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特集ワイド:この夏に会いたい/7 漫画家・手塚治虫さん

 「アトムについては、原子力関係の方からキャラクターとして使いたい、という話がずいぶんありました」。新宿区高田馬場、アトムの石像が正面玄関で出迎えてくれる手塚プロダクションの一室でこう語るのは松谷孝征さん(66)。出版社の「手塚番」編集者から、マネジャーとして73年に手塚プロ入社。85年からは社長を務める。最晩年に至るまでの手塚さんの仕事ぶりを知る人物だ。「でも、手塚は『原発は安全性が確立されている技術ではない。まして人間が管理している。人間は間違いを犯すものだ』と言って、原発関係は一切断っていました」

 父の死後、その膨大な作品に改めて触れ、「手塚治虫の世界」への認識を新たにした。「父の作品には、人間が欲望を追求するあまり、科学技術の扱い方を誤り、大きな悲劇に直面する世界が繰り返し描かれている」と語る。

「来るべき世界」で核戦争後の世界を、「ジャングル大帝」で環境問題を、「ブラック・ジャック」で公害を−−手塚作品が世の中に問うてきたテーマは多岐にわたる。深刻な題材をエンターテインメントとして描き、漫画の質を、文学や映画と同等、あるいはそれ以上に高めた。

 手塚さんは、著書「ガラスの地球を救え」の中で、次のように記している。


 <先端の科学技術が暴走すれば、どんなことになるか、幸せのための技術が人類滅亡の引き金ともなりかねない、いや現になりつつあることをテーマにしているのです。(略)十万馬力の正義の味方『鉄腕アトム』も、科学至上主義で描いた作品では決してないことは、よく読んでいただければわかることです>


 感情を持ちながら人間になり切れず、それでも人間の味方としてロボットと戦う。この疎外構造を、手塚さんは「アトムの哀(かな)しみ」と表現した。「死の灰を降らせるな」と非難されたアトムが「ボクは正義の味方だと思っていたのになあ」と悲しげにつぶやく−−85年にはそんな一コマ作品まで描いた手塚さん。