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【次代への名言】非常の師弟編(42)

「女の中年から以後へかけての変りかたは、いはば一生のおのが姿の締めくくりとも云へる」(幸田文(あや))

 「おまへのいま苦しがつてる境界(きょうがい)なんかは、おれが若いときに文章にしておいた。ちつとはおれの書いた本も読んでみてくれよ」。

文は結婚後、「よろめいた」ことがあり、ある冬の日、山林のふもとであいびきをした。


 翌日、露伴に呼ばれた。父は知っていた。畳の上に寝そべったまま、あいびき場所の風景を「文学的に」描写してみせ、上目遣いに「そんなに、その男が恋しいかね」。文は「全く恥しくて赤面の至りで、何かすーとしてつきものが落ちたような感じでした」と語っている。

 さて、文の随筆『雑話』によれば、娘時代までは女性はみな「すばらしく咲き出づる花」。そして「とりわけ何といふこともなく眼安く」、娘から妻またはキャリアウーマンへと移行する。30を過ぎた主婦には落ち着きが、仕事のある女性には幅が出て、それぞれに「美しい」。


 冒頭のことばにいう「中年」とは、そんな美しさにかげりの出てくる40代以降のことだ。