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日本銀行が操作対象としている長期金利が6年ぶりの水準に上昇するなど、市場金利が相次いでマイナス金利政策導入前の水準に接近している。世界的な金利上昇の傾向が続いているうえ、市場からは来年4月に日銀総裁任期満了を迎える黒田東彦氏の後の金融政策をにらんだ動きとの指摘が出ている。

  野村総合研究所木内登英エグゼクティブエコノミストは「金融市場はタイミングは不確実ながら、2023年4月に黒田総裁が任期満了を迎えた後、次の体制の下でマイナス金利が解除されるとの見方を強めているのだろう」と話す。

  長期金利の指標である新発10年債利回りが日銀の誘導目標ゼロ%から大きく上振れることは今回も含め何度かあったが、2年債利回りが短期政策金利(マイナス0.1%)を明確に上回ることはなかった。今週に入ってからの10年債利回りが一時0.185%と日銀がマイナス金利政策を導入した16年1月以来の高水準を付けたほか、2年債利回りはマイナス0.05%に達している。

  将来の短期政策金利の水準予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)2年物金利はゼロ%まで1ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)にも満たない6年ぶりの水準となっており、黒田総裁退任後のマイナス金利解除を織り込みつつある。

2年物国債利回り、2年物OISの推移

  短期金融市場に詳しいセントラル短資佐藤健司課長は、黒田総裁の任期が残り1年2カ月になり、次期総裁の下での金融政策運営が「一部の参加者に意識されている可能性がある」と指摘する。  

  黒田総裁は1月18日の金融政策決定会合後の会見で、足元の物価上昇率の高まりは持続的ではなく金融政策の変更は全く考えてないと述べ、金融政策決定会合後前に流れた早期利上げ観測報道を強く否定した。しかし、その後も長期金利は高止まりしたままだ。

  木内氏は「黒田総裁がいかに強く金融政策の変更を否定しても、その発言は23年4月以降の金融政策には影響力を持たない」と指摘。黒田総裁の「退任時期が近づくにつれ影響力は一段と低下していくことになるだろう」と言う。

安定的に2%達成まで

  黒田総裁はその会見で、安定的に2%インフレが達成されるまで「当然、金利は引き上げることは全く想定してないし、必要があればさらに長短金利を引き下げることをコミットしている」とも言明。記者が「安定的に2%が達成されるまでそうするということですか」と再質問すると、黒田総裁は「そうです」と答えた。

  日銀の声明文は2%インフレの安定的な達成までマネタリーベースの拡大方針を継続するとしており、政策金利をマイナスに据え置くことや長期金利目標をゼロ%に据え置くことは約束していない。もっとも、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、日銀による金利政策の運営について、「あくまで黒田総裁の解釈において安定的に2%インフレが達成されるまで長短金利を引き上げないというべきで、2%に達していなくても長短金利操作の下で利上げは可能だ」とみる。

  河野氏はその上で、「総裁を含め政策委員が任期を終えて交代することを考えると、コミットメントやフォワドガイダンスは文章に記載されていることが全てであり、それ以上でもそれ以下でもない」と指摘。「首相官邸の主が変わり、日銀に対する要請も変わり、総裁も交代すれば、 同じコミットメントの文言であっても当初とは異なる解釈がされる可能性がある」と指摘した。

今年1月の金融政策決定会合後の記者会見で日銀の黒田東彦総裁は、日銀が2%の物価目標を達成する前の利上げを議論しているという報道の真偽を確認する記者の質問に対して、そうした議論は全くしていないと否定した。

世界的にインフレ懸念が高まり、米国ではすでに物価が急上昇して利上げが秒読みに入り、日本でも政策等の要因を除けば消費者物価指数(CPI)が1%台後半に上昇しているといった指摘もある。デフレ脱却に専念する日銀は世界の潮流に逆行しているようにすら見える。

最近では「悪い円安」、「悪いインフレ」といった言葉まで飛び交うようになり、日銀が物価目標達成前に利上げを実施するという思惑が出てきてもおかしくない雰囲気が強まっている。黒田総裁は否定したが、日銀内ではひそかに利上げを議論しているのではないかという思惑はくすぶる。しかし、日銀は今、利上げする気など全くないだろう。

<制度上は可能な「微調整」>

なぜ、こうした思惑が出てくるのだろうか。それは、今の金融政策の枠組みでは物価目標達成前の利上げは不可能ではないからだ。

日銀が、物価目標を達成するまで続けると約束しているのは、「(長短金利操作付き)量的・質的金融緩和」の継続と、オーバーシュート型コミットメントで約束したマネタリーベースの拡大方針の継続だけだ。

