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(第11回)日本のマクロ政策、金融緩和と緊縮財政(1) | コラム・連載 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン

 前号で述べたように、日米間には物価上昇率の差があり、それを反映して名目金利の差があった。この状態では、金利差(または物価上昇率の差)に等しい率で徐々に円高が進行し、金利差による利益は打ち消されるはずである。したがって、円からドルにキャリーしても、利益は得られない。


 円キャリーは「そうした円高にならない」ことを前提とした投機取引だが、それはマーケットの自然な動きに逆らおうとするものだ。

 現実の為替レートの動きを見ると、1995年までは理論どおりに円高が進んだ。外国為替市場は正常に機能していたわけだ。この状態では、円からドルにキャリーしても、利益は上がらなかった。


 ところが、円高のために輸入が増大した。下図に示すように、実質純輸出の対GDPは低下し、マイナスになった。そのため為替介入が行われたのである。つまり、市場の自然な動きを止めたわけだ。

 為替介入は、その後も続いた。特に大規模な介入が2003年に行われた。この年の介入額は、実に20兆円を超えた。変動相場制では、本来外貨準備は必要ないのだから、異常な介入だ。

 これは、円キャリーへのゴー信号となる。本来キャリー取引は投機的なものだが、「円高になれば日本政府が介入して阻止してくれる」とわかったからだ。


 したがって、安心して円キャリーができる。こうしてマーケットメカニズムが死んだ。「円高犬」は眠り薬を飲まされたわけである。政府自身が円キャリーを行ってアメリカのバブルをあおったとも言える。

 円高犬が実際に吠えていたら、旧来の輸出産業は採算が取れなくなり、日本の産業構造は変わっていたはずである。小泉内閣が行った経済政策の本質がここにあった。


 つまり、中国の工業化という世界経済の大きな変化に対して、日本経済が変革するメカニズムをつぶしたのである。

 ところで、この期間、財政面では緊縮財政が行われた。とりわけ公共事業が減額された。GDPの構成要素を見ると、前ページ図に示すように、この間に外需(純輸出)と内需(公的固定資本形成)の入れ替えが、ほぼ1対1の関係で起こっていることがわかる。


すなわち90年代後半まで、公的資本形成の対GDP比は8%程度であり、純輸出の比は1%未満だった。ところが、前者は傾向的に低下を続けて、08年には3%台になった。それに対して、後者は傾向的に上昇を続け、08年には5%を超えた。

 こうしたマクロ経済政策の効果は、教科書的な「IS―LMのモデル」で分析することができる(開放経済でのIS―LMモデルは、「マンデル=フレミング・モデル」と呼ばれる)。

 標準的なマンデル=フレミング・モデルでは、以上のように、金融緩和によって利子率がいったんは国際水準より低下するが、その後有効需要の増大にともなって上昇し、資本流入が起きて円高が進むとされているのである。


しかし、実際には、為替介入によって、この段階が阻止された。そして、マンデル=フレミング・モデルの予測とは異なり、利子率が国際水準より低く、円安になった状態が継続した。このため輸出が増大し続けたのである。

 では、財政拡大と金融緩和が同時に行われていたとしたら、何が起こったろうか。


 財政支出だけだと利子率が上昇するが、金融緩和を同時に行えば利子率上昇を吸収できる。すると、利子率不変で実質為替レート不変、貿易不変で、財政支出の増加分だけ有効需要が拡大する。その結果、国内に資本蓄積がなされ、国民生活の水準は向上しただろう。内需拡大型の経済成長」とは、このようなものである。


 しかし、実際には、財政が縮小したので、そうはならなかった。その代わりに、上で述べたように、外需と内需の入れ替えが顕著に生じたのである。

 公共事業が圧縮されたのは、それまでの経済政策の反動でもある。すなわち、80年代には地方部への公共事業によって地方に資金を流したのだが、それが無駄な投資であり、政治的な癒着を生んでいるという意見が強くなった。そうした側面があったことは、事実である。そうした傾向を抑制したのは、意味があることだったと思われる。


 しかし、「公共事業は地方に無駄な道路やダムを造ることだけ」というのは、あまりに単純化された見方だ。日本国内の生活基盤施設は遅れているし、将来の高度知識産業のために都市基盤を造る必要もある。しかし、こうした投資も一緒に否定されてしまったことになる。

 国内に社会資本や住宅という資産を蓄積せず、アメリカに資源を流した。対外資産を蓄積はしたものの、その後の円高によって大きな損失をこうむった。したがって、結果的には、おろかな資産蓄積をしたと言わざるをえない。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090403#1238735523