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「捨てる」意思決定のできない経営者は失格|冨山和彦 特別講演録|ダイヤモンド・オンライン

 産業再生機構の仕事の声がかかったのが、ちょうどその時期でした。自分の会社で苦しい思いを体験していなければ、産業再生機構の仕事を引き受ける自信は持てなかったのではないかという気がします。コンサルタント稼業をやっていた人間がこう言うのもなんですが、やはりいくら机の上で一生懸命経営の勉強をしても、それだけでは駄目なんです

 私自身もこうした苦しい体験なくしては、東京大学を出て、スタンフォード大学でMBAを取得し、会社を興して成功を収め、いわゆる挫折の経験がない人間として歩んできました。あのままであったなら、おそらくいざというときに役に立たないリーダーになっていただろうという気がします。

「キャッシュ・イズ・キング」という英語の格言があります。経営の世界では、100年、200年前から言われている言葉です。つまり、私たちが日々経営する中で頼りにしていい原理原則というのは、実は昔からそんなに変わっていないということです。200年、300年語り続けられることにこそ、真理があります。

 でも、そんなことはビジネススクールの勉強ではわからない。しょせん机上の理屈ですから、平時においては機能するが、いざ世の中の歯車がずれ始めると、今のアメリカ経済のように立ち行かなくなります。

 利か情か、人が大事かお金が大事かと、二項対立にしたがる人がよくいますが、二項対立にするのは論理的逃避です。経営というのはA&Bでしかあり得ない。カネボウの例で言えば、15年前に繊維から完全撤退する意思決定ができていれば、おそらく多くの人が雇用を失わないで済んだし、少なくとも刑事被告人を出さずに済んだはずです。

 ただし、当時はまだ余裕のある時期ですから、そこで撤退を決めると、何でそこまで苛烈なことをやるんだ、まだまだチャンスをくれたっていいじゃないかと反対する人間が必ず出てきます。一生懸命やっている人ほど、そう思います。しかし、まだ余裕のあるうちでないと、リストラはできないんです。

 日々前進するということは、自己改革するということなので、何かを捨てて何かを手に入れているんです。新陳代謝とはそういうことです。私たちは日々老いていきます。若い人は日々成長していきます。お客さんも変わっていきます。競争相手も変わっていきます。変わらず収益を確保し、成長していこうと思ったら、いろいろなものを捨てないと前に進めないんです。