つまり、この2つの約束を守っているのであれば、目標ではなくなったマネタリーベースの増加ペースを下げても問題ない。一時的であれば、減少も許容範囲だ。これは、イールドカーブコントロール(YCC)導入後からすでに日銀が続けていることであり、新型コロナ対応プログラムの収束が始まると、マネタリーベースが短期的とはいえ減少することになろう。

政策金利については、物価目標とは関連付けずに「現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している」という政策金利フォワドガイダンスを掲げている。この約束は「必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる」という約束とセットになっているので、追加利下げも辞さない日銀の姿勢を示しているとされている。

しかし、読み方を変えれば、長短金利の水準が政策金利を上回っている限りは、日銀は利下げを迫られないことになり、利下げ回避の抜け道が用意されたことになる。しかも、追加的な金融緩和措置を講じる必要性は「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視」しながら判断することになっている。

昨年12月の金融政策決定会合では、コロナショックの金融市場や経済への影響は和らいできているとして、新型コロナ対応特別プログラムの縮小を決めた。新型コロナ対応の面からの追加金融緩和の必要性が後退していることも、利上げの思惑を生みやすい要因の1つと考えられる。

<利上げは現実には不可能>

2%の物価目標を達成していなくても、利上げの可能性はゼロではない。量的・質的金融緩和を継続し、マネタリーベースの拡大方針を継続している限り、金融政策決定会合で利上げを決定することは可能だ。

先ほどの政策金利フォワドガイダンスも、利上げの可能性を否定する存在ではない。文言を素直に読めば、政策金利を引き上げても、それに合わせて長短金利水準が上昇し、政策金利を上回っていれば、問題ないことになる。

もっとも、それでは、利上げが長短金利の上昇を先導することになる。金利上昇の引き金を引いたとなれば、日銀に対する批判は間違いなく高まる。

物価が2%を超えて上昇し、長短金利が上昇し、それを受けて政策金利を引き上げるというのが、想定しうる利上げのシナリオだ。

だが、今はそういう状況ではない。黒田総裁が記者会見で否定しているように、金融政策決定会合でマイナス0.1%の政策金利の引き上げや、ゼロ%程度の10年物国債金利の誘導目標の引き上げを決定することはさすがにできない。

<ステルス利上げはあるのか>

2%の物価目標を達成する前に正攻法で利上げを決定するのは無理だが、金融政策決定会合の議論を経ることなく事実上の利上げを行う「ステルス利上げ」の可能性は否定できない。

政策金利を据え置いたままでも、イールドカーブの適正な形成を促すという名目で、小幅であれば実質的な利上げを行うことが可能だ。

かつては政策金利であった無担保コールレート(翌日物)は、あたかも誘導目標であるかのようにゼロ%をやや下回るマイナスレンジで安定的に推移している。これを、ゼロ%を中心とするレンジにシフトさせることは、金融政策決定会合の決議を経なくてもできる。

そこを起点にイールドカーブが少し立つようにすれば、ゼロ%が誘導目標である10年物国債金利は、上下0.25%の幅で変動が認められているので、プラス0.25%まで上げることができる。その場合、イールドカーブはマイナス金利導入前の水準とほぼ同じになる。

日銀にその気があれば、ここまではできるわけだが、今の日銀にこうしたステルス利上げを実施する気持ちはない。

<新型コロナ対応の収束、最重要課題に>

日銀にとって今の最重要課題は、4月から始まる新型コロナ対応プログラムの手仕舞いを滞りなく進めることだ。日銀の貸出資産やマネタリーベースの拡大に貢献してきた新型コロナ対応金融支援特別オペは、4月以降は縮小に転じてくる。

日銀の資産やマネタリーベースの前年比増加率が縮小し、マイナスになる可能性も出てくる。事実上の量的緩和の縮小が始まっているわけであり、長短金利にも上昇圧力がかかりやすくなる。

日銀は、感染症の影響が収束すれば、新型コロナ対応は手仕舞いされるべきであり、いずれ新型コロナ対応が全て終了しても、デフレ脱却のための量的・質的金融緩和の縮小を意味するものではない、と説明する。

また、マネタリーベースの減少は新型コロナ対応の収束に伴う短期的なものであり、オーバーシュート型コミットメントで約束しているマネタリーベースの拡大方針とは矛盾しないというスタンスだ。

