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〔円高の行方〕日本経済は踊り場の一歩手前、為替のための政策は必要ない=渡辺元財務官

  ──世界経済の減速感が強まっている。現状認識は。

 

 「米国は財政刺激と個人消費が落ちなかったことで比較的良い状態で来ていたが、ここにきて少し足踏みしている。最大の問題は雇用が伸びないこと。米国が景気刺激をこれからどれだけ続けるかだが、アフガンやイラクから手を引くことで若干軍事コストがかからなくなった分で維持できるかどうかにかかっている」
 

 「日本は比較的アジア全体が良かったことを受け輸出が好調だった。アジア全体は(まだ)比較的良いが、それが直接、日本の輸出につながらなくなっている。このため二番底はないと思うが、踊り場の一歩手前の状況になっている。欧州は思ったより堅調に推移している。ただ欧州については、ユーロ安が(堅調推移の)背景にあるが、域内では格差が拡大。オランダやドイツなどは輸出が伸び良好だが、スペインやギリシャのように域内の観光収入に依存する国にとってメリットはない。域内の南北問題について考える必要があると考え出している」

 

 「全体として、2010年前半は米国、日本が良かったが、両方が少しずつ減速していく。それに対して、どん底と思われた欧州が比較的上がっていくということで、日米欧が同時に同じ方向にドンと落ちるこはないとみている。クッション効果がある」

 

 

  ──米国は日本型デフレへのを警戒を深めているのか。

 
 「日本型デフレに陥るかどうかは別にして、雇用が回復しない、GDPギャップが必ずしも縮まらないことをFRBも認識している。ここ数カ月はデフレの問題を認識し、日本型デフレを気にしている」

 

 「欧州でも日本の問題について、財政赤字(が問題とする見方)からデフレ(が問題とする見方)に動きつつあるように思う。ただ、欧州では財政の安定が最大の関心事で、米国に何と言われようと大規模な財政出動を続けるつもりはない。欧州で最近付加価値税の税率を上げた国は2つ。ドイツとイギリス。いずれも連立政権だ。最低限のことは政府としてやり続けるということをメッセージとして出し続ければ、あとは民間が動く。ここが米国や日本と違うところだ」

  

 

  ──日本のリスク要因は。

 

 「リスク要因は今の円高だが、85円を一度仕掛けたので、さらに突っ込むとは思っていない」
 

 

 ──諸外国からも日本の長期デフレが懸念されるなか、日本の政策対応は。

 

 財政出動も必要なときはやらなければならないと思うが、海図がないなかでやっているから皆が不安に思う。先行きについての青写真、海図もないままに動いている。青写真を示し、その過程で経済がうまくいかなければ追加的財政出動もする。場合によっては、抜本的な税制措置の実施時期を変更することも(考えればよい)」

  

 

  ──日本こそ政策対応を急ぐべきではないか。
 

 「急ぐべきだ。急ぐべきだが、中期と短期(の対応)を同時並行的にやらなければいけない。しかし、参院選での煮え湯があり、(中期の問題に対しては)やらなければいけないと思いながらできていない。欧州では、大連立のときにいろいろなことをやっていた。増税の話は絶対やってはいけないというメンタリティーがあると、極めて場あたり的になる」

 

  ──最近の円高の背景は。

 

 「海外は今のところ、ユーロとドルがオーバーウエートになっているのを解消するまで、とりあえず目をつぶって円を買っているが、オーバーウエートが解消したと思えば日本経済が良いとは誰も思っていないので、そのうち反転がくる」

 

 「勢いで85円割れまでいったが、ここからズルズルと80円までいって年末を迎えるかというと、そうならないのではないか。日本のファンダメンタルズに対して、信頼感を持っているわけではない」
 

  ──円高で政策的に対応しなければならない状況ではないとの認識か。

 

 「為替のためには必要ない。しかし、長期のファンダメンタルズのためには何かやらなければならない。極端なことを言えば、日本経済が本当に強くなっていれば、85円だろうと80円だろうと構わない。今のように、日本の国内需要や産業政策の方向感がはっきりしないなかで、何かアジアに対する輸出で食べなければいけないとなると円高が非常にマイナスに効く。別の方法があるということさえきちんと示せれば、円高恐怖症はなくなる」

 

  ──介入の必要性はないと。

 

 「ノーコメント」
 

 ──欧米も輸出主導の回復を志向している。協調介入を取り付けるのは難しい。

 

 「行き過ぎが起きれば通貨安の国も困る。相対的に安いと思っていたレベルから奈落の底に落ちることもあるとすると安いことが良いのか見極める必要はある。円が独歩高という状態なのか、自分の国の通貨がなんらかの理由で弱くなっているのかという認識をもつかということだろう」

  

 「基本的に何かアクションとるときは、中期1─2年のトレンドを見て議論するのであって、日々の動きで議論をすることはない。為替介入には3種類あって、ひとつは救済介入。ユーロが0.8ドルを割りそうになった2000年9月の介入の時。このままいくとユーロが崩壊するかもしれないとして手を入れた。『9.11』の後に、米金融システムの崩壊懸念から行ったドル買い支えが典型としてある。2番目はスムージングオペレーションで毎日3─4円も対ドルで飛び跳ねたり、ドルとユーロで言えば、0.05ずつ飛び跳ねるようなことが起こったとき、どうするかは考えなくてはいけない。最後の水準設定のための介入というのは誰も考えたことはないしできるわけもない」

 

 「今はスムージングオペレーションといっても、ほとんど86円程度で1円の範囲内で動いている。極めて安定的なマーケットだ。ここ数年、1日3円飛ぶようなことが不思議ではなくなっている中で、きわめて安定的だ。(今の為替動向は)極めて高値安定推移している。これが一転85円を割った瞬間雪崩を打って80円に行くとか、トリガーがあってそこを超えた瞬間に一挙に3円ぐらい飛ぶ状態になっているかどうかということを見ながらやらないといけない。今はどれにも当たらないということ」
 

  ──単独介入は協調介入ほど効果がないとみられる。

 

 「スムージングオペレーションは単独介入でも全くかまわない。3円も動いているときは、お灸をすえる意味で、やらないと思っていた人が動けばサプライズで懲りる人は出てくる。ジワジワ上がってくるものに対していくらひしゃくで汲み上げても仕方ない。いたずらしている人に何かするのはありうる。ただ、やるときにはそれなりの覚悟がいる。そういう覚悟を認識してやってもらうということ」

 

  ──金利差の縮小が円高の背景にある。日銀の対応も必要ではないか。

 

 「(金利差縮小は)あてつけの理由だ。これ以上日本の金利が下がるのか。一方で、長期金利をこれ以上下げて本当に良いのか。3.5%が4.0%に戻るときと0.5%が1.0%に戻るのは全く意味が違うことを日本は経験している。1%割れしている長期金利を無理やり下げる方策をとること自体は、次のステップに行くときに、リパーカッション(影響)が大きい」
 

  ──影響が大きいとは。

 

 「保有主体が個人や事業法人なら構わないが、金融機関がもっているため。ロスが特定の部分に集積し、間接金融の一番悪いパターンになっていく恐れがある。金融の仲介機能を果たさなければならないところにロスが生じることが前回起きた」

 

  ──現在のような市場動向であれば、介入や日銀の金融緩和は必要ない。

 

 「為替のために何かやる必要はない。経済政策を何かやるというのは必要だ。為替は単にインディケーターなので、特段為替のためにすべての政策を考えるのは本末転倒だと思う」

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100814#1281787569
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100812#1281570392
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100812#1281613005
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100811#1281525520
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100811#1281525522
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100809#1281353146