正規の講義が終わり、法科大学院のカフェテリアで学生たちを交えたコンパの場で、升永は米国留学時代に受けた2つの衝撃を我々に披露してくれた。その1つは、米国の証拠資料開示に対する姿勢だ。
自分たちに不利な資料であっても、それを隠すということは、絶対にしてはならないということを升永も知っていた。
そうはいっても、不利な資料は隠したくなるのが人の常。升永は共同代理人の米国の弁護士に、隠そうかと相談したところものすごい剣幕でしかりつけられた。法廷侮辱だとも言う。
そこで、出すことは出すが膨大な資料の中に紛れさせた。ところが相手方の米国弁護士は部屋一杯ほどの書類の山から、隠していた1枚の証拠資料を見つけ出したのである。
その徹底ぶりに、米国の根幹である正義とフェアネスの精神を守り抜く気概を升永はそこに感じた。