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台風15号が直撃した翌日に撮影された写真です。明かりがともっているのは道の駅です。

千葉県の南東部にある睦沢町の道の駅では停電のわずか5時間後に電気が復旧し、地元の住民などに温水シャワーを無料で提供しました。

利用者は「復旧で疲れたところに、お湯が使えたのは本当にありがたかった」と当時を振り返っています。

さらに、近くの町営住宅にも電力は供給されていました。

台風15号で、千葉県内では瞬間風速50メートルを超えるような猛烈な風が吹き荒れ、最大64万戸が停電。

復旧には2週間以上かかる大規模かつ長期間の停電となりました。

にもかかわらず、この道の駅で電力が供給できたのは、地下からの天然ガスを利用し、自家発電をしていたからです。
暴風の影響を受けない地中に専用の電線があり、町営住宅にも電力が供給できました。

睦沢町のこの地域のように、小規模で独立した電源でつくった電気を、限られたエリア内で利用することを「マイクログリッド」といいます。
再生可能エネルギーなどを活用し、電力会社からの送電がストップしても、地域内で電力を賄うことができます。

いわば“エネルギーの地産地消”です。

この「マイクログリッド」、強力な台風をはじめ近年相次ぐ災害を受けて、注目が集まっています。

北海道の釧路市阿寒地区。ここでは来年2月の運用開始を目指し、マイクログリッドの整備が進んでいます。

太陽光発電に加えて使っているのは、牛のふん尿を活用したバイオガス発電。
牛のふん尿を発酵させて取り出したメタンを活用し、電力をつくる仕組みです。

きっかけとなったのは、2018年の胆振東部地震。大規模なブラックアウトで、酪農にも被害が広がりました。

乳を搾ることができず「乳房炎」になってしまった牛が出たほか、生乳を冷やすことができずに廃棄せざるをえないケースもありました。

農林水産省のまとめによると、道内全体の酪農被害は23億円余りに上ったのです。
JA阿寒地域対策室の田中義幸室長は「酪農家に電気を流せるようなシステムができればブラックアウトの被害はなかったなというのがスタートです。エネルギーの自給自足。最終的にはこれができればいいなと思っています」と話しています。

さらに、バイオガスにするとふん尿の臭いも抑えられる、というメリットもあるといいます。

こうした「地元産」の電力、都市部では資源に限りもあるほか、供給する対象も多くなります。

そこで、台風15号の被害を受けた千葉市では、太陽光の利用を進めています。

避難所となる学校や公民館に太陽光パネルを設置するほか、合わせて蓄電池も置きます。
コストがかからないものの不安定な太陽光発電と、充電と放電ができる蓄電池の組み合わせから「黄金ペア」とも呼ばれています。

千葉市は、この太陽光パネルと蓄電池を避難所の7割近くの182か所に設置する計画で、今年度中には設置が完了する見通しです。

このほか、地元産ではありませんが、県民や企業に協力してもらい、地域で災害時の電力を確保しようという動きもあります。

千葉県で、ことしスタートしたのは、「電力ボランティア登録制度」です。カギを握るのはEV=電気自動車。

所有している企業や施設、個人をあらかじめ登録し、災害時には避難所などで電力を供給してもらう仕組みです。
登録をした横芝光町の高齢者施設では、台風15号の際、送迎用の電気自動車からケーブルをつなぎ、必要最小限の施設の明かりと、冷蔵庫や扇風機などを動かすことができたといいます。

施設ではさらに2台の電気自動車と、車の電力を家庭用に変換する機械を導入しました。

停電時により多くの設備を使えるようにするのはもとより、地域の人たちにも活用できると考えたからです。
グループホームの辻内通弘 代表は「ふだん使っている電気自動車が災害時の非常用電源にもなる。困っている人がいれば移動して電気を供給することも可能です。非常用電源の選択肢として、電気自動車の使用が広がってくれたらよいと思います」と話していました。