だが、日銀の説明が正しいとしても、市場では金融緩和の後退あるいは利上げの可能性という評価や思惑が出てきやすい。そんなタイミングで利上げを検討することは、日銀にとって何のメリットもない。

10年物国債金利の変動幅の上限であるプラス0.25%は日銀にとって長期金利高め誘導のめどではない。金利上昇を容認できる上限、あるいは絶対超えさせてはならない防衛ラインのようなものだ。

日銀は、物価目標を安定的に達成するまでは、デフレ脱却を前面に押し出して、金利の上昇を抑え込んでくるはずだ。そして、金利の上昇を抑えようとしたにもかかわらず、結果として10年物国債金利が上がるのであれば、プラス0.25%までは金利上昇を容認するというスタンスだろう。

新型コロナ対応の手仕舞いが終わって、経済情勢が安定し、物価が2%の目標を達成するようになれば、金融政策の正常化が、日銀にとって次に取り組むべき課題となってくる。

その前に、利上げを模索して金利が急上昇してしまったら、金融政策正常化の道は半永久的に閉ざされてしまう。こうした状況を最も避けたいと考えている日銀が、あえて今ここで利上げしようとは全く考えてないだろう。

日銀の若田部昌澄副総裁は3日、和歌山県金融経済懇談会(オンライン形式)に出席し、賃上げのために今の日本に必要なのは経済の過熱状態を容認する「高圧経済論」だと主張した。その上で、物価目標達成前の金融引き締めは経済回復の腰折れを招きかねず、時期尚早だと語った。

<物価目標の「達成」とは>

若田部副総裁は「1カ月、あるいは数カ月間、消費者物価の前年比上昇率が2%に到達すれば、目標が達成されるというわけではない」と述べ、「基調的な物価上昇率の実績値がある程度の期間2%あるいはそれを超える水準を達成し続けることが必要だ」とした。

昨年12月の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年比プラス0.5%。若田部副総裁は、エネルギーを除くだけでなく携帯電話通信料の引き下げなどの一時的な要因も除いた基調としてみれば、プラス0.7%になっているとした。

携帯通信料の大幅値下げによる下押し効果の剥落で、コアCPIは4月以降、2%に迫る可能性があるとの見方がエコノミストから出ている。

若田部副総裁は、物価目標の達成には中長期のインフレ予想が2%に定着するかどうかが重要になると指摘。「日本では、中長期のインフレ予想はショックに対して反応しており、いまだ2%にアンカーされていない」と述べ、金融緩和の継続が適切な政策対応になるとした。

<今こそ「高圧経済論」が必要>

若田部副総裁は、金融政策の方向感の決め手として、賃金と中長期のインフレ予想が重要との考えを示した。賃金が上がるためには「経済全体の需要が増え経済が温まり、 労働市場が引き締まっていく必要がある」と指摘。かつて米国で唱えられた、経済の過熱状態を容認する「高圧経済論」を引用して「今の日本でこそ、高圧経済論を必要としている」と語った。

その上で「企業が価格を上げることができ、それによって賃金や投資が増え、賃金を受け取った家計が消費支出に回していくという良い循環を作ることが必要だ」と述べた。

<「悪い円安」論に反論>

若田部副総裁はあいさつで、昨今の「悪い円安」論に反論した。まず、交易条件悪化の要因の大部分は「外貨建てでみた原油などの輸入価格の上昇によるもので、為替の影響は相対的に小さめ」と指摘した。原油高は、石油ショックのような事態を除けば世界経済の回復局面で生じるとし「交易条件が悪化する時期には企業収益は改善する傾向にある」と述べた。

実質実効為替レートを「国力」の指標ととらえる議論に対しては「順調に経済が成長している米国やドイツなどの国の実質実効為替レートには特定の傾向がみられない」と反論した。

日本銀行の若田部昌澄副総裁は3日、新型コロナウイルス感染症からようやく経済が持ち直している現状においては、2%の物価目標達成前の金融政策の引き締めは「経済の回復の腰折れを招きかねず、時期尚早と言わざるを得ない」と語った。オンライン形式で行われた和歌山県金融経済懇談会で講演した。

  インフレ対応で海外の中央銀行が金融政策の正常化に乗り出している中で、日銀による金融緩和修正の「推測」が出ていると指摘。変動相場制の下では、中銀は自国の経済の安定化に専念するのが基本とし、金融政策の正常化には2%の物価安定の目標を「安定的かつ持続的に達成すること」が必要との認識を示した。

