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そもそも、いつの時代も彼女や彼氏のいる率というのは大体3割程度です。長年の独身研究において、これこそが、日本の未婚化原因のひとつであると私はとらえ、「恋愛強者3割の法則」と名付け、当連載でも何度もご紹介してきました。

80年代後半から2005年までの間に、いったい何があったのでしょう。1980年代中ごろ、バブルの好景気という日本全体を覆い尽くした熱病を反映したように、平成の恋愛至上主義と呼ばれる時代が到来しました。クリスマスにはシティホテルに宿泊し、男性は高価なプレゼントを贈るものというデートフォーマットが完成されました(Xmasデートする未婚者は2割以下という現実参照)。

90年代に入ると、フジテレビ系列の月9シリーズにて、「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「ロングバケーション」等恋愛系ドラマが次々と大ヒットとなり、月曜の夜は街からOLが消えたとまで言われました。

もう1つ若者の恋愛に必須なツールがこの頃一般化しました。携帯電話です。特に親元に住む学生など若い男女にとって、親の目を気にすることなく、相手と長電話できる携帯電話は若者の行動を大きく活発化させました。

同時に、当時は元祖SNSともいわれるケータイサイト「前略プロフィール(通称「前略プロフ」)」が流行し、出会い系や援助交際のツールとしても使われるなど、2000年~2005年当時は、逆に「若者の性の乱れ」が問題視されていたことも事実です。つまり、2005年は基準ではなく、異常値だったと考えるべきなのです。

さて、そんな中で前述の通り、男女とも25歳以降は童貞率・処女率ともにあまり変化は見られなかった点をふまえると、恋愛経験値とは、24歳までにいかに恋愛を経験したかどうかが問われてくるのではないでしょうか。

これを見ると、意外なことがわかります。未婚男性に限れば、20代の若者も、30代も50代も、ほぼ24歳までの経験率に大きな差はありません。決して、若者が恋愛経験をしていないわけではないのです。

むしろ、40代未婚男性だけが、デート以降の恋愛経験率が突出して低いことがわかります。補足しますと、40代未婚男性の経験率は、他と比べて25歳以上の比率が高くなっていて、要するに「晩恋化」と言えるでしょう。逆に、未婚女性は、20代だけがデート以降の経験率が他の年代と比べて10%ほど低くなっています。

こうしてみると、「若者の恋愛離れ」とは20代未婚女性の恋愛離れであって、男性に限ると、「40代未婚おじさんの恋愛離れ」というべきなのかもしれません。

40代未婚男性が恋愛に踏み切れない要因は、まさに「ロスジェネ世代」といわれたように、ひとつには、経済的要因が大きいとは思います。今でも、婚活界隈では、ある一定レベルの年収以下の男性に対しては、はっきりと明言はしないものの「あなたには恋愛も結婚もする資格はない」と突き付けられているという現実があります。

ただし、こうした層も、その後、25歳以降では恋愛経験率が向上しています。自分の収入が安定した段階ではじめて恋愛行動に踏み出せたのでしょう。そういう意味では、「40代未婚おじさんの恋愛離れ」というより「低年収のまま40代を迎えた未婚おじさんの恋愛市場からの締め出し」と呼ぶべきなのかもしれません。

しかし、こうしたデータを提示しても、それでも頑として引き下がらない大人たちがいます。「なんだかんだ、俺たちの若い頃より、今の若い男たちは積極性に欠ける。金がないからと言い訳ばかり達者で、何事にも能動的にいかないから恋愛も結婚もできないのだ。そういう姿勢を草食というのだ」というわけです。

たしかに、そういう年齢層(60代以上)の方たちがそう発言する気持ちもわからなくはありません。彼らが20代の頃の1980年代までは、日本はほぼ全員が結婚する皆婚社会だったからです。男女とも80年代まで生涯未婚率(50歳時未婚率)は5%以下でした。

しかし、この皆婚にしても、全員が個人の強い意思や行動力によって実現されたものではありません。日本の皆婚社会を実現したのは、社会的な結婚お膳立てシステムといわれる「お見合い」によるところが大きかったからです。

出生動向基本調査における、初婚の夫婦の結婚のきっかけの推移をみると、戦前は約7割の結婚がお見合いによって成立していました。その後、徐々にお見合い結婚比率は衰退し、1965年あたりで恋愛結婚と並びます。注目していただきたいのは、1980年代後半に、お見合い結婚比率は25%まで落ち込む部分です。

自由恋愛を謳歌できるのは、3割の恋愛強者男女に限られます。残り7割のうち4割はそれでも過去に恋愛経験はあります。が、一度も恋愛経験のない層が3割存在し続けていることも事実です。そして、それは決して若者の問題だけではありません。「イマドキの若い奴は……」という言葉で片付けてしまうと、むしろ本質を見誤ります。

未婚化や非婚化は、若者の草食化というより、お見合いなどの社会的なお膳立ての消滅によって、もとから存在した恋愛未経験3割がそのまま40代以上となって可視化されたのではないかと思います。変化したのは若者の個人の意識や資質ではなく、社会環境のほうだという事実認識を持つことも大事でしょう。

人は自分が苦労せずできることは、他人も当たり前にできると思いがちです。できない者がいれば「それは努力不足だ」と断じる人もいるでしょう。しかし、自分が泳げるからといって、泳げない人を無理やり水深のある川に引き込めばどうなるでしょう?自力で泳ぐだけが川を渡る方法ではなく、そのために舟を作り、橋を架けることが社会の役割なのだと思います。