各地でみられる電力の“地産地消”の動き、広げるためには課題もあります。まず、地域のマイクログリッドの場合、整備費用です。

牛のふん尿を活用したバイオガス発電や太陽光発電を進めている北海道の釧路市阿寒地区の場合、ハード整備を行うための事業費がおよそ10億円です。

しかも今回対象となるのは、酪農家14棟、民家20棟、避難所1棟の合わせて35棟。

事業を進めている地元のJAは加盟する酪農家すべてに広げようと考え、試算したところ、コストが10倍近くに膨らむことがわかり、頭を悩ませているそうです。

「マイクログリッド」導入を後押しするため、経済産業省補助金の制度をつくっています。

補助金を申請したのは全国でおよそ50件ですが、採算面や送電網の課題などがあり、計画段階で頓挫するケースも少なくなく、実際に具体化しているのは10件未満にとどまっているということです。

また、千葉市で進められている避難所への太陽光発電+蓄電池の活用のためには、「設備を使いこなすノウハウ」が必要です。

実は一部の避難所では太陽光パネルと蓄電池が先行して設置されていました。台風15号の翌月、台風19号が関東を直撃した際のことです。

ある公民館では、多くの人が避難し、携帯電話などを充電している中で、突然、蓄電池が停止してしまったといいます。

夕方、太陽光が弱くなった時間帯に蓄電池の残量が不足したことが原因でした。

避難所の運営に追われる中で、利用者に節電の協力を呼びかけるなど、蓄電池を使いこなす余裕がなかったのです。

この教訓を踏まえて千葉市は、避難所ごとに設備の使い方や蓄電池の残量の確認方法などをわかりやすくまとめたマニュアルの作成などに取り組んでいます。

千葉市環境保全課の秋山智博 担当課長は「無尽蔵にある太陽の光を活用して、災害に強いまちづくりができる。平常時でも脱炭素という取り組みの中でCO2削減の切り札になる」としつつ、「急に避難してきたほうがすぐ対応として使える、マニュアルづくりも大事だ」と話しています。

電力需給のひっ迫が警報などで伝えられるようになり、エネルギー問題は急に身近になってきました。

専門家は、地域がエネルギー問題を考えることが一層重要になってきていると指摘しています。

地球環境戦略研究機関の藤野純一 上席研究員は「ウクライナ危機もあり、地域でも再生可能エネルギーを中心に、緊急時にも、平常時も使えるエネルギー源を確保していくことが非常に重要になっている。地域にとってエネルギーはこれまで、電力会社などが安定して供給してくれるものだったが、これからは地域で責任を持ってできることはやる『自助』の取り組みが必要になる。それが地域の人たちの生活を守り、ひいては国全体のエネルギー安全保障を守る上でも重要性が増していると思う」と話しています。

気候変動問題への対応や食料供給体制の確保など、農業を取り巻く課題を踏まえ、政府は農業政策の指針となる「食料・農業・農村基本法」の改正に向けて検討を進め、食料安全保障の強化や農業の持続的な成長に取り組むことにしています。

これは9日、総理大臣官邸で開かれた政府の「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合で確認されたものです。

日本の農業をめぐっては、気候変動への対応やロシアの軍事侵攻を受けた、食料の安定的な供給の確保など、農業を取り巻く課題が大きく変わっていますが、農業政策の指針となる「食料・農業・農村基本法」は、1999年に施行されてから一度も改正されることなく、20年以上が経過しています。

このため、政府は食料安全保障の強化を図るとともに、一次産業の持続的な成長を推進する必要があるとして、基本法の改正に向けて検討を進めることになりました。

改正に向けては、IT技術などを活用した成長産業化や輸出の強化、環境負荷の少ない持続可能なシステムの確立、それに食料安全保障の強化を政策の4つの柱と位置づけたうえで、現在の法律上の課題などについて検証するとしています。

強化本部の会合で、岸田総理大臣は「社会課題を解決しつつ、食料安全保障の強化と農林水産業の持続可能な成長を推進していく方針のもと、政策を大きく転換していく」と述べました。

#気象・災害