  日銀による金融緩和の修正観測を背景に、今週に入り10年国債利回りは一時0.185%と日銀がマイナス金利政策を導入した2016年1月以来の水準に上昇。来年4月の黒田東彦総裁の任期満了後の金融政策をにらんだ動きとの見方も出ている。

  若田部氏は「1カ月、あるいは数カ月間、消費者物価の前年比上昇率が2%に到達すれば、目標が達成されるというわけではない」と説明。日本のインフレ予想は2%にアンカー(定着)されていない上、現実の物価上昇率に影響を受ける度合いが大きいとし、「基調的な物価上昇率の実績値が、ある程度の期間2%あるいはそれを超える水準を達成し続けることが必要だ」と語った。

  金融引き締めは「賃金上昇率、予想物価上昇率がスパイラル的に上昇し、物価上昇率が目標値を上回るという2次的波及効果が生じるならば正しい対応」とも指摘。日本は「2次的波及効果も含め、インフレ予想の上昇を期待している」のが現状と述べ、「金融緩和を継続することが適切な政策対応」との見解を改めて示した。

日銀の若田部昌澄副総裁は3日、和歌山県金融経済懇談会後の記者会見で、長期金利の足元の上昇について、誘導目標ゼロ%に対してプラスマイナス0.25%の許容変動幅の枠内の動きであれば問題視せず、金融政策の修正は「全く考えていない」と述べた。

 2月3日、日銀の若田部昌澄副総裁(写真)は、和歌山県金融経済懇談会後の記者会見で、長期金利の足元の上昇について、誘導目標ゼロ%に対してプラスマイナス0.25%の許容変動幅の枠内の動きであれば問題視せず、金融政策の修正は「全く考えていない」と述べた。写真は都内で2018年3月撮影(2022年 ロイター/Toru Hanai)
若田部副総裁は午前のあいさつで、物価目標の達成には中長期のインフレ予想が2%に定着するかどうかが重要になると指摘。「日本では、中長期のインフレ予想はショックに対して反応しており、いまだ2%にアンカーされていない」とし、金融緩和の継続が適切な政策対応になると話した。

昨年12月積み期、三菱UFJ銀行の日銀当座預金の一部に初めてマイナス金利が適用された。若田部副総裁は「マイナス金利政策の副作用が顕現化しているとは思っていない」と述べ、イールドカーブ・コントロール(YCC)の修正も考えていないとした。

<危機対応の終了と「量」のコミットメント>

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて創設した資金繰り支援のコロナオペについて、日銀は4月以降、中小企業支援に特化する形で縮小する。これに伴い、これまで過去最高水準で推移してきたマネタリーベースは縮小が見込まれる。

若田部副総裁は、マネタリーベースの縮小は「危機対応の終了に伴うもので、一巡すればこれまでのトレンドに戻っていく」と説明。

消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比伸び率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するとした「オーバーシュート型コミットメント」は「中長期的に(マネタリーベースを)伸ばしていくというコミットメントだ」と述べた。

物価の上昇・下落が貨幣数量の増減に比例するとする「貨幣数量理論」については「いつの時点でも必ず成り立つわけではないが、中長期的に見ると物価と貨幣数量の関係は大事だという想定は正しいと思う」と話した。

若田部副総裁はあいさつで、賃金の上昇には経済の過熱を容認する「高圧経済論」が必要だと述べた。日銀の展望リポートでは、2023年度でも物価は2%に届かない見通しになっている。若田部副総裁は「追加緩和を否定するわけでは全然ない」とする一方、「今は議論の段階ではない」と述べた。

日銀の若田部副総裁は3日、和歌山県の経済団体などとの懇談会にオンライン形式で出席したあと、記者会見を開きました。

この中で若田部副総裁は、日銀が掲げる2%の物価上昇の目標について「原材料価格の上昇が波及する、いわゆるコストプッシュだけで目標が達成できるかというとかなり難しいだろう。企業収益や賃金がついてこない状況となり、需要に悪い影響が出てくる」と述べました。

そのうえで、目標の達成には需要を安定的に持続させることが重要で、金融緩和を続けていくことが適切だという考えを示しました。

また、日本の長期金利が今週、6年ぶりの高い水準をつけたことについて、若田部副総裁は「変動幅のプラスマイナス0.25%の枠内の動きと捉えることができるなら、これ自体を問題視することはない」と述べ、金融政策を変更する必要はないという認識を強調しました。

#アベノミクス#リフレ#金融政策