみ、妨害しようとしていた。丈助が研ぎに出した愛刀を、お市が届ける。そしてお市が思いのたけを丈助に語り始めた。お市の母親は茶屋の女中。父親は客の誰かで、お市は父の顔を知らない。母も早く死んだが、顔立ちが良かったので茶屋で育てられ、やがて旗本の侍女になった。そこで殿のお手つきとなり、寵愛が失せると用人の後妻になったのだ。その夫も死んで、宗仙の後妻になったが、七十歳の宗仙とは、男女の関係はない。そんな自分の生涯が情けないと言う…。
 身の上を語った後、お市は丈助への思いを打ち明けた。その気持ちが十分に分かる丈助だが、あえて「あなたは人の妻。この世では越えられぬ溝がある」と答えた。数日後、丈助がお市を茶屋によびだす。気持ちが通じたと喜ぶお市だが、丈助がお市に見せたのは石川からの果たし状だった。「相手はだまし討ちをする。私は死ぬ。その別れに来た。一生に一度の恋だった」と言う丈助であった。そして…。

#広尾が原