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パウエル米連邦準備制度理事会FRB)議長は米経済について、新型コロナウイルス禍による混乱を受けて「ニューノーマル(新常態)」に入りつつある可能性があるとの見解を示した。

  パウエル議長は23日、首都ワシントンでの米金融当局イベント「Fedリッスンズ」に登壇。冒頭あいさつの中で「われわれは極めて異例な一連の混乱に対応し続けている」と語った。金利の見通しや、より詳細な経済展望には言及しなかった。イベントには7人の理事全員が出席した。

  ブレイナード副議長は、物価上昇圧力の高まりが最も脆弱(ぜいじゃく)な層に特に大きな打撃を与えていると指摘。

  「所得が最も低い労働者らは、受け取る賃金の伸びも大きくなっているが、総じて見れば賃金上昇ペースがインフレ高進のペースに追いついていない。インフレは非常に高い水準にある」と言明。「誰もが高インフレの影響を受けているが、低所得の家庭や所得が一定の人々に特に重い負担がかかっているのは明らかだ」と述べた。

  イベントの最後にパウエル議長は、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)後の経済に関する経験を共有することができたとしてパネリストに謝意を表明。「ここ金融当局ではデータについて多くの時間を費やすことができる。だが個人的には、事情を理解するために実際に何が起こっているのかについて話を聞く必要があると思う」と指摘し、「われわれは本日、みなさんから多くを学んだ」と語った。

中央銀行金利を設定することによって、経済を上下に動かしてコントロールしようとする。しかし経済をどちらにも動かさない金利、つまり自然利子率とも呼ばれるニュートラルレート(中立金利)が今は重要となっている。大半の政策当局が、インフレを押し下げるためには十分高いが、リセッション(景気後退)に陥るほどは高くない水準を設定しようとしているからだ。そしてもう一つの金利連邦準備制度理事会FRB)のターミナルレート、引き締めサイクルのピークを形成する金利にも注目が一段と集まっている。

1.中立金利とは
  中立金利は理論上、景気を刺激せず、かつ抑制もしない政策金利を指す。ブレイナードFRB副議長が2018年のスピーチで述べたように、「完全雇用と安定した物価上昇率という環境で、生産が潜在成長率のペースで伸び続ける」金利水準。FRBが金融政策の指揮で使うベンチマークフェデラルファンド(FF)金利として知られる。

2.なぜ重要なのか
  理由は2つ。長期的な意味で、中央銀行は自分たちが中立金利と考える水準に政策金利をマッチさせたいと考える。しかし、中立金利は中銀が短期的に金利をどの程度にすべきかを考える際の指針にもなる。経済がフル稼働を下回るペースで動いていれば、中銀は中立金利を下回る金利によって経済成長の押し上げに寄与するのを確実にしたいと考える。逆に言えば、インフレ率が高すぎる場合、中立金利を上回る金利を維持することによって、経済のスピードを落としたいと考える。

3.FRBはその水準をどうやって分かるのか
  FRBにも分からない。しかし推計はしている。中銀の考え方では、生産性や人口動態といった要素の長期トレンドが中立金利を左右する。米連邦公開市場委員会(FOMC)が四半期ベースで中立金利の推定値を公表し始めた2012年、FOMC参加者の中央値は4.25%だった。その後10年をかけてこの水準は引き下げられ、今年7月には2.5%となった。

4.FRB当局者はなんと言っているのか
  今年のFOMCは、1980年代初期以来の高インフレを抑え込もうと積極的な利上げを続けている。FF金利の誘導目標レンジは7月に2.25-2.5%に達した。これによって引き締めサイクルは次の段階に入る準備が整い、当局者らはこの水準を上回る領域に金利を押し上げる意向を示唆した。それによって経済が減速し、インフレに下押し圧力がかかることを期待しての意思表明だった。そして9月、FF金利誘導の目標レンジは3-3.25%に引き上げられ、当局者らは年末までに4.4%に到達する可能性が高いことを示唆した。

5.どのように受け止められているのか
  2.5%のFF金利を2022年の中立金利と見なしてよいのかどうか、活発な議論があった。サマーズ元米財務長官は7月に、「擁護不可能」だと批判した。一方、オバマ元米政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたジェーソン・ファーマン氏は、サマーズ氏と反対の見方だ。ダドリー前ニューヨーク連銀総裁は推定を巡る不確実性を考慮すると、2.5%を中立金利だとする見方には「疑いの念を強めるだろう」と述べた。一部FRB当局者の発言では、インフレを加味した「実質金利」への言及が増え始めた。7月FOMCの議事要旨によれば、同会合では、戦争とコロナ禍で混乱した期間においては、短期的な中立金利が長期的な推計水準を上回ることも可能だとの見解を示す参加者もいた。

6.中立金利の推計値変更はFRBの行動をどう変えるのか
  それはまったく見通しがきかない。FRB当局者らが長期的な意味での中立金利を2.5%だと考えていたとしても、絶対にそうだという確信があるわけではない。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱やロシアのウクライナ侵攻の衝撃など、平時とは異なる環境に対応しているという自覚がある。パウエルFRB議長は8月26日にジャクソン・ホール会合で演説し、「インフレ率が2%を大きく上回って推移し、労働市場が極端にタイトな現況において、中長期の中立金利と推計される水準で終了、あるいは一服するべきではない」と述べた。インフレ率がいずれ低下すれば、FOMCは中立金利への回帰を試みるかもしれない。

7.ターミナルレートはどうなのか
  9月のFOMCで公表された四半期ごとの参加者予測中央値では、FF金利は来年末までに4.6%に上昇し、2024年末までに3.9%に押し戻され、25年末までには2.9%に低下する。これとは対照的に、1970年代に始まった狂乱インフレ時のターミナルレートは20%だった。現在のFRB当局者はこの時代の再来をなんとかして避けようとしている。当局者らが希望を託しているのは、今後数年にわたって中立金利を大きく上回る水準で政策金利を維持すれば、効果を発揮するというシナリオだ。

What Are ‘Neutral’ and ‘Terminal’ Interest Rates?: QuickTake(抜粋)

#FRB#金融政策