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日本電産社長 永守 重信氏

 「十一月中旬に入り、八千八百社の納入先すべてで受注が落ち込んだ。特に海外の顧客は『キャッシュ・イズ・キング』と言って年末の決算に向けて在庫圧縮に走り、次々と発注先送りやキャンセルをしてきた。十二月中旬にさらに落ち込み、一週間後に業績修正を決断した」
 「十二月の全製品の売上高は直近のピークだった九、十月の五割強の水準となった。落ち込みの半分は需要減によるもので、もう半分は在庫圧縮が要因だと思う。早ければ二、三月に戻るかもしれないが、それでも在庫圧縮分にとどまるだろう」

「黒字を維持できるか、赤字に陥るかが企業存亡の分かれ目だ。一九三〇年ごろの世界恐慌に関する書物をむさぼり読んで考えた十二項目の不況対策指針を今月一日に社内に出した。在庫圧縮などはもちろん、人命、健康、法令順守に反すること以外は、すべてでコスト削減を徹底するよう指示した」
 「製造業では一般に工場の稼働率が七割程度を下回ると赤字だが、五割でも黒字を出せる体質にする。タイ工場の、ある製造工程では、四月に訪問した時は作業員数を五十人から二十人に減らし、もう限界だと説明を受けたが、最近は十人に減った。危機に直面すると収益改善策が次々に出てくる。体質改善しておけば景気回復時に刈り取れる。世界恐慌を生き抜いた半数の企業はその後、飛躍的に成長した」

 「M&A対象の軸足を赤字企業から黒字企業へと移したばかりだったが、ここにきて赤字企業の案件が持ち込まれ始めた。いずれも過去に買収を提案し、断られた企業だ。不況で不振企業が増え、買収額も下がっているため、来年は再び救済型のM&Aに取り組んでいく。M&Aに対する意欲は変わっていない」

 「不況対策指針では『雇用は天守閣』と定めた。正社員の雇用は守るという従来の方針は変えない。人員削減で目先の収益が改善しても景気回復時の収益拡大は遅くなる。新卒採用についても、優秀な人材なら計画を大幅に超えてでも採用したい」

(遠藤淳)
 不況に直面した永守重信社長の口調はいつになく厳しい。「風がなくても凧(たこ)を揚げる」と好不況によらない成長を続けてきた日本電産も今や「暴風雨で糸が切れないよう必死に支えている状態」という。だが、視線は経済危機の先を見据えている。特に期待するのが環境対応車向け市場。ガソリン車に比べ電気自動車のモーターの搭載個数は二倍、金額は五倍という。不況にあっても買収戦略を堅持。危機を乗り越えれば、日本電産は成長の足を一段と速める可能性もある。

日経新聞朝刊)