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岸田文雄首相は、2022年夏の参院選が終わってしまうと「安倍離れ」を急速に進めるのか──。

仮にそうなる場合、日銀の次期総裁・副総裁人事にどのような影響が及び、異次元緩和や政府・日銀共同声明に何らかの変化は生じるのか。さまざまな食品の値上げが22年1─3月期を中心に予定されており、エネルギー高に加わる家計への打撃が及ぶ中、「悪い円安」論に乗る形で、岸田首相が「異次元緩和は修正されるべきだ」と考え出すようなことはないのか。

落ち着いている円金利市場と異なり、為替市場の一部では、日銀の金融政策に関する思惑がくすぶっているようである。

ドル/円相場の行方を考える場合には当然のことながら、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策や米国株が主たるドライバーになる。利上げについてはその開始時期よりも利上げ局面の終着点(ターミナルレート)の水準の方が、はるかに重要である。

また、米国株は、利上げに関連して大幅な下落が続く場合、世界の金融市場を「リスクオフ」に傾けて、為替市場ではクロス円取引を中心に円買い圧力を増大させる要因となる。そうした点についてはコメントがすでに多数出ているので、ここでは視点を変えて、日銀の金融政策に何らかの変化が22年に生じる可能性について考えてみたい。

アベノミクス修正はあるのか>

岸田首相は12月23日に講演した際、日銀の金融政策に関し、物価目標2%の実現に向けて「努力すると期待している」と述べた。

この1カ月半ほど前、11月4日に首相官邸黒田東彦総裁と会談した岸田首相は、内外の経済・金融情勢について意見交換した。物価目標2%を盛り込んだ13年1月の政府・日銀共同声明も話題になったという。安倍晋三内閣から菅義偉内閣に受け継がれたこの共同声明は、岸田内閣でも当面、そのまま維持される可能性が高い。

だが、仮に夏の参院選自民党が勝利すれば、岸田首相の政治的求心力は強まる。すでに外相などの閣僚人選で安倍元首相の意向に反する動きが散見される岸田氏が「安倍離れ」を強めると、金融市場では冒頭にも述べた通り、「アベノミクス」の事実上の根幹である異次元緩和が何らかの形で縮小されるのではないかという思惑が浮上しやすくなる。

そうしたことを早めにけん制する狙いからなのかは不明だが、安倍元首相は12月26日のテレビ番組で、岸田内閣の経済政策について「根本的な進む方向をアベノミクスから変えることはすべきではない」「社会主義的な味付けになっていくのではないかととられると、市場も大変マイナスに反応する。成長から目を背けると思われないようにしないといけない」と述べた。

岸田内閣の「分配」重視路線は、海外の株式市場関係者の間では評判が良くないようである。「アベノミクス」を好感して海外勢が日本株を買い上げた経緯があるだけに、その修正を図る路線は、安倍元首相の言う通り、日本株の売り材料になる可能性が高い。

一方で、「アベノミクス」の下で拡大したとされる所得格差を岸田内閣が政策的に是正することを、少なからぬ有権者が期待している。内閣支持率を高めの水準に維持するために岸田首相は「成長あっての分配」と口にしつつも、「分配」に目配りした政策を断続的に打ち出す必要があるだろう。

このジレンマの中で、「分配」に関する政策では岸田首相に一種の「さじ加減」が求められてくる。だが、そうしたジレンマの中で、仮に岸田内閣が日銀の異次元緩和の修正を何らかの形で活用しようとしても、確たる成果は得られにくいように思う。

<日銀ステルステーパリグンの意味>

海外投資家から日銀の金融政策に関連する質問が寄せられた際に、あぜんとすることがある。日銀がやっていることの実情は、外国人にはあまり知られていない。

FRBのように日銀はいつ「テーパリング」するのか、という不思議な質問が寄せられることがある。言うまでもなく、16年1月にマイナス金利を導入した際、日銀はターゲットを「量」から「金利」へと明確に切り替えているので、長期国債買い入れの金額にノルマは存在しない。日銀当座預金政策金利残高にマイナス0.1%、10年物国債利回りにゼロ%程度という長短金利ターゲットを設定したイールドカーブコントロール(YCC)の下で、それと整合的なイールドカーブが形成されるような長期国債の買い入れを実施している。

21年11月末に日銀が保有している長期国債残高は、前年同月末比プラス16兆3265億円。ターゲットがまだ「量」だった頃、この数字はプラス80兆円を超えていたので、実態としては「テーパリング」的なことはすでに相当進んでいるわけで、これを「ステルス(隠密)テーパリング」と呼ぶ向きもある。

ETF(上場投資信託)買い入れはどうか。21年3月に行った金融緩和策の「点検」の際に日銀は、ETFの買い入れ手法を「柔軟化」したという体裁をとりつつ、相場急落時以外の買い入れは行わない態勢に移行した。ETFの新規買い入れからは事実上「撤収」したと言っても過言ではあるまい。

日銀は現在の金融緩和策の柱の1つとして、「オーバーシュート型コミットメント」を掲げている。これは消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束するもの」である。

その一方、日銀は21年12月の金融政策決定会合新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション」(コロナオペ)のうち、民間債務担保分は22年3月末で終了し、制度融資分とプロパー融資分は半年間だけ延長することを決定した。コロナオペの残高は足元で80兆円を超えている。満期到来でこれが全部なくなれば、マネタリーベースが落ち込むことは避けられない。海外投資家の間で「日銀は金融緩和縮小に転じたのではないか」「YCC見直しがあるのではないか」といった思惑が生じる可能性が潜在している。

<緩和修正の思惑と円高

この点について、日銀はどう説明して乗り切りを図るのだろうか。12月会合における主な意見には「昨春以降のマネタリーベースの増加は、感染拡大による流動性需要の高まりに日本銀行が潤沢な資金供給で応えてきた結果である。今回の措置により短期的にマネタリーベースが減少しても、長期的な増加トレンドは維持されるため、オーバーシュート型コミットメントとは矛盾しない」「特別プログラムを全て手仕舞いすることになったとしても、それはコロナ禍対応の終了であり、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』のもとでの金融緩和の縮小を意味するものでは全くない」といった意見が出されたことが記されていた。

そうした日銀による説明(一種の言い訳)がどこまで為替市場で通用するかは見ものだが、それが本来的な意味での「異次元緩和の縮小」でないことは確かである。

このように、22年の日銀の金融政策に関しては、米国やユーロ圏の中央銀行のように「緩和の縮小」に動いているのではないかという思惑が為替市場で浮上する素地がある。

また、参院選が終了した後には、岸田首相の言動も市場の関心事になりやすい。FRBの利上げの限界が徐々に認識される中で、そうした日銀関連の思惑も加わると、ドル/円相場が110円ラインを越えてドル安・円高方向へと動く可能性が高まると、筆者はみている。

とは言え、結局のところ、日銀の異次元緩和は22年以降も淡々と続いていくことだろう。

#アベノミクス#リフレ#金融政